レストランで出てくるような、外はカリッ、中はしっとりもちもちのフォカッチャ。あのお店のような食感を家庭で再現してみたいと思ったことはありませんか?
実はその秘密は「水分量」にあります。「高加水」と呼ばれる製法で作るフォカッチャは、一般的なパン作りよりも水分を多く含ませることで、驚くほど瑞々しい食感を生み出します。難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は「こねない」で作れるため、初心者の方にこそおすすめしたい製法です。今回は、失敗しない高加水フォカッチャの作り方をわかりやすく解説します。
高加水フォカッチャとは?普通の作り方との違い

「高加水」という言葉を初めて耳にする方も多いかもしれません。まずは、普通のパンと何が違うのか、そしてなぜそれが美味しいのか、その秘密を紐解いていきましょう。
高加水パンの特徴と魅力
高加水パンとは、その名の通り小麦粉に対する水分の割合(加水率)が高いパンのことを指します。一般的な食パンやロールパンの加水率が65〜70%程度であるのに対し、高加水フォカッチャは80%〜100%もの水分を含ませることがあります。
このたっぷりの水分のおかげで、焼き上がったクラム(中身)はしっとりと潤いがあり、食べた瞬間に口の中でとろけるような食感になります。また、水分が水蒸気となって生地を持ち上げる力が強いため、大小様々な気泡がボコボコと開き、見た目にも本格的な仕上がりになるのが特徴です。
なぜ初心者でも失敗しにくいのか
「水分が多いとベタベタして扱いにくいのでは?」と不安になるかもしれません。確かに生地はベタつきますが、高加水フォカッチャの最大のメリットは「一生懸命こねる必要がない」という点です。
通常のパン作りでは、グルテンを形成するために台の上で力強く生地をこねる必要がありますが、高加水パンは水分量が多いため、時間をかけてゆっくりと発酵させることで勝手にグルテンがつながっていきます。ボウルの中で混ぜて、少し放置して、折りたたむ。このシンプルな工程だけで生地が出来上がるため、重労働な「こね」が苦手な初心者の方でも、意外と簡単に美味しいパンが焼けるのです。
必要な道具と材料の準備
高加水フォカッチャを作るために特別な機械は必要ありません。ただし、生地が非常に柔らかいため、いくつかの道具があると便利です。
まず、生地を混ぜたり発酵させたりするための「ボウル」と、乾燥を防ぐための「シャワーキャップ」や「ラップ」。そして、ベタつく生地を扱うために必須なのが「ドレッジ(カード)」と「ゴムベラ」です。手で直接触るとくっついて大変なことになるため、これらの道具を使って生地を扱います。焼成にはオーブンの天板を使用しますが、バットや耐熱容器に入れて焼くと、厚みのあるふっくらしたフォカッチャに仕上がります。
失敗しない高加水フォカッチャの基本レシピ

それでは、実際に作っていきましょう。ここでは作りやすさを重視して、冷蔵庫で一晩寝かせる「オーバーナイト法」をご紹介します。この方法なら、忙しい方でも隙間時間で作業が可能です。
【材料】(作りやすい分量)
・強力粉:200g
・ドライイースト:2g(小さじ1/2強)
・塩:4g(小さじ2/3)
・砂糖(または蜂蜜):6g(小さじ2)
・水(常温〜少し冷たい):160g(加水率80%)
・オリーブオイル(生地用):10g
・オリーブオイル(仕上げ用):適量
材料の計量と粉の選び方
パン作りにおいて計量は非常に重要です。特に高加水パンでは、水分と粉のバランスが食感を左右するため、デジタルスケールを使って1g単位で正確に計量しましょう。
水は、夏場であれば冷水を、冬場であれば常温の水を使います。お風呂のようなぬるま湯を使うと発酵が進みすぎてしまい、生地がダレて扱いづらくなる原因になります。初心者の場合、加水率はまず80%(粉200gに対して水160g)から始めるのがおすすめです。慣れてきたら徐々に水を増やして、より瑞々しい食感にチャレンジしてみてください。
混ぜるだけでOK!生地作りのポイント
ボウルに強力粉、イースト、塩、砂糖を入れます。この時、イーストと塩は離して置くのが基本です。水をイーストめがけて注ぎ入れ、ゴムベラで粉っぽさがなくなるまでザックリと混ぜ合わせます。
粉気がなくなったら、オリーブオイルを加えてさらに混ぜます。最初は生地とオイルが分離して馴染みにくいですが、ゴムベラで切るように混ぜたり、底からすくい上げるようにしていると、次第に一体化して艶が出てきます。完全に滑らかにする必要はありません。全体が混ざれば、乾燥しないようにラップをして30分ほど室温で休ませます。
パンチ(折りたたみ)でグルテンを強化
ここが重要なステップです。こねない代わりに「パンチ(折りたたみ)」という作業を行って、生地に力をつけます。
30分休ませた生地は少し緩んでいます。水で濡らした手(またはゴムベラ)を生地の底に差し込み、端を持ってグイーッと上に引っ張り上げ、対角線上の反対側へ折りたたみます。これを東西南北の4方向から行い、生地をひとまとめにします。この作業を行うことで、グルテンが強化され、ガスを抱え込める強い生地になります。この「30分休ませる→折りたたむ」の工程を、合計2回〜3回繰り返してください。
冷蔵庫での低温長時間発酵(オーバーナイト)
折りたたみが終わったら、生地を保存容器(タッパーなど)に移し、冷蔵庫の野菜室に入れます。ここから8時間〜12時間(一晩)かけて、ゆっくりと低温発酵させます。
冷蔵庫に入れることで発酵スピードを抑えつつ、生地の中で旨味成分を引き出します。また、冷えた生地は引き締まって扱いやすくなるため、ベタベタの高加水生地でも成形しやすくなるという大きなメリットがあります。夜に仕込んでおけば、翌朝や翌日のお昼に焼きたてのフォカッチャを楽しむことができます。
成形から焼成まで!美味しいフォカッチャに仕上げる手順

一晩寝かせた生地には、大小の気泡がたくさん生まれています。この気泡を潰さないように優しく扱うことが、高加水フォカッチャの成功の鍵です。
生地の復温と天板への移動
冷蔵庫から生地を取り出したら、室温に30分〜1時間ほど置いて「復温(ふくおん)」させます。冷たいまま焼くと膨らみが悪くなるため、生地の温度を少し戻してあげるのです。
次に、オーブンシートを敷いた天板や型にオリーブオイル(分量外)を薄く塗ります。保存容器を逆さまにして、生地が自重でゆっくりと落ちてくるのを待ちます。無理に引っ張り出さず、自然に落下させることで気泡を守ります。天板に落ちた生地を、オリーブオイルをつけた指先で優しく押し広げ、厚みを均一にします。
指で穴を開ける「ピケ」の楽しみ
フォカッチャ作りで一番楽しい瞬間がこの「ピケ(穴あけ)」です。生地を広げたら、乾燥しないようにラップをかけ、ふっくらするまで二次発酵させます(室温で30〜60分程度)。
生地が一回り大きくなり、フルフルと揺れるくらい柔らかくなったら、表面にたっぷりとオリーブオイルを回しかけます。そして、指の腹を使って、底まで届くようにしっかりと穴を開けていきます。この穴は、焼いている最中に生地が膨らみすぎて形が崩れるのを防ぐ役割と、オリーブオイルを溜めて風味を染み込ませる役割があります。
オリーブオイルと塩のトッピング
穴を開けた生地の上から、さらにお好みの岩塩や粗塩をパラパラと振ります。高加水フォカッチャは生地自体の甘みが引き出されるため、表面の塩気が絶妙なアクセントになります。
使用するオリーブオイルにもこだわってみましょう。加熱用ではなく、香りの良いエキストラバージンオリーブオイルを使うと、焼き上がりの風味が格段に良くなります。オイルの量は「ちょっと多いかな?」と思うくらいが、揚げ焼きのようなカリッとした食感を生み出すコツです。
オーブンの予熱と焼成温度のコツ
高加水パンを美味しく焼くためには、高い温度で一気に焼き上げることが鉄則です。家庭用のオーブンであれば、最高温度(230℃〜250℃)で予熱をしておきます。
予熱が完了したら、230℃で15分〜20分ほど焼成します。水分が多いため、低い温度で長く焼くと水分が飛びすぎてパサついてしまったり、逆にベチャッとした仕上がりになったりします。高温でガツンと熱を与えることで、生地内の水分が爆発的に水蒸気となり、グンとボリュームのあるパンに焼き上がります。表面に美味しそうな焦げ目がついたら完成です。
高加水フォカッチャをさらに美味しくするアレンジ

シンプルなプレーンのフォカッチャも絶品ですが、具材を乗せたり混ぜ込んだりすることで、バリエーションは無限に広がります。基本の生地に慣れたら、ぜひアレンジも楽しんでみてください。
ローズマリーやハーブで香り豊かに
フォカッチャの定番といえば、やはりローズマリーです。焼成前にオリーブオイルと一緒にフレッシュなローズマリーの葉を散らすだけで、お店のような芳醇な香りが漂います。
他にも、タイムやオレガノなどのドライハーブを生地に練り込んだり、仕上げに振ったりするのもおすすめです。ハーブの香りはオリーブオイルとの相性が抜群で、ワインやパスタのお供としても最高のサイドメニューになります。
トマトやオリーブを使った具沢山フォカッチャ
食事として楽しみたい場合は、野菜をトッピングしましょう。半分に切ったミニトマトや、種を抜いたオリーブの実を、穴あけのタイミングで生地にグッと押し込みます。
トマトの酸味と果汁がじゅわっと生地に染み込み、ジューシーな味わいが楽しめます。オリーブの塩気も良いアクセントになります。他にも、薄くスライスした玉ねぎや、アスパラガスなどを乗せると、見た目も華やかになり、おもてなし料理としても喜ばれます。
チーズやガーリックで濃厚な味わい
ガッツリとした味わいが欲しい時は、チーズやガーリックの出番です。角切りのプロセスチーズを生地に巻き込んで焼けば、中からとろりとチーズが溢れ出します。
また、すりおろしたニンニクをオリーブオイルに混ぜて「ガーリックオイル」を作り、焼成前に塗れば、食欲をそそるガーリックフォカッチャに。粉チーズ(パルメザンチーズ)を表面にたっぷりかけて焼くと、香ばしいチーズの層ができ、カリカリとした食感が楽しめます。
よくある失敗と解決策Q&A

高加水フォカッチャは、その水分の多さゆえに、初めて挑戦する方がつまずきやすいポイントがいくつかあります。ここでは、よくある失敗とその解決策をQ&A方式でまとめました。
生地がベタついてまとまらない時
Q. 手や道具に生地がくっついて、全くまとまりません。どうすればいいですか?
A. 水かオイルを手につけて作業しましょう。
高加水生地がベタつくのは正常です。無理に粉を足してしまうと、せっかくの高加水の良さが消えて硬くなってしまいます。作業する時は、必ず手を水で濡らすか、オリーブオイルを塗ってから触れるようにしてください。ドレッジなどの道具にも水をつけながら行うと、驚くほどスムーズに扱えます。
メモ:
打ち粉を多用するのは避けましょう。生地の水分バランスが崩れ、粉っぽい仕上がりになってしまいます。
膨らみが悪く、目が詰まってしまった時
Q. 焼き上がりが平べったく、断面が餅のように詰まっています。
A. 発酵不足か、イーストの活動が弱かった可能性があります。
冷蔵庫での発酵時間が短すぎたり、庫内が冷えすぎてイーストが働かなかったりしたかもしれません。焼く前の「復温」と「二次発酵」で、生地がきちんと緩んでふっくらしているか確認してからオーブンに入れましょう。また、古いイーストを使っていると発酵力が落ちるため、開封したての新しいものを使うのも解決策の一つです。
焼き色がつきにくい、または焦げてしまう時
Q. 表面が白っぽいままで美味しそうに見えません。逆にすぐ焦げてしまうことも。
A. オリーブオイルの量とオーブンの位置を調整しましょう。
綺麗な焼き色をつけるには、表面に塗るオリーブオイルの量が重要です。油分が熱されて揚げ焼き状態になることで、美味しそうなキツネ色になります。色が薄い場合はオイルを多めにしてみてください。焦げやすい場合は、オーブンの段を下段にしたり、途中でアルミホイルを被せるなどの対策が有効です。また、ご家庭のオーブンによって実際の温度に癖があるため、設定温度を10℃〜20℃調整してみるのも良いでしょう。
まとめ:高加水フォカッチャの作り方をマスターして食卓を彩ろう

高加水フォカッチャは、水分量を多くすることで、誰でも簡単にプロのような「しっとり・もちもち・カリッ」とした食感を作り出せる魔法のレシピです。こねる手間がなく、冷蔵庫で放置するだけで美味しさがアップするという、忙しい現代人にぴったりのパン作りと言えます。
最初は生地の柔らかさに戸惑うかもしれませんが、「触る時は水かオイルをつける」「高温で一気に焼く」というポイントさえ押さえれば、必ず美味しいフォカッチャが焼き上がります。ぜひ今週末は、手作りの高加水フォカッチャで、いつもの食卓を少し贅沢に彩ってみてくださいね。



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