パン作りを始めると、材料のこだわりだけでなく「水」についても気になりますよね。パン作りで水道水と浄水器はどっちを使うべきか、悩む方も多いのではないでしょうか。実は、日本は世界でも珍しく水道水が美味しい国ですが、パン作りにおいては塩素や硬度が焼き上がりに影響を与えます。
この記事では、水の種類がパンの膨らみや風味にどう関わるのか、専門的な視点も交えて詳しく解説します。美味しいパンをご家庭で焼くために、今日から実践できる水の選び方と扱い方のコツを一緒に学んでいきましょう。浄水器を持っていない方への対策も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。
パン作りの水は水道水か浄水器のどっちがいいの?

結論から申し上げますと、パン作りには浄水器を通した水を使うのが理想的です。なぜなら、水道水に含まれる特定の成分が、パンの主役である「酵母(イースト)」の働きを妨げてしまう可能性があるからです。もちろん水道水でもパンは焼けますが、こだわりの味を目指すなら水の違いを理解しておくことが大切です。
塩素が酵母に与える影響
日本の水道水には、衛生状態を保つために「塩素」が含まれています。塩素は私たちが安全に水を飲むために欠かせないものですが、殺菌作用があるため、微生物である酵母にとっても刺激となってしまいます。酵母の活性が弱まると、発酵に時間がかかったり、パンの膨らみが悪くなったりすることがあります。
また、塩素特有のいわゆる「カルキ臭」が、焼き上がったパンの繊細な風味を邪魔してしまうことも少なくありません。特にシンプルな材料で作る食パンやフランスパンなどは、水の臭いがダイレクトに味に影響しやすいため、可能な限り塩素を取り除いた水を使うことが推奨されています。
浄水器を使用すれば、この塩素を効率よく除去できるため、酵母がのびのびと活動できる環境を整えることができます。発酵がスムーズに進むと、生地の中にきめ細やかな気泡が作られ、ふんわりとした食感の美味しいパンに仕上がります。
日本の水道水がパン作りに向いている理由
一方で、日本の水道水は世界的に見ても非常に品質が高く、そのままパン作りに使っても大きな失敗をすることは稀です。日本の水の多くは「軟水」であり、これはパン生地のグルテンを適度に柔らかく保つのに適しています。欧米の硬水に比べて、日本の水はこねやすく、しっとりとした質感のパンを作りやすいのが特徴です。
そのため「水道水だからパンが焼けない」と心配する必要はありません。地域によって塩素の強さやミネラル分に差はありますが、基本的には飲用可能な水道水であれば問題なく生地作りが可能です。初心者の方は、まずは身近な水道水から始めて、慣れてきたら水質にこだわってみるというステップでも十分に楽しめます。
ただし、夏の暑い時期などは雑菌の繁殖を抑えるために塩素濃度が高めに設定される傾向があります。季節によってパンの膨らみ方が違うと感じる場合は、水道水に含まれる成分の影響を疑ってみるのも、パン作りを深く理解する第一歩となります。
浄水器を使うメリットと注意点
浄水器を使う最大のメリットは、不要な不純物を取り除きながら、パン作りに必要なミネラル分を適度に残せる点にあります。市販のミネラルウォーターを買う手間やコストを抑えつつ、常に安定した水質を確保できるのは、日常的にパンを焼く方にとって非常に大きな利点と言えるでしょう。
しかし、浄水器を使う際には「カートリッジの交換時期」に注意が必要です。期限を過ぎたフィルターを使用し続けると、除去能力が落ちるだけでなく、内部で雑菌が繁殖してしまう恐れがあります。清潔な水を使うための道具ですから、メーカーの推奨するメンテナンスをしっかり守ることが重要です。
また、浄水器の中にはミネラル分まで完全に除去してしまう「純水(RO水)」を作るタイプもあります。パン作りにおいて適度なミネラルは、生地を引き締める役割があるため、あまりに純粋すぎる水だと生地がだれてしまうこともあります。ご自宅の浄水器がどのタイプかを確認しておくと、より調整がしやすくなります。
パン職人の多くが実践している水の扱い方
プロのパン職人の現場では、単に「浄水器を通す」だけでなく、その後の水の温度管理や硬度調整に細心の注意を払っています。水は単なる液体ではなく、小麦粉のタンパク質と結合して「グルテン」を作るための重要な反応剤として捉えられているからです。
多くのベーカリーでは、大型の浄水システムを導入して安定した水質を確保しています。さらに、その日の気温や湿度に合わせて、水の温度を1度単位で調整します。これは、捏ね上がった時の生地温度を一定に保つためです。水の種類をこだわることと同じくらい、温度のコントロールがパンの出来栄えを左右します。
家庭でパンを作る場合も、浄水器の水を使用しつつ、後述する温度管理を徹底することで、プロの味に一歩近づくことができます。水の種類に迷ったら、まずは浄水器を選び、その上で「適切な温度で使う」という基本を忘れないようにしましょう。
水の「硬度」がパンの食感を変える仕組み

パン作りにおいて、水道水か浄水器かという議論と同じくらい重要なのが、水の「硬度」です。硬度とは、水の中に含まれるカルシウムとマグネシウムの量のことを指します。この数値がパンの骨組みとなるグルテンの強さに直接影響を与えるため、目指すパンの種類によって水を使い分けるのが理想です。
軟水と硬水の違いとは?
水はその硬度によって、大きく「軟水」と「硬水」に分けられます。一般的に硬度が100mg/L未満のものを軟水、それ以上のものを硬水と呼びます。日本の水道水の多くは硬度が50mg/L前後の軟水ですが、ヨーロッパなどの海外では、石灰岩層を通ってミネラルを豊富に含んだ硬水が一般的です。
ミネラル分、特にカルシウムやマグネシウムは、小麦粉のタンパク質と結合してグルテンを強化する働きがあります。そのため、使う水の硬度によって生地の弾力や伸びやすさが劇的に変わります。自分が焼きたいパンが、どちらの水に向いているかを知ることは、レシピ選びと同じくらい重要です。
家庭で使う浄水器の多くは、硬度を大きく変えるものではありませんが、一部のイオン交換樹脂を使用したタイプは水をさらに軟らかくすることがあります。水の種類を変えた時に「なんだか生地の感触が違うな」と感じたら、それは硬度の変化によるものかもしれません。
軟水で焼くパンの特徴とメリット
軟水はミネラル分が少ないため、グルテンを過剰に引き締めず、生地を柔らかく仕上げる特性があります。日本人が好む「ふわふわ」「しっとり」とした食感のパン、例えば食パンやバターロール、菓子パンなどを作るには軟水が最も適しています。生地の伸びがよく、ボリュームの出やすいパンになります。
また、軟水は素材の味を引き立てる効果があるため、小麦の香りやバターの風味をストレートに感じたいパン作りにも向いています。日本のパン文化がこれほどまでに独自の発達を遂げたのは、質の高い軟水が身近にあったからだとも言われています。
もし、海外のレシピを見てパンを焼く際に、同じように作っても食感が柔らかすぎると感じた場合は、水の硬度の違いが原因かもしれません。そのような時は、少しだけ塩の量を増やしたり、硬水をブレンドしたりすることで、生地にコシを出す調整を行うことができます。
硬水で焼くパンの特徴と活用法
一方で、フランスパン(バゲット)やカンパーニュといったハード系のパンには、ある程度のミネラルを含んだ水が適しています。硬水に含まれるカルシウムなどがグルテンを強く引き締めるため、生地にコシが出て、クラスト(外皮)がパリッと香ばしく焼き上がります。
硬水を使うと、生地がだれにくく、クープ(切り込み)が綺麗に開きやすくなるというメリットもあります。本格的な欧州スタイルのパンを目指すなら、あえて硬度の高いミネラルウォーターを水道水や浄水にブレンドして、自分好みの「中硬水」を作って使用するのも面白い工夫です。
ただし、あまりに硬度が高すぎる水を使うと、今度は発酵が遅くなったり、パンがパサついたりすることもあります。日本国内で手に入る硬水(エビアンなど)を使う場合は、水道水と1:1で割るなどして、硬度を100〜200mg/L程度に調整するのが扱いやすいでしょう。
生地作りに最適な硬度の目安
結局のところ、どのくらいの硬度がベストなのでしょうか。一般的なパン作りにおいて、最も扱いやすいのは硬度50〜100mg/L程度の「中硬水に近い軟水」と言われています。これくらいの硬度であれば、生地の弾力と伸びのバランスが良く、幅広い種類のパンに対応できます。
日本の水道水はもともとこの範囲に近いことが多いですが、浄水器を通すことで塩素による阻害要因を消し、さらに安定した条件を作り出すことができます。特定のこだわりがない限りは、浄水器を通した水道水をそのまま使うのが最も失敗の少ない選択と言えます。
生地の状態を見極める力がついてきたら、あえて硬水を使ってみて、その変化を体感してみるのも上達への近道です。水という無色透明な材料が、実はパンの構造を支える「骨組み」に深く関わっていることを意識してみましょう。
【硬度によるパンの変化まとめ】
・軟水(0-60mg/L):食パンや菓子パン向き。ふんわり、しっとり仕上がる。
・中硬水(60-120mg/L):万能タイプ。適度なコシと伸びが得られる。
・硬水(120mg/L以上):フランスパンなどハード系向き。パリッとした食感になる。
浄水器の種類とパン作りへの適性

パン作りに浄水器が良いと分かっても、世の中には多くの種類があり、どれを選べばいいか迷ってしまいます。浄水器の仕組みによって、除去できる物質や残る成分が異なるため、パン作りにおけるそれぞれの特徴を理解しておきましょう。ここでは代表的な3つのタイプについて解説します。
活性炭フィルターの仕組みと効果
最も一般的で、多くの家庭用浄水器に採用されているのが「活性炭」を用いたフィルターです。炭の表面にある無数の小さな穴が、水道水に含まれる塩素や有機物、カビ臭などを吸着して取り除きます。パン作りに悪影響を与える塩素を除去する能力に非常に優れています。
活性炭タイプの良いところは、パンの発酵に良い影響を与える適度なミネラル分をそのまま残してくれる点です。余計な臭いや味だけを消し、水そのものの性質を大きく変えないため、非常にパン作りに向いていると言えます。蛇口直結型やポット型の多くがこのタイプを採用しています。
ただし、活性炭には寿命があり、使い続けると吸着能力が飽和してしまいます。パンを焼く頻度が高い方は、気づかないうちに塩素除去能力が落ちていることもあるため、定期的なカートリッジ交換を忘れないようにしましょう。安価で導入しやすく、最初のステップとして最適です。
中空糸膜フィルターのメリット
活性炭と組み合わせて使われることが多いのが「中空糸膜(ちゅうくうしまく)」フィルターです。これは、ポリエチレンなどの細いストロー状の繊維を用いた膜で、活性炭では取りきれない微細な濁りや雑菌、赤サビなどを物理的にろ過して取り除く仕組みになっています。
このタイプの浄水器を通した水は、非常に透明度が高く、クリアな味わいになります。パン作りにおいては、水道管の老朽化による微細なゴミの混入を防げるため、より衛生的な環境で生地を仕込むことができます。特に自家製酵母を数日かけて育てるような場合、水の衛生状態は非常に重要です。
中空糸膜もミネラル分は透過させるため、水の硬度は変わりません。クリアで雑味のない水は、小麦粉本来の甘みや香りを最大限に引き出してくれます。少しこだわった据え置き型や高性能な蛇口型に多く見られる、パン作りと相性の良いシステムです。
逆浸透膜(RO水)を使う際の注意点
「逆浸透膜(RO膜)」を使用した浄水器は、水分子以外のほとんどすべての物質を取り除く強力なろ過能力を持っています。ウイルスや重金属だけでなく、カルシウムやマグネシウムといったミネラル分まで除去し、限りなく「純水」に近い水を作ります。
純水は非常に安全ですが、パン作りにおいては少し注意が必要です。前述の通り、ミネラルはグルテンを強化する役割があるため、ミネラルが全くない水を使うと、生地が非常に柔らかくなりやすく、コシが不足する傾向があります。また、酵母の栄養源となるミネラルも不足するため、発酵がやや不安定になることもあります。
もしRO水を使用する場合は、生地のコシを出すために塩の量をわずかに調整したり、コントレックスなどの硬水を少量足してミネラルを補ったりする工夫が必要になる場合があります。非常に清潔な水ではありますが、パン作りにおいては「引き算しすぎ」になる側面があることを覚えておきましょう。
パン作りに適した浄水器の選び方
結論として、家庭でのパン作りに最もおすすめなのは「活性炭と中空糸膜を組み合わせた標準的な浄水器」です。これにより、酵母の敵である塩素をしっかり除去しつつ、生地作りに必要なミネラルを適度に残すことができます。高価なシステムである必要はなく、信頼できるメーカーの製品であれば十分です。
選び方のポイントとしては、ランニングコストと交換のしやすさを重視しましょう。パン作りは継続してこそ上達するものです。カートリッジが高すぎて交換をためらってしまうようでは本末転倒です。自分のライフスタイルに合った、無理なく使い続けられるものを選んでください。
また、ポット型の浄水器も非常に優秀です。冷蔵庫で冷やしておけるため、夏場のパン作りで「冷たい浄水」が必要な時にも重宝します。設置場所を選ばないため、まずはポット型から試してみるのも、水の変化を実感する良い方法です。
浄水器のタイプ別適性表:
・活性炭:◎(塩素除去に優れ、ミネラルを残す)
・中空糸膜:◎(衛生面で安心、ミネラルを残す)
・逆浸透膜(RO):△(純粋すぎるため、生地の調整が必要)
水道水をおいしく安全に使うための工夫

「自宅に浄水器がないけれど、水道水で美味しいパンを焼きたい」という場合でも、諦める必要はありません。いくつかの工夫を凝らすだけで、水道水のデメリットである塩素の影響を最小限に抑え、浄水器に近い状態に近づけることができます。ここでは、今日からできる4つの方法をご紹介します。
煮沸してカルキを抜く方法
最も確実な方法の一つが、水道水を一度沸騰させることです。お湯を沸かすことで、水の中に溶け込んでいる塩素ガスを空気中に追い出すことができます。これを「カルキ抜き」と呼びます。単に沸騰させるだけでなく、蓋を取った状態で5分〜10分ほど弱火で沸騰させ続けるのがコツです。
ただし、煮沸した水はそのままではパン作りに使えません。熱いまま使うと、酵母が死滅してしまうからです。必ずボウルなどに移し、パン作りに適した温度(通常は25度〜35度前後)まで冷ましてから使用してください。このひと手間で、水の臭みが消え、酵母が働きやすい環境になります。
注意点として、煮沸した水は塩素の殺菌作用がなくなっているため、非常に腐りやすくなっています。作り置きはせず、その日のうちに使い切るようにしましょう。手間はかかりますが、特別な道具なしで水の質を高められる、昔ながらの知恵です。
汲み置きによる塩素除去のコツ
火を使わずに塩素を抜く方法として「汲み置き」があります。ボウルやピッチャーなどの口の広い容器に水道水を入れ、半日から1日ほど置いておくだけで、塩素は自然に抜けていきます。日光の当たる場所に置いておくと、紫外線の影響でさらに早く塩素が分解されます。
この方法のメリットは、水温が室温に近くなるため、冬場などで冷たすぎる水道水の温度調整を兼ねられる点にあります。前日の夜に翌日のパン作りに使う分を汲んでおけば、朝にはパン作りに適した状態になっています。急いでいる時には向きませんが、計画的に作業を進めるなら非常に楽な方法です。
ただし、汲み置きも煮沸と同様に雑菌が繁殖しやすくなります。清潔な容器を使用し、ホコリが入らないように軽くラップをかけるか、キッチンペーパーで蓋をするなどの配慮をしてください。特に夏場は室温が高くなりすぎるため、長時間放置しすぎないよう注意しましょう。
ビタミンC(レモン汁)で中和する方法
化学的な反応を利用して、瞬時に塩素を無害化する方法もあります。それは「ビタミンC」を加えることです。水道水の塩素はビタミンCと反応すると酸化還元反応を起こし、一瞬で無害な物質に変わります。薬局などで売っている粉末のビタミンC(アスコルビン酸)をごく少量入れるだけで十分です。
専用の粉末がなくても、生のレモン汁を数滴たらすだけで代用可能です。パン作りの材料として「ビタミンC」は生地の改良剤(生地を強くする成分)としても知られているため、パンの出来栄えを良くする相乗効果も期待できます。ただし、入れすぎると酸味が出たり、生地が引き締まりすぎたりするため、ほんの数滴にとどめるのがポイントです。
この方法は、煮沸や汲み置きのような待ち時間が一切必要ないのが最大の利点です。「今すぐパンを焼きたいけれど、水道水の臭いが気になる」という時には、このレモン汁一滴が頼もしい助けになります。手軽さと効果の速さを重視する方におすすめの手法です。
浄水器がない場合の代替案
煮沸や汲み置きも面倒だという場合は、市販のミネラルウォーターを購入するのも一つの手です。コンビニなどで手に入る一般的な国産のミネラルウォーターは、ほとんどが軟水ですので、水道水の代わりにそのまま使えます。1斤のパンを作るのに必要な水は200ml程度ですので、500mlペットボトル一本で十分に足ります。
また、最近のスーパーなどに設置されている無料の「専用水(ろ過水)」を利用するのも良いでしょう。あれらは大型の高性能浄水器でろ過された水ですので、家庭用の浄水器以上にクリアな水質が期待できます。重い水を運ぶ手間はありますが、コストを抑えて質の良い水を手に入れる賢い方法です。
大切なのは、自分の環境で「無理なく続けられる方法」を見つけることです。水道水のままでも、よく捏ねてしっかりと発酵させれば美味しいパンは焼けます。水にこだわりすぎてパン作り自体が億劫になってしまわないよう、まずは手軽な方法から試してみてください。
季節や環境に合わせた水の温度管理

パン作りにおいて、水の種類と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「温度」です。酵母は生き物ですので、心地よいと感じる温度があります。水道水か浄水器かを決めた後は、その水を「何度で使うか」に意識を向けてみましょう。季節に応じた水温のコントロールが、成功への大きな分かれ道となります。
夏場の水温調整と生地への影響
夏場のパン作りで最も多い失敗は、生地の温度が上がりすぎてしまうことです。日本の夏は水道水の温度も30度近くまで上がることがあります。これに室温やこねる際の摩擦熱が加わると、生地温度が35度を超えてしまい、発酵が急激に進みすぎて「過発酵」の原因になります。
夏場は、浄水器を通した水をあらかじめ冷蔵庫で冷やしておくことを強くおすすめします。場合によっては、仕込み水の一部を氷に置き換えて、キンキンに冷えた状態でこね始めることもあります。生地の捏ね上がり温度を26度〜28度前後に保つことが、夏場においしいパンを焼くための秘訣です。
もし温度が高くなりすぎると、パンに酸味が出たり、キメが粗くなったりしてしまいます。浄水器を導入しているなら、ポット型を冷蔵庫に入れておけば、いつでも冷たい浄水が使えるので非常に便利です。水温を制する者は夏を制すると言っても過言ではありません。
冬場の温水使用と注意点
逆に冬場は、水道水の温度が10度以下まで下がることがあります。冷たすぎる水を使うと、今度は酵母が眠ってしまい、いつまで経ってもパンが膨らみません。冬場は水を人肌程度の「ぬるま湯」にして使うのが基本です。具体的には35度〜40度くらいの温水を用意しましょう。
ただし、ここで注意したいのが、給湯器から出るお湯をそのまま使うことです。給湯器の内部を通ったお湯は、古い配管の場合、金属成分が溶け出している懸念があるため、パン作りにはあまり向かないとされています。できれば、浄水器の水や汲み置きした水を、鍋や電子レンジで温めて使うのが理想的です。
電子レンジで温める場合は、温度にムラができやすいため、よくかき混ぜてから温度計で測るようにしましょう。温度が高すぎると酵母が死んでしまいます。指を入れてみて「ぬるい」と感じる程度が目安ですが、失敗を防ぐために調理用の温度計を一つ持っておくと安心です。
捏ね上げ温度を一定にする計算式
プロの現場では「捏ね上げ温度」を一定にするために、水の温度を逆算して決める計算式を使います。これは、目指す生地温度から、粉の温度や室温、こねる際に出る摩擦熱を差し引いて、必要な水の温度を導き出すものです。これを知っておくと、どんな季節でも安定してパンを焼くことができます。
簡易的な計算式としては、「(目標の捏ね上げ温度 × 3)ー(室温 + 粉の温度 + 摩擦熱)= 水の温度」というものがあります。家庭での手ごねの場合、摩擦熱はだいたい5度〜8度くらいと考えるのが一般的です。例えば、目標28度、室温25度、粉25度、摩擦熱5度の場合、水の温度は29度にするのが正解となります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、毎回、室温と水温を記録しておくと「自分の環境での癖」が見えてきます。このデータこそが、浄水器の有無以上にあなたのパンを美味しくする貴重な財産になります。水の種類にこだわると同時に、ぜひ温度計も活用してみてください。
水の温度が発酵に与える大きな役割
なぜここまで温度にこだわるのかというと、それは「発酵の質」が決まるからです。適切な温度で仕込まれた生地は、酵母が一定のペースでガスを発生させ、小麦粉の旨みをじっくりと引き出します。急ぎすぎず、休みすぎない環境が、パンに深いコクと良い香りを与えてくれます。
水は生地の中で最も温度を変えやすい材料です。小麦粉や塩は、使いたい時に急に温度を変えるのは難しいですが、水であれば数秒のレンジ加熱や氷一つで自在にコントロールできます。いわば、生地全体の温度を調整する「温度の司令塔」のような役割を担っているのです。
水道水か浄水器かという選択に、この「温度管理」が加われば、家庭でのパン作りは格段にレベルアップします。水という材料を多角的に捉えることで、理想の焼き上がりに一歩ずつ近づいていく喜びをぜひ味わってください。
水温管理のチェックポイント:
・夏:5℃〜15℃(冷蔵庫で冷やす)
・春・秋:20℃〜25℃(常温)
・冬:35℃〜40℃(ぬるま湯にする)
パン作りにおける水以外の材料との相性

水はパン生地の約60%から70%を占める重要な材料ですが、他の材料とのバランスがあってこそ力を発揮します。水道水や浄水器の水を、どのように他の材料と調和させていくかを知ることで、レシピをより深く理解できるようになります。ここでは小麦粉、塩、副材料との関係を見ていきましょう。
小麦粉のたんぱく質量と水の関係
パンの骨組みを作る「グルテン」は、小麦粉に含まれるタンパク質と水が結びつくことで形成されます。タンパク質の多い強力粉を使うほど、多くの水を必要とします。この時、水の質がグルテンの強さを左右します。先述の通り、ミネラルを含む水はグルテンを引き締め、純粋な水は緩める傾向があります。
例えば、国産の小麦粉はタンパク質量が控えめなものが多く、生地がだれやすい傾向があります。そんな時は、少しだけ硬度のある水を使ったり、浄水器の水に少量の塩を意識したりすることで、扱いやすい生地になります。逆に、タンパク質が非常に豊富な海外産小麦を使う場合は、軟水を使うことで伸びの良い生地に仕上がります。
また、粉の種類によって水の吸い込み方(吸水率)も異なります。全粒粉やライ麦粉を混ぜる場合は、普通の強力粉よりも多くの水を必要とします。水の種類を変える際は、レシピ通りの水分量であっても、一度に全部入れずに少しずつ加え、生地の固さを確認しながら調整するのが失敗しないコツです。
塩と水の相互作用で変わるコシ
塩はパンに味をつけるだけでなく、グルテンを引き締めて生地にコシを与える重要な役割を持っています。実は、水と塩は非常に密接に関係しています。水のミネラル分が少ない場合、塩の働きがより強調されることがあり、逆にミネラル豊富な水では塩の引き締め効果がさらに強まることがあります。
水道水を使っていて、どうも生地がベタつくと感じる場合は、塩の溶かし方に工夫をしてみてください。水に直接塩を溶かしてから粉と混ぜる方法(直説法の一部)をとると、より早く生地が引き締まります。浄水器の水を使う際も同様ですが、水がクリアな分、塩の質そのものにもこだわりたくなってくるかもしれません。
パン作りにおける塩分濃度は通常2%前後ですが、このわずかな量が水の性質と結びついて、パンのボリュームを決定づけます。水を変えてみて、もし生地が硬すぎたり柔らかすぎたりしたら、ほんの数グラムの塩の量を見直してみるのも有効なアプローチです。
副材料(乳製品や油脂)と水のバランス
リッチなパンを作る際には、水の代わりに牛乳や卵、バターなどを使用します。これらの副材料には水分だけでなく脂質やタンパク質が含まれているため、100%水で作るパンとは生地の性質がガラリと変わります。牛乳を混ぜる場合は、牛乳自体のミネラル分があるため、水の硬度にはそれほど神経質にならなくても美味しく焼けます。
ただし、牛乳やバターを使う際も、一緒に使う「水」が浄水であれば、全体の香りがよりクリアになります。副材料を贅沢に使うパンこそ、ベースとなる水の雑味を消しておくことで、バターの芳醇な香りやミルクの甘みが最大限に引き立つのです。
また、油脂はグルテンの形成を邪魔する性質がありますが、適切な水温と水質でしっかりと土台のグルテンを作っておけば、バターがたっぷり入っても腰折れしない、ふっくらとしたパンが焼けます。水は、他の豪華な材料たちが活躍するための「舞台」を整えてくれる存在なのです。
【材料の組み合わせヒント】
・シンプルなバゲット:浄水(+硬水ブレンド) + フランスパン用粉 + 塩
・しっとり食パン:浄水(軟水) + 強力粉 + 牛乳 + バター
・ヘルシー全粒粉パン:浄水 + 全粒粉 + 蜂蜜(保水性を高める)
パン作りに水道水と浄水器のどっちを使うか迷ったときのまとめ

いかがでしたでしょうか。パン作りにおける水の重要性について解説してきました。最終的に「水道水か浄水器か」という問いに対しては、「より美味しく、安定したパンを作りたいなら浄水器の水」が答えとなります。しかし、それは決して水道水がダメだという意味ではありません。
大切なポイントを振り返ってみましょう。まず、浄水器の最大の利点は「塩素を取り除けること」です。これにより酵母の働きがスムーズになり、香り高いパンになります。次に、水の種類以上に大切なのが「硬度」と「温度」です。日本の軟水は多くのパンに適していますが、作りたいパンに合わせて温度を調整することが成功の鍵となります。
もし浄水器がない場合でも、煮沸や汲み置き、レモン汁での中和といった工夫で十分にカバーできます。パン作りは、身近な材料が魔法のように姿を変えていく素晴らしいプロセスです。水という、当たり前にある材料に少しだけ意識を向けてみる。その小さな変化が、あなたのパンをより一層おいしくしてくれるはずです。
| 選ぶべき水 | 主なメリット | おすすめのパン |
|---|---|---|
| 浄水器の水 | 塩素がなく酵母が元気に働く。雑味がない。 | すべてのパン(特においしさを追求したい時) |
| 水道水(日本) | 安価で手軽。軟水なので捏ねやすい。 | 普段使いのパン、初心者の方 |
| 硬水のミネラル水 | グルテンを引き締め、パリッとした食感に。 | バゲット、カンパーニュなどのハード系 |
| 煮沸・汲み置き水 | コストをかけずに塩素を除去できる。 | 浄水器はないが、質にこだわりたい時 |
まずは今日、家にある水で捏ねてみてください。そして、もし「もっと良くしたい」と感じたら、この記事で紹介した水の選び方を試してみてください。水を変えるだけで、パンの表情が豊かになることを実感していただけるはずです。あなたのパン作りが、より楽しく、美味しいものになることを応援しています。




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