せっかく丁寧に生地をこねて発酵させたのに、いざオーブンに入れようとしたら食パン型の蓋が閉まらないと焦ってしまいますよね。無理に閉めようとすると生地を傷めてしまい、理想の角食パンから遠ざかってしまうこともあります。食パン作りにおいて、蓋の問題は初心者からベテランまで直面しやすい悩みの一つです。
この記事では、食パン型の蓋が閉まらない原因と具体的な対処法について詳しく解説します。生地の量や発酵のタイミングなど、ちょっとしたポイントを見直すだけで、驚くほどスムーズに作業が進むようになります。パン作りの失敗を減らして、毎日のおうちベーカリーをより楽しい時間にしていきましょう。
食パン型の蓋が閉まらない主な原因と基本的な対処法

食パン作りで蓋がスムーズに閉まらない場合、そこには明確な理由がいくつか隠れています。まずは冷静に、何が原因で蓋の動きを妨げているのかをチェックすることが解決への第一歩となります。
生地の量が型のサイズに対して多すぎる
蓋が閉まらない最大の理由は、単純に生地の量が型の容量を超えていることです。レシピ通りに作っていても、粉の種類を変えたり副材料を加えたりすることで、生地の膨らみ方は大きく変わります。特に強力粉のタンパク質量が多いものや、砂糖やイーストが多い生地は力強く膨らむ傾向があります。
もし生地が型の縁ギリギリまで、あるいは縁を超えて膨らんでしまっているなら、それは明らかにオーバーボリュームです。この状態で無理に蓋をスライドさせると、生地の表面を削り取ってしまい、焼き上がりの表面がボロボロになる原因になります。次からは、後述する計算式を用いて型の容積に合った正確な生地量を算出することが大切です。
対処法としては、生地の一部を切り分けて別の小さな型で焼くか、今回は蓋をせずに「山型食パン」として焼き上げるのが賢明です。無理な力が加わらない状態で焼くことで、パンのキメも整いやすくなります。自分の持っている型の「適正量」を把握することが、失敗を防ぐ近道となります。
二次発酵(仕上げ発酵)の時間が長すぎた
パン作りにおいて「見極め」は非常に難しい工程ですが、蓋を閉めるタイミングを逃すと蓋が閉まらない事態を招きます。二次発酵の目安は、一般的に「型の8割から9割」まで膨らんだ時ですが、油断しているとあっという間に型の高さを超えてしまいます。特に夏場や室温が高い日は、発酵のスピードが予想以上に早まるため注意が必要です。
発酵が進みすぎると、生地の中にガスが溜まりすぎて不安定な状態になります。この時に慌てて蓋を閉めようとすると、蓋が生地に引っかかってスライドできなくなります。「あと少しで型の上まで来る」という一歩手前で蓋を閉める準備をするのが、スムーズに作業を終えるためのポイントです。
もし発酵しすぎてしまった場合は、無理に押し込まずに、蓋の裏側に薄く油を塗ってから優しく閉めてみてください。それでも抵抗がある場合は、ガス抜きを兼ねて少し指で端を押さえる方法もありますが、基本的には発酵時間を少し短めに設定して早めに対応するのが理想的です。
型の溝に汚れや油が固着している
意外と見落としがちなのが、食パン型そのもののメンテナンス不足です。食パン型には蓋をスライドさせるための細い溝がありますが、ここに古い油やパン生地のカスが炭化してこびりついていると、蓋が途中で止まって閉まらなくなります。何度も使っている型ほど、目に見えない汚れが蓄積しているものです。
特に、型離れを良くするためにバターやショートニングを塗っている場合、それらが熱で酸化し、ネバネバした汚れに変化することがあります。これが溝に入り込むと、驚くほど蓋の滑りが悪くなります。対処法としては、ぬるま湯と中性洗剤を使って溝の中まで丁寧に洗浄し、しっかりと乾燥させることが基本となります。
また、型の変形も原因の一つです。落としたりぶつけたりして型がわずかに歪んでいると、蓋がスムーズに通りません。洗浄しても改善しない場合は、型の歪みをチェックしてみてください。ストレスなくパン作りを続けるためには、道具のコンディションを常に整えておくことが非常に重要です。
水分量や配合による生地の質感の違い
レシピによって水分量(加水率)が高い生地や、生クリーム、卵をたっぷり使ったリッチな生地は、非常に柔らかくベタつきやすいのが特徴です。このような生地は、発酵時に型の壁面に張り付きやすく、それが抵抗となって蓋が閉まりにくくなることがあります。生地が型の縁に付着していると、蓋が滑り込むスペースを塞いでしまうのです。
特に高加水の生地は、蓋を閉める瞬間のわずかな振動でも形が崩れやすく、蓋に生地が吸い付くようにくっついてしまうことがあります。このような配合のパンを焼くときは、通常よりも早めに蓋を閉めるか、型の内側だけでなく蓋の裏面にもしっかりと油脂を塗っておく必要があります。
また、全粒粉やライ麦を混ぜた生地は膨らみが控えめになる一方、生地のキメが粗くなりやすいため、蓋との摩擦が大きくなるケースもあります。配合を変えたときは、いつものタイミングが通用しないことを想定し、生地の状態をこまめに観察することが「閉まらない」トラブルを防ぐ鍵となります。
型に合わせた適正な生地量の計算方法

食パン型の蓋が閉まらない問題を根本から解決するには、自分の持っている型に対して「何グラムの生地を入れるのが正解か」を知る必要があります。感覚に頼るのではなく、数値で管理することで安定したパン作りが可能になります。
「容積」から割り出す基本的な考え方
まずは自分の持っている食パン型の容積(何ミリリットルの水が入るか)を確認しましょう。メーカーの仕様書を見るのが一番確実ですが、わからない場合は型に水をなみなみと注ぎ、その水の重さ(1g=1ml)を測ることで容積を知ることができます。この容積こそが、パンが膨らむことができる限界のスペースです。
計算式は非常にシンプルで、「型の容積 ÷ 比容積 = 適正な生地量」となります。ここで重要になる「比容積(ひようせき)」とは、生地1gあたりがどれくらいの体積まで膨らむかを示す数値です。角食パンの場合、一般的には「3.8〜4.0」程度の数値がよく使われます。例えば1000mlの型であれば、1000÷3.9≒256gといった具合に導き出せます。
この数値を把握しておけば、新しい型を買ったときでも迷うことがありません。レシピの分量をそのまま使うのではなく、自分の型のサイズに合わせて計算し直すことが、蓋が閉まらないトラブルを未然に防ぐ最も確実な方法です。少し面倒に感じるかもしれませんが、一度計算しておけばずっと役立ちます。
【生地量の計算例:1斤型の場合】
1. 型の容積を測る(例:1200ml)
2. 比容積を決定する(例:角食パンなら3.9)
3. 1200 ÷ 3.9 = 約307g
※この場合、分割後の総生地量を307g前後に調整すると、きれいに蓋が閉まり角がしっかり出た食パンになります。
理想的な「比容積」を知ってパンのキメを整える
比容積の数値を変えることで、焼き上がりの食感や見た目をコントロールできます。角食パンを焼く際、比容積を小さく(例えば3.7など)設定すると、生地の量が多くなるため、型の中で生地が強く圧縮されます。その結果、気泡が細かく、ずっしりとした密度の高い食パンに仕上がります。
逆に比容積を大きく(例えば4.2など)設定すると、生地の量が少なくなるため、ふんわりと軽い食感になります。しかし、比容積を大きくしすぎると、蓋に生地が届かずに角が丸くなってしまい、いわゆる「ホワイトライン」が太すぎるパンになってしまいます。蓋が閉まらないと悩んでいる方は、まずは比容積3.9〜4.1あたりから試してみるのがおすすめです。
生地の種類によっても最適値は異なります。例えば、糖分や油脂が多いリッチな生地は膨らむ力が強いため、比容積を少し大きめに見積もっても蓋が閉まらなくなることがあります。自分の好きな食感と、型への収まりの良さのバランスを見つけることが、理想の角食パン作りへの近道です。
型の素材や形状による膨らみの差
実は、同じ容積の型でも、素材によって生地の膨らみ方や蓋の閉まりやすさが微妙に異なります。熱伝導が良い「アルタイト製」の型は、熱が素早く均一に伝わるため生地の伸びが良く、発酵の最終段階での持ち上がりが力強いのが特徴です。そのため、計算上の数値よりも膨らみすぎたと感じることがあります。
一方で、シリコン加工やフッ素樹脂加工が施された型は、型離れは非常に良いですが、アルタイトに比べると熱の伝わりが穏やかな場合があります。また、型の形状が「正方形」なのか「長方形」なのかによっても、生地の対流が変わり、上部への圧力が変わります。長方形の型は生地が横に伸びやすいため、蓋への干渉が比較的緩やかになる傾向があります。
新しい型を使い始める際は、前述の計算式で出した数値で一度焼いてみて、その結果をメモしておくことが大切です。もし蓋が閉まりにくかったのであれば、次回は生地量を5〜10g減らすといった微調整を行いましょう。道具の個性を理解することで、蓋の問題は自然と解決していきます。
1斤・1.5斤・2斤それぞれの目安量
一般的な食パン型のサイズごとの目安を知っておくと、計算の助けになります。ただし、メーカーによって「1斤」の定義には幅があるため、あくまで目安として参考にしてください。一般的に、1斤型(容積1200〜1300ml程度)であれば、分割後の総生地量は300gから340g程度が適正範囲とされています。
1.5斤型(容積1900〜2000ml程度)なら450gから500g前後、2斤型(容積2500〜2600ml程度)なら600gから680g前後が一般的です。もしお手元のレシピの総重量がこれらの目安を大幅に超えている場合、それが蓋が閉まらない原因である可能性が高いと言えます。特にお店で購入した型ではなく、百円ショップなどで購入したミニ型などは容積が特殊なため注意が必要です。
以下の表に、一般的な食パン型のサイズと適正生地量の目安をまとめました。自分の持っている型と比較してみてください。
| 型のサイズ | 一般的な容積(目安) | 適正生地量(比容積4.0の場合) |
|---|---|---|
| 1斤型 | 1200ml | 300g |
| 1.5斤型 | 1900ml | 475g |
| 2斤型 | 2500ml | 625g |
最近の高級食パンレシピなどは水分量が非常に多く、生地重量が重くなりがちです。その場合は比容積を3.8程度にして計算し、少し多めの生地量で調整するとバランスが良くなります。
蓋を閉めるタイミングを見極めるポイント

生地量が適正であっても、閉めるタイミングが遅すぎれば蓋は閉まりません。逆に早すぎると、角が丸い物足りない見た目になってしまいます。完璧な角食パンを作るための、絶妙なタイミングの見極め方をマスターしましょう。
理想は型の「8割から9割」まで膨らんだとき
角食パン作りにおいて、蓋を閉める最も理想的なタイミングは、生地の一番高い部分が型の縁から1cm〜1.5cm下に来たときです。これを「8割から9割の発酵」と呼びます。この状態で蓋を閉めると、オーブンに入れたあとの「オーブンスプリング(熱による急激な膨らみ)」で生地が蓋まで到達し、美しい四角形になります。
もし型の高さギリギリまで発酵させてしまうと、蓋をスライドさせる隙間がなくなってしまいます。また、蓋を閉める際に生地の表面を引っ掛けてしまい、そこからガスが抜けて焼き上がりの形が崩れる原因にもなります。「少し早いかな?」と感じるくらいが、実は蓋をスムーズに閉めるためのベストタイミングなのです。
発酵の終盤は、数分目を離しただけで一気に膨らみます。特に二次発酵の後半はオーブンの予熱も完了させておき、いつでも蓋を閉めて投入できる準備を整えておきましょう。この少しの余裕が、蓋が閉まらないトラブルを防ぐ最大の防御策となります。
室温や湿度による発酵スピードの変化に注意
パン生地は生き物ですので、環境によってその動きは大きく変わります。夏場の暑い時期や、加湿器を使っている冬の室内では、酵母の活動が非常に活発になります。いつもと同じ時間でタイマーをセットしていても、気づいた時には蓋が閉まらないほど膨らんでいた、という失敗はよくある話です。
特に気温が30度を超えるような日は、発酵器を使わなくても室温だけでどんどん膨らみます。このような条件下では、目安の時間の7割程度が経過した時点で一度状態を確認する癖をつけましょう。逆に冬場で室温が低い場合はなかなか膨らまず、無理に蓋を閉めても角が出ない残念な仕上がりになってしまいます。
発酵の状態を確認するときは、型の真横から覗き込むだけでなく、蓋を少しだけ被せてみて、あとどれくらいで接触するかを物理的に確認するのも一つの手です。時間ではなく、あくまで「生地の高さ」を見て判断することが、蓋の問題を解決する唯一の方法と言っても過言ではありません。
生地を傷めずに蓋をスライドさせるコツ
いよいよ蓋を閉める際、ちょっとしたテクニックでスムーズに作業ができます。蓋を閉めるときは、片手で型をしっかり固定し、もう片方の手で蓋を水平に保ちながらスッと一気に滑り込ませます。このとき、おどおどして途中で止めてしまうと、蓋の縁が生地に食い込み、閉まらなくなることがあります。
もし生地が少し高くなっていて蓋に当たりそうな場合は、蓋の裏側にショートニングやオイルスプレーを軽く塗っておくと、生地が滑って逃げてくれるため、引っかかりにくくなります。また、蓋を閉める直前に、型の端の方にある生地を指先で優しく中央に寄せるようにして、スライドするルートを確保するのも有効な手段です。
ただし、生地を強く押し潰すのは厳禁です。せっかくの発酵で得られた気泡が潰れ、焼き上がりが硬くなってしまいます。蓋がどうしても重いと感じるときは、無理をせずにそのまま焼き、次回の生地量や発酵時間を調整するためのデータとして活かしましょう。道具と生地の「対話」を楽しみながら、コツを掴んでいってください。
早すぎても遅すぎてもいけない理由
「閉まらないのが怖いから」と言って、あまりに早い段階(型の5〜6割程度)で蓋を閉めてしまうのも問題があります。蓋を閉めたあとも型の中では発酵が進みますが、オーブンに入れるまでの時間が長すぎると、蓋の裏に生地が張り付いてしまい、焼き上がった後に蓋が開かないという別のトラブルが発生する可能性があるからです。
逆に遅すぎる場合は、この記事のテーマ通り、蓋が閉まらないストレスに見舞われます。角食パンの醍醐味である「ホワイトライン(真ん中に走る白い線)」と「エッジの効いた角」は、適切なタイミングで蓋を閉め、適度な圧力で焼き上げることで初めて生まれます。早すぎると角が丸くなりすぎ、遅すぎると角が鋭角になりすぎてパンにストレスがかかります。
この絶妙なバランスを取るためには、やはり経験が必要ですが、まずは「型の縁から1cm下」を絶対的なルールとして守ってみてください。このルールを基準にして、自分のレシピやオーブンの特性に合わせて調整していくのが、最も効率的な上達方法です。
型のメンテナンスとスムーズな開閉のコツ

パン生地の状態だけでなく、道具側の準備も蓋のスムーズな開閉には欠かせません。新品の型を使い始めるときや、長く愛用している型のお手入れ方法を見直すことで、蓋が閉まらないストレスを劇的に減らすことができます。
空焼き(からやき)の重要性とやり方
特に新しく「アルタイト製」の型を購入した場合、最初に行う「空焼き」がその後の使い心地を左右します。空焼きが不十分だと、油が馴染まずに生地が型に張り付き、それが蓋の開閉を妨げる原因になります。空焼きは、型の製造時に付着している機械油を焼き飛ばし、油の膜を作って型離れを良くする作業です。
具体的な方法は、まず型を洗わずに(または軽く拭いて)150度程度のオーブンで20分ほど加熱します。その後、一度取り出してショートニングやサラダ油を薄く塗り、再度220度〜240度で20分ほど焼きます。この作業を1〜2回繰り返すと、型が黄金色になり、油の被膜が形成されます。この被膜があることで、蓋が驚くほどスムーズに動くようになります。
最近は空焼き不要の加工型も増えていますが、「最近蓋の滑りが悪いな」と感じたら、一度しっかり洗浄してから薄く油を塗って低音で加熱するメンテナンスを行ってみてください。油の馴染みが復活し、新品のような滑らかさが戻ってきます。道具を育てる感覚でお手入れを楽しみましょう。
油を塗るタイミングとおすすめの油脂
蓋が閉まらないトラブルを防ぐためには、焼成前に塗る油の種類と方法も重要です。バターを使うと風味が良くなりますが、バターに含まれる水分や乳固形分が原因で、溝に汚れが溜まりやすくなるというデメリットもあります。蓋の滑りを優先するなら、純度の高いショートニングや液状のサラダ油、または専用のスプレーオイルがおすすめです。
油を塗る際は、型の側面だけでなく「蓋の溝」と「蓋の裏面」にも忘れずに塗りましょう。特に溝の部分は、指先に少量をつけてなぞるように塗ると、蓋が金属同士で擦れる抵抗を軽減できます。ただし、塗りすぎは禁忌です。油が酸化してこびりつきの原因になるため、あくまで「薄く、まんべんなく」が鉄則です。
おすすめはオイルスプレーです。細かい霧状に油が出るため、複雑な溝の中にも均一に油を届けることができます。これだけで、発酵しすぎて生地が蓋に当たりそうになったときでも、蓋をスルッと滑り込ませることができるようになります。ちょっとした手間ですが、仕上がりに大きな差が出ます。
蓋の溝に溜まった汚れの落とし方
「蓋が途中で引っかかる」という場合、多くの原因は溝の中に溜まった頑固な汚れです。パンカスや焦げ付いた油は、普通に洗っただけではなかなか落ちません。こうした汚れは、竹串や爪楊枝、あるいは使い古した歯ブラシを使って物理的に掻き出す必要があります。
まずは大きな汚れを掻き出した後、お湯に重曹を溶かした「重曹水」に型をしばらく浸けておくと、油汚れが浮き上がって落としやすくなります。重曹のアルカリ成分が酸化した油を中和して分解してくれるため、金属を傷めずにきれいにできます。ただし、アルミ製の型に重曹を使うと黒ずむことがあるので、素材を確認してから行ってください。
洗浄後は、水分が残っているとサビの原因になります。オーブンの余熱などを利用して完全に乾燥させ、仕上げに薄く油を引いて保管するのが理想的です。溝がピカピカになれば、蓋が閉まらないイライラから解放され、気持ちよく次のパン作りに取り掛かることができます。
長く使うための洗浄と乾燥のルール
食パン型は、基本的には「使ったら洗わない」のが良いとされることもありますが、家庭では衛生面が気になりますよね。もし洗う場合は、洗剤を使いすぎず、柔らかいスポンジで優しく洗うようにしましょう。硬いタワシなどでこすると、せっかく作った油の膜や表面の加工が剥がれ、蓋の滑りが悪くなってしまいます。
一番の敵は「湿気」です。蓋を閉めたまま保管すると、中に湿気がこもり、溝の部分にサビが発生しやすくなります。保管の際は蓋を少しずらしておくか、完全に別々にして通気性の良い場所に置くのがベストです。また、時々で構わないので、何も焼かない時に蓋の動きをチェックし、スムーズでない場合は早めに油を差し直してください。
道具を大切に扱うことは、パンの品質を安定させることにつながります。蓋が閉まらないという物理的なトラブルの多くは、日頃のちょっとしたメンテナンスで防ぐことが可能です。お気に入りの型を長く、最高のコンディションで使い続けていきましょう。
焼成中に蓋が浮いてしまった時の対策

蓋が閉まったと思ってオーブンに入れたのに、焼いている途中で蓋が浮き上がってきてしまうことがあります。これは生地の力が蓋を押し上げるほど強い場合に起こる現象です。この事態にどう対処すべきか、いくつかの解決策をご紹介します。
重石(おもし)を使って強制的に抑える方法
オーブンの中で蓋がわずかに浮き始めたことに気づいたら、物理的に重さを加えて抑えるのが最も直接的な方法です。耐熱性の平皿や、別の小さなパン型、あるいは清潔なレンガなどを蓋の上に乗せます。これにより、生地の圧力に負けずに蓋を固定し、きれいな角を維持することができます。
ただし、この方法は注意が必要です。重石を乗せる際にオーブンの扉を長く開けていると、庫内の温度が急激に下がり、パンの膨らみや焼き色に悪影響を及ぼします。また、あまりに重すぎるものを乗せると、今度は蓋が歪んでしまうリスクもあります。「少し押さえれば閉まる」程度の軽い浮きの場合にのみ有効な手段だと考えてください。
本来は、重石が必要な状態というのは「生地量が多すぎる」か「発酵させすぎ」のどちらかです。今回の焼き上がりを教訓にして、次回からの分量調整に活かすことが、真の解決につながります。緊急避難的な処置として覚えておくと、いざという時に役立ちます。
蓋を諦めて「山型食パン」として焼き上げる
もし蓋が浮きすぎて戻らない、あるいは物理的に蓋がどうしても閉まらない場合は、思い切って蓋を外してしまいましょう。蓋を使わずに焼くパンは「イギリスパン」や「山型食パン」と呼ばれ、これはこれで非常に人気のあるパンのスタイルです。無理に蓋をして生地を潰すよりも、自由に膨らませてあげた方が美味しく焼けることも多いのです。
山型にする場合は、角食パンよりも少し高めの温度で焼き、生地の頂点にきれいな焼き色がつくように調整します。蓋をしない分、生地に含まれる水分が蒸発しやすいため、ふわっと軽い食感に仕上がるのが特徴です。蓋が閉まらないという失敗を、「今日は美味しい山型食パンを作る日だったんだ」とポジティブに変換してしまいましょう。
この際、生地が型の縁から大きくはみ出していると、オーブンのヒーターに直接当たってしまう危険があります。あまりに膨らみすぎている場合は、天板の位置を下げるなどの工夫をして、安全に焼き上げるように注意してください。形が変わっても、愛情込めて作った生地の美味しさは変わりません。
オーブンレンジの熱風による影響を考える
家庭用のオーブンレンジ、特にコンベクションオーブン(熱風循環式)を使っている場合、強い風が蓋を押し上げる原因になることがあります。風が型の隙間に入り込み、さらに生地が膨らむ力が加わることで、蓋がパカパカと浮いてしまうのです。この場合、蓋の「遊び」をなくすようにセットし直す必要があります。
また、熱風が当たる方向によっても、一方の端だけが浮き上がることがあります。天板の向きを途中で変える「入れ替え」を行うことで、熱と風の当たり方を均一にし、蓋への偏った圧力を軽減できる場合があります。オーブンの癖を知ることも、蓋の問題を解決する一助となります。
もし何度も同じように蓋が浮く場合は、型の蓋を固定するためのクリップ(耐熱性のもの)を使用するなどの物理的な対策も検討の余地があります。しかし、基本的には前述した生地量の適正化こそが、オーブンの風に負けないしっかりとした角食パンを作るための王道です。
次回から失敗しないためのチェックリスト
今回の失敗を繰り返さないために、作業工程の中にチェックポイントを設けましょう。蓋が閉まらない経験は、パン作りのスキルを一段階上げるための素晴らしい教材です。以下のリストを確認しながら、次回のパン作りに臨んでみてください。
【失敗を防ぐチェックリスト】
□ 型の容積に対して、生地重量は適正か?(比容積4.0前後)
□ 二次発酵終了時、生地の高さは型から1.5cm下にあるか?
□ 型の溝に古い油や汚れは溜まっていないか?
□ 蓋の裏側と溝に、薄く油を塗ったか?
□ オーブンの予熱は、発酵が終わる前に完了しているか?
これらの項目を一つずつクリアしていけば、蓋が閉まらないというトラブルは劇的に減ります。パン作りは微調整の連続です。自分の環境に最適な「黄金比」を見つけ出し、ストレスフリーできれいな角食パンを焼き上げてください。
食パン型の蓋が閉まらない悩みを解決して理想の角食へ:まとめ

食パン型の蓋が閉まらないというトラブルは、パン作りにおける「生地のボリューム管理」と「道具のケア」の両面を見直す良いきっかけになります。まず、自分の持っている型の容積を正確に測り、適正な生地量を計算することから始めてみてください。感覚に頼らず数値化することで、誰でも安定してきれいな角食パンを焼くことができるようになります。
また、二次発酵のタイミングも極めて重要です。「型の8〜9割」まで膨らんだら迷わず蓋を閉めるというルールを徹底しましょう。早めの行動が、生地を傷めずスムーズに作業を終える秘訣です。同時に、型の溝の掃除や油塗りといった日々のメンテナンスも、ストレスのない開閉を支える大切な工程であることを忘れないでください。
もし焼いている途中で浮いてしまったり、どうしても閉まらなかったりした時は、無理をせず「山型食パン」として楽しむ心の余裕も大切です。失敗は成功へのヒントに溢れています。今回ご紹介した対処法や計算方法を参考に、ぜひ次回は理想のホワイトラインが輝く、美しい角食パンを焼き上げてくださいね。あなたのパン作りが、より一層素晴らしいものになることを応援しています。



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