家庭でパン作りを楽しんでいると、一度はぶつかる壁が「オーブンのサイズ問題」です。「レシピ通りの分量で作ったけれど、天板に一度に乗り切らない」「無理に並べたらパン同士がくっついてしまった」という経験はありませんか?そんな時に役立つのが、生地を半分ずつ「2回に分けて焼く」方法です。
しかし、単純に分けて焼けばいいというわけではありません。1回目を焼いている間に2回目の生地の発酵が進んでしまい、「過発酵」で酸っぱくなったり、膨らみすぎて形が崩れたりすることがあります。せっかく捏ねたパン生地を無駄にしないためには、待機中の温度管理と時間の使い方が非常に重要になります。
この記事では、家庭用オーブンでパンを2回に分けて焼く際の具体的な手順や、2回目の生地を冷蔵庫で上手に待機させるコツ、失敗を防ぐためのポイントを詳しく解説します。初心者の方でも安心して美味しいパンが焼けるよう、わかりやすくお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。
パン作りで「2回に分けて焼く」基本の考え方とメリット

パン作りにおいて、一度にすべての生地を焼かずに「2回に分けて焼く」ことは、実はプロの現場でも行われることがあるテクニックの一つです。まずは、なぜ分ける必要があるのか、そして分けることでどのようなメリットがあるのか、基本の考え方を整理しておきましょう。
家庭用オーブンの容量と「詰め込みすぎ」のリスク
家庭用のオーブン、特に30L以下のモデルやターンテーブル式のものは、付属している天板のサイズが限られています。レシピ本に載っている「強力粉200g〜300g」程度の分量は、実は一度に焼くには少し多すぎることがあるのです。
「なんとか全部乗せたい!」と思って天板にギチギチにパンを並べてしまうと、焼いている最中に生地が膨らんで隣同士がくっついてしまいます。いわゆる「ちぎりパン」のような状態を意図しているのであれば問題ありませんが、一つひとつ独立したきれいなロールパンやアンパンを焼きたい場合には失敗の原因となります。
また、詰め込みすぎは「熱の通り」にも悪影響を及ぼします。パンとパンの間隔が狭いと、オーブン内の熱風が均一に行き渡らず、焼きムラができたり、中心部分が生焼けになったりするリスクが高まります。2回に分けることで、パン一つひとつの周囲に十分なスペースを確保でき、熱が均等に当たってふっくらと美味しく焼き上げることができるのです。
最大の問題は「待機中の発酵進行」
2回に分けて焼く際に最も注意しなければならないのが、時間差による「発酵の進行」です。パン作りの工程では、成形後の「二次発酵(仕上げ発酵)」を経てオーブンに入れますが、このタイミングはパンの出来栄えを左右する非常にデリケートな瞬間です。
1回目の生地を焼いている間(約10分〜15分)、そして次の焼成に向けた予熱を行っている間、2回目の生地は何もしなければどんどん発酵が進んでしまいます。特に室温が高い夏場や、オーブンの熱気で暖まったキッチンでは、あっという間に発酵オーバー(過発酵)になってしまいます。
過発酵になった生地は、イーストが糖分を使い果たしてしまい、焼き色が薄くなったり、風味が落ちて酸味が出たりします。また、グルテンの網目構造が弱くなり、焼いても膨らまずにペしゃんとしたパンになってしまうこともあります。この「待ち時間のコントロール」こそが、2回焼きを成功させる最大のカギとなります。
あえて分けることで得られるクオリティ向上
「2回焼くのは面倒くさい」と感じるかもしれませんが、実は品質面でのメリットも大きいです。一度に無理やり焼こうとしてオーブン庫内の温度が下がってしまうよりも、適量をしっかり予熱された庫内で焼くほうが、パンのボリュームが出やすくなります。
特に「釜伸び(オーブンスプリング)」と呼ばれる、焼き始めの急激な膨らみを最大限に引き出すには、庫内の温度を高く保つことが重要です。生地の量を減らすことで、オーブンが生地の冷たさに負けず、安定して熱を供給できるようになります。
また、2回に分けることで、1回目で焼き加減を確認し、2回目で修正できるという利点もあります。「もう少し焼き色を濃くしたい」「温度が高すぎたかもしれない」といった反省を、すぐに次のバッチで活かせるので、結果的にパン作りの上達も早くなるでしょう。
2回目の生地を「冷蔵庫」で待機させる確実な手順

2回に分けて焼く際、最も確実で失敗が少ないのが「冷蔵庫」を活用して発酵をコントロールする方法です。プロも使うこのテクニックを家庭用にアレンジした手順をご紹介します。
なぜ冷蔵庫に入れるのがベストなのか
パン酵母(イースト)は、温度によって活動の活発さが変わります。一般的に30℃〜35℃付近で最も活発に活動し、温度が下がると活動が緩やかになります。そして、4℃〜5℃以下(冷蔵庫の温度帯)になると、イーストは活動をほぼ休止し、「休眠状態」に入ります。
この性質を利用し、2回目の生地を冷蔵庫に入れて一時的に発酵を「待った」状態にするのです。室温で置いておくと、数分の違いで発酵具合が変わってしまいますが、冷蔵庫なら時間が多少前後しても生地の状態がほとんど変わりません。
これにより、1回目の焼成時間や予熱時間に追われることなく、落ち着いて作業を進めることができます。「1回目が焼き上がったけれど、まだ準備ができていない!」という焦りを解消できるのが、冷蔵庫待機の大きなメリットです。
冷蔵庫に入れるタイミングと準備
では、具体的にどのタイミングで冷蔵庫に入れればよいのでしょうか。おすすめは「成形が終わり、天板(またはバット)に並べた直後」です。
パン作りには「一次発酵」と「二次発酵」がありますが、2回に分けて焼く場合、一次発酵までは全量をまとめて行います。その後、生地を分割し、ベンチタイムを経て成形します。ここで、1回目に焼く分はオーブンの天板に並べて通常通り二次発酵へ進めます。
一方、2回目に焼く分は、別のバットやお盆、あるいはクッキングシートを敷いた平らな板の上に並べます。そして、二次発酵を開始する前に、すぐに冷蔵庫へ入れてしまいます。「少し発酵させてから冷蔵庫に入れる」のではなく、「成形したら即・冷蔵庫」が基本です。なぜなら、冷蔵庫に入れても生地の中心まで冷えるには時間がかかり、その間も発酵は少しずつ進むからです。
乾燥を防ぐための必須アイテムと包み方
冷蔵庫内は非常に乾燥しています。パン生地にとって乾燥は大敵で、表面が乾いてしまうと膨らみが悪くなり、焼き上がりの皮が硬く厚くなってしまいます。これを防ぐために、厳重な乾燥対策が必要です。
最も手軽で効果的なのは、「大きなビニール袋」です。45Lのゴミ袋(もちろん新品で清潔なもの)のような大きな袋を用意し、生地を並べたバットごとすっぽりと入れます。袋の口はしっかりと閉じるか、下に折り込んで空気が入らないようにします。
この時、ビニール袋が生地に直接触れないように注意してください。発酵して少し膨らんだ生地にビニールがくっつくと、剥がす時に生地を傷めてガスが抜けてしまいます。バットの四隅に背の高いカップを置くなどして高さを出し、ビニールがテントのように生地の上を覆う形にするのが理想的です。
濡れ布巾をかける方法もありますが、冷蔵庫内では濡れ布巾自体が乾いてしまったり、逆に生地が水っぽくなったりすることがあるため、ビニール袋での密封が最も安全でおすすめです。
復温のタイミング:いつ冷蔵庫から出す?
冷蔵庫で冷え切った生地を、そのままいきなり高温のオーブンに入れるのはNGです。生地の温度が低すぎると、オーブンに入れても中心まで熱が伝わるのに時間がかかり、膨らむ前に表面が焼き固まってしまったり、生焼けになったりします。
そのため、焼く前に生地を常温に戻す「復温(ふくおん)」という作業が必要です。あるいは、冷蔵庫から出して仕上げの発酵を進める時間を作ります。
具体的なタイミングとしては、「1回目のパンをオーブンに入れたとき」が目安です。1回目を焼いている時間は10分〜15分程度あり、その後、2回目のための予熱時間も必要です。この合計20分〜30分程度の時間を、2回目の生地の復温と仕上げ発酵に充てるのです。
冷蔵庫から出した直後は生地が締まっていますが、室温(特にオーブンを使っている暖かいキッチン)に置いておくことで、生地の温度が上がり、イーストが再び活動を始めてふっくらとしてきます。指で軽く押して、適切な発酵状態(指の跡がゆっくり戻る程度)になっていれば、予熱完了後すぐに焼くことができます。
1回目と2回目の「焼成」スムーズな流れと段取り

ここでは、実際に2回に分けて焼くときの時間の流れをシミュレーションしてみましょう。段取りよく進めることで、オーブンの空き時間を減らし、効率的に美味しいパンを焼き上げることができます。
1回目の予熱〜焼成中にやること
1回目のパン生地の二次発酵が完了に近づいたら、オーブンの予熱を開始します。このとき、2回目の生地はまだ冷蔵庫の中です。予熱が完了し、1回目のパンをオーブンに入れたら、すぐにキッチンタイマーをセットしましょう。
このタイミングで、冷蔵庫から2回目の生地を取り出します。乾燥防止のビニール袋はかけたまま、キッチンの暖かい場所(直射日光やエアコンの風が当たらない場所)に置きます。もし冬場で室温が低い場合は、稼働中のオーブンの近く(上ではなく横など、熱すぎない場所)に置くと、オーブンからの放熱で穏やかに復温が進みます。
ただし、オーブンの真上は機種によって非常に高温になるため注意が必要です。生地が熱くなりすぎて、バターが溶け出したり過発酵になったりするリスクがあります。あくまで「ほんのり暖かい場所」を選ぶのがコツです。
1回目焼き上がり後のオーブン温度管理
1回目のパンが焼き上がったら、すぐに網の上に取り出して粗熱を取ります。そして、すぐに2回目のための準備に入ります。
ここで重要なのが「再予熱」です。オーブンの扉を開けてパンを取り出す際、庫内の温度は急激に低下します。設定温度が200℃だったとしても、扉の開閉で150℃〜170℃くらいまで下がってしまうことも珍しくありません。そのまま2回目のパンを入れてしまうと、温度不足で膨らみが悪くなります。
必ずもう一度オーブンの予熱ボタンを押し、設定温度までしっかり上げ直してください。最近のオーブンは予熱完了が早いものも多いですが、念のため5分〜10分程度待つ余裕を持つと安心です。この待ち時間が、2回目の生地にとっては最後の「仕上げ発酵」の時間になります。
2回目の生地をオーブンに入れる前の最終チェック
再予熱が完了する頃には、冷蔵庫から出しておいた2回目の生地も常温に戻り、ふっくらとしているはずです。オーブンに入れる前に、最終チェックを行いましょう。
まず、見た目で一回り大きくなっているかを確認します。次に、指の腹で優しく生地の端を押してみてください。弾力がありつつも、押した跡が少し残るようであれば発酵完了のサインです。もし、まだ生地が冷たくて硬いようであれば、予熱完了後も数分待って様子を見ます。
逆に、もし生地がダレてしまっていたり、発酵が進みすぎていると感じたら、すぐにオーブンに入れましょう。2回目の生地を天板に移す際は、せっかく膨らんだガスを潰さないように、カード(スケッパー)などを使って優しく移動させます。クッキングシートごと持ち上げて移動させると崩れにくいのでおすすめです。
裏技:天板が1枚しかない場合
多くの家庭では天板が1枚しかありません。その場合、2回目の生地はクッキングシートの上に乗せて待機させておきます。1回目のパンが焼き上がったら、パンを取り出した熱い天板を水で急冷する…のはNG(天板が歪む原因になります)。
天板が冷めるのを待つか、あるいはミトンをして熱い天板の上に新しいクッキングシートごと2回目の生地を素早く乗せ、すぐにオーブンに戻すという方法をとります。ただし、熱い天板に生地を乗せると底面の発酵が一気に進むので、手早く作業する必要があります。
失敗を防ぐ!よくあるトラブルと解決策

2回に分けて焼く方法に慣れていないうちは、いくつかのトラブルに見舞われることがあります。ここではよくある失敗例と、そのリカバリー方法をまとめました。
生地が過発酵してしまった(膨らみすぎた)場合
冷蔵庫から出すのが早すぎたり、室温が高すぎたりして、2回目の生地が巨大化し、表面に気泡が浮いてしまうことがあります。これが「過発酵」の状態です。アルコールの匂いが強くなり、焼くとシワシワになったり色が薄くなったりします。
対策:
過発酵になってしまった生地は、残念ながら元の状態に戻すことはできません。触れば触るほどガスが抜けてしぼんでしまうため、丸め直しなどはせずに、そのまま焼いてしまうのが最善策です。
もしピザ生地やフォカッチャのような平焼きパンに変更できるなら、指で穴を開けてオリーブオイルを塗り、岩塩を振って焼いてしまうのも一つの手です。惣菜パンなどの場合は、焼き時間を少し短くするなど調整して、早めに焼き上げましょう。
2回目のパンだけ焼き色が薄い・膨らまない
1回目はきれいに焼けたのに、2回目は白っぽくて硬いパンになってしまった。この原因の多くは「生地の復温不足」か「オーブンの予熱不足」です。
対策:
生地が芯まで冷えた状態で焼くと、熱通りが悪くなります。次回からは、冷蔵庫から出す時間を少し早めるか、もう少し暖かい場所に置いてしっかり常温に戻しましょう。
また、オーブンは「予熱完了」のブザーが鳴ってから、さらに5分ほど空焼きして庫内温度を安定させてから生地を入れると、焼き色がつきやすくなります。
生地が乾燥して表面がカピカピになった
焼き上がりの表面が硬く、ツヤがない場合は、待機中に乾燥してしまった可能性が高いです。乾燥した表面は伸びが悪くなり、パンのボリュームも出ません。
対策:
冷蔵庫に入れる際のビニール袋の密閉が不十分だったかもしれません。また、冷蔵庫から出した後、オーブンに入れる直前まで乾燥対策を続けることが大切です。
もし焼く前に乾燥に気づいたら、霧吹きで優しく水をかけてあげると多少リカバリーできます。焼成直前にも霧吹きをすることで、窯伸びを助ける効果もあります。
うっかり冷蔵庫に入れ忘れた時の対処法
ついうっかりして、2回目の生地も室温に放置してしまった!という場合、1回目を焼いている間にどんどん過発酵に向かってしまいます。
対策:
気づいた時点ですぐに冷蔵庫に入れましょう。少しでも温度を下げることで発酵を遅らせることができます。もしすでに発酵が完了してしまっている場合は、1回目が焼きあがるのを待たずに、フライパンで焼く(イングリッシュマフィン風にする)か、揚げパン(ドーナツ)にするなど、オーブン以外の加熱方法に切り替えるのも臨機応変な対応として有効です。
「2段焼き」機能があるオーブンの場合どうする?

最近の家庭用オーブン、特にスチームオーブンレンジなどの上位機種には「2段調理」や「2段焼き」の機能がついているものがあります。これを使えば、わざわざ2回に分けなくても一度に焼けるのでは?と考える方も多いでしょう。
一度に焼くメリットとデメリットの比較
メリット:
最大のメリットはもちろん「時短」です。2回分の焼成時間と、その間の待機時間を節約できるため、トータルで30分〜1時間ほど早く片付きます。また、光熱費の節約にもなります。
デメリット:
家庭用オーブンの2段焼きは、業務用に比べて熱風の循環が完璧ではありません。どうしても「上段は焦げやすく、下段は焼き色がつきにくい」「奥側と手前側で焼きムラが出る」といった問題が起きがちです。
また、2枚の天板を入れることで庫内の温度が下がりやすく、ハード系のパンなど高温で一気に焼き上げたいパンは、パワー不足で失敗する可能性があります。
焼きムラをなくすための天板入れ替えテクニック
それでも2段で焼きたい場合は、途中で天板を入れ替える作業が必須です。レシピの焼成時間が例えば12分なら、半分の6分〜7分が経過したところで一度オーブンを開けます。
素早く「上段の天板」と「下段の天板」を入れ替えます。さらに、それぞれの天板の「手前」と「奥」も反転させます(180度回転させる)。これにより、熱の当たり方を均一に近づけることができます。
ただし、オーブンを開けることで庫内温度が下がるため、設定温度を最初から10℃〜20℃高く設定しておくなどの工夫も必要です。
クオリティ重視ならやっぱり「2回分け」がおすすめ
結論として、「見た目も味もお店のようなパンを焼きたい」のであれば、2段機能があっても「あえて2回に分けて焼く」ことをおすすめします。
特に、食パン、バゲット、クロワッサンなどは、温度管理が命です。1段で中心を使って焼くことで、オーブンの性能をフルに発揮させることができます。逆に、小さなバターロールや菓子パン、惣菜パンなど、多少の焼きムラが気にならないものであれば、2段焼きで効率を優先しても良いでしょう。
自分の作りたいパンの種類や、その日の時間の余裕に合わせて、使い分けるのが賢いパン作りのスタイルです。
まとめ

パン作りで「2回に分けて焼く」方法は、オーブンの容量不足を解決するだけでなく、より丁寧に、失敗なく美味しいパンを焼くための有効なテクニックです。最後に、成功のための重要なポイントを振り返りましょう。
2回焼き成功の秘訣
● 2回目の生地は冷蔵庫へ:成形後すぐに冷蔵庫に入れることで、発酵の進行を適切にコントロールできます。
● 乾燥対策を徹底する:冷蔵庫内での乾燥を防ぐため、大きなビニール袋で天板ごと覆うのがベストです。
● 復温を忘れずに:1回目の焼成中に冷蔵庫から出し、常温に戻す時間を作ることで、ふっくらとした焼き上がりになります。
● 再予熱をしっかり行う:1回目終了後の温度低下を考慮し、必ず予熱し直してから2回目を入れましょう。
最初は時間の管理が難しく感じるかもしれませんが、一度リズムを掴んでしまえば、焦ることなくスムーズに作業できるようになります。「2回目はどんな焼き加減にしようかな?」と、実験感覚で楽しむ余裕も生まれるはずです。
ぜひ今回の記事を参考に、ご自宅のオーブンと仲良くなって、ワンランク上のパン作りを楽しんでくださいね。



コメント