「しょっぱいパン」と聞いて、みなさんはどんなパンを思い浮かべますか?ジュワッとバターが染み出した人気の「塩パン」でしょうか。それとも、パン作りで分量を間違えて「しょっぱくなってしまったパン」のことでしょうか。
実はこの言葉、美味しい惣菜パンを探している人と、パン作りの失敗で困っている人の両方が検索する言葉なのです。この記事では、あえてその両方の視点から解説します。絶品の塩パンを焼くためのコツから、うっかり塩辛く作ってしまった時の驚きのリメイク術まで、パンの「塩気」に関する情報を余すことなくお届けします。
しょっぱいパンの代表格!「塩パン」の魅力と人気の秘密

近年、パン屋さんで不動の人気を誇るのが「塩パン」や「塩バターロール」です。甘いパンも魅力的ですが、食事にもおやつにも、そしてお酒のおつまみにもなる「しょっぱいパン」には、独特の奥深い世界があります。ここではまず、意図的に塩気を効かせた美味しいパンの魅力について掘り下げていきましょう。
愛媛発祥!ブームの火付け役「塩パン」とは
今や全国どこのパン屋さんでも見かける「塩パン」ですが、その発祥は愛媛県のパン屋さんだと言われています。暑い夏に、汗をかいた身体に塩分補給ができるパンを、という発想から生まれました。
基本的な構造は、バターを生地で巻き込み、トップに岩塩を乗せて焼くという非常にシンプルなものです。しかし、焼成中に中のバターが溶け出し、生地の底面がそのバターで「揚げ焼き」のような状態になるのが最大の特徴です。このカリッとした底面と、ふんわりとした中の生地、そしてキリッとした塩気のコントラストが多くの人を魅了し続けています。
バターと塩の絶妙なバランスが美味しさの鍵
「しょっぱいパン」が美味しいと感じる最大の理由は、塩味と油脂(バター)のバランスにあります。料理のテクニックでも「塩味の対比効果」というものがありますが、パンにおいても同様です。
適度な塩気は、小麦本来の持つほのかな甘みを引き立てます。そこにバターのコクと旨味が加わることで、シンプルな材料ながらもリッチな味わいが生まれるのです。特に、有塩バターをたっぷりと巻き込んだパンは、食べた瞬間にジュワッと広がる脂の旨味を塩が引き締め、次から次へと手が伸びる中毒性を持っています。
おつまみにも最適!世界のしょっぱいパン
日本生まれの塩パン以外にも、世界には美味しい「しょっぱいパン」がたくさん存在します。例えば、イタリアの「フォカッチャ」は、オリーブオイルと塩を表面にまぶして焼いた、香り高い平焼きパンです。
また、ドイツの「プレッツェル」も有名です。独特の結び目のような形と、ラウゲン液というアルカリ溶液に浸してから焼くことで生まれる茶色い焼き色が特徴ですが、表面にまぶされた粗塩がビールとの相性を抜群にしています。これらのパンは、食事のサイドメニューとしてはもちろん、ワインやビールのお供としても非常に優秀です。
惣菜パン(おかずパン)としての根強い人気
日本独自の進化を遂げた「惣菜パン」も、しょっぱいパンの代表選手です。カレーパン、ソーセージパン、ベーコンエピなどは、子供から大人まで幅広い世代に愛されています。
これらはパン生地自体の塩気だけでなく、具材(フィリング)の塩分が味の決め手となります。マヨネーズやチーズといった塩分のある調味料と組み合わせることで、満足感のある「食事としてのパン」が完成します。甘い菓子パンが苦手な方にとって、こうした惣菜パンは朝食やランチの強い味方と言えるでしょう。
なぜ?手作りパンが「しょっぱい」と感じる失敗の原因

ここからは視点を変えて、パン作りをする人が直面する「失敗」について解説します。「レシピ通りに作ったはずなのに、なぜかパンが猛烈にしょっぱい…」という経験はありませんか?実は、パン作りにおける塩の扱いは意外とデリケートなのです。考えられる主な原因を見ていきましょう。
塩の計量ミス(小さじと大さじの勘違い)
最も単純かつ頻繁に起こる原因が、計量ミスです。パン作りにおける塩の量は、小麦粉に対してわずか1.5〜2%程度。例えば強力粉200gに対して、塩は3〜4gしか使いません。
この少量を計るとき、キッチンスケールを使わずに計量スプーンを使うと、「小さじ(5cc)」と「大さじ(15cc)」を間違えてしまうことがあります。また、「小さじ1」という表記を「小さじスプーン1杯」と捉えてしまい、塩の比重(小さじ1=約6g)を考慮せずに多めに入れてしまうケースも。パン作りでは0.1g単位で計れるデジタルスケールを使うのが鉄則です。
有塩バターと無塩バターの使い分け
レシピには「無塩バター」と書かれているのに、手元になかったからといって「有塩バター」で代用していませんか?これも、パンがしょっぱくなる大きな原因の一つです。
一般的な有塩バターには、1.5%前後の食塩が含まれています。パン生地にはすでに適切な量の塩が配合されているため、そこに有塩バターを加えると、塩分過多になってしまいます。どうしても有塩バターを使う場合は、あらかじめ生地に加える塩の量を減らす(マイナス2〜3g程度)などの計算と調整が必要になります。
ベーコンやチーズなど具材の塩分計算
プレーンなパンなら美味しく焼けるのに、具材を入れた途端にしょっぱくなるというケースです。これは、ベーコン、ハム、チーズ、アンチョビといった具材そのものが持つ塩分を見落としていることが原因です。
特に「ベーコンエピ」や「チーズパン」を作る際は注意が必要です。具材をたっぷりと巻き込む場合、生地自体の塩分量を通常の2%から1.5〜1.7%程度に落とさないと、食べた時に「塩辛い!」と感じてしまいます。具材の塩分と生地の塩分のトータルバランスを考えることが大切です。
発酵過多による甘みの消失と味の凝縮
意外な落とし穴として知っておきたいのが、「過発酵」による味の変化です。パンの発酵時間が長すぎたり、温度が高すぎたりすると、イースト菌が生地の中の糖分を過剰に消費してしまいます。
本来パンが持つほのかな甘みがなくなってしまうため、相対的に塩味が際立って感じられるようになります。また、焼きすぎ(焼成時間が長い、温度が低い)によって水分が飛びすぎた場合も、味が凝縮されて塩辛く感じることがあります。「なんだか味が変に濃い」と感じたら、発酵や焼成の工程を見直してみましょう。
失敗しても大丈夫!しょっぱいパンを美味しく食べるリメイク術

もしも手作りパンがしょっぱくなってしまっても、すぐに捨てないでください。塩辛いパンも、工夫次第で驚くほど美味しく生まれ変わらせることができます。ここでは、失敗したパンを救済するリメイクアイデアをご紹介します。
甘いアパレイユに浸すフレンチトースト
しょっぱいパンの救済策として最強なのが「フレンチトースト」です。牛乳、卵、砂糖を混ぜたアパレイユ(卵液)に、パンを一晩じっくりと浸し込みます。
たっぷりの砂糖と牛乳の甘さが、パンの過剰な塩気を中和してくれるため、驚くほどバランスの良い味になります。むしろ、高級な「塩キャラメル」や「塩バニラ」のような、甘じょっぱいリッチなスイーツに変身します。仕上げにメープルシロップや粉糖をかければ、失敗したことなど誰も気づかないでしょう。
ホワイトソースと合わせたパングラタン
塩気を活かして、食事系メニューにリメイクするのもおすすめです。特に相性が良いのが、ホワイトソース(ベシャメルソース)を使ったパングラタンです。
ホワイトソースを作る際、あえて塩を入れずに作ります。そして、一口大に切った「しょっぱいパン」と、ほうれん草やキノコなどの具材を耐熱皿に並べ、ソースとチーズをかけて焼きます。パンの塩分がソースに溶け出し、全体としてちょうど良い味付けになります。牛乳のまろやかさが、尖った塩気を優しく包み込んでくれます。
スープやサラダのアクセントになるクルトン
パンをサイコロ状にカットして、オーブンやトースターでカリカリになるまで焼けば、自家製クルトンの完成です。これも非常に有効な使い道です。
コーンスープやポタージュに浮かべたり、シーザーサラダのトッピングとして散らしたりします。スープやドレッシングと一緒に食べることで、パン単体では強すぎた塩気が、ちょうど良いアクセントとして機能します。保存も効くので、密閉容器に入れておけば数日は楽しめます。
薄くスライスしてカナッペやラスクに
パンをできるだけ薄くスライスして、カリカリに焼くことで用途が広がります。例えば、クリームチーズやアボカドディップ、無塩のトマトソースなどを乗せてカナッペ(おつまみ)にします。
上に乗せる具材の味付けを「塩なし」にすることで、パンの塩分を調味料代わりに使うのです。また、バターと砂糖をまぶして焼き直し、「塩ラスク」にするのも良いでしょう。甘さを足すことで、塩気が旨味へと変換され、お酒にもお茶にも合うお菓子になります。
最高の「しょっぱいパン」を自分で作るためのコツ

失敗の原因と対策がわかったところで、今度は「意図的に美味しい塩パン」を作るためのテクニックをご紹介します。パン屋さんで売っているような、カリッとしてジュワッとするあの味を自宅で再現するためのポイントです。
生地の食感を変える準強力粉の活用
通常のふんわりしたパンには「強力粉」を使いますが、美味しい塩パンやハード系のパンを目指すなら「準強力粉(フランスパン用粉)」の使用をおすすめします。
準強力粉はグルテンの量が強力粉よりもやや少なく、焼くと外側(クラスト)がパリッと香ばしく、内側(クラム)が歯切れの良い食感に仕上がります。この「パリッ」とした食感が、塩気やバターの風味と非常に良く合います。手に入らない場合は、強力粉と薄力粉を8:2くらいの割合でブレンドしても代用できます。
じゅわっと溶け出すバターの包み方
塩パンの醍醐味である「底面のカリカリ」を作るには、バターの巻き方が重要です。生地を細長い二等辺三角形に伸ばし、幅広い方に棒状に切った冷たいバターを置いて、芯にするようにクルクルと巻いていきます。
トッピングの塩にこだわる
「しょっぱいパン」の味を決定づけるのが、トッピングに使う塩の種類です。ここで使う塩は、決して食卓塩(サラサラした精製塩)を使ってはいけません。粒が小さすぎてすぐに溶けてしまい、ただ塩辛いだけのパンになってしまいます。
おすすめは、「フルール・ド・セル(塩の花)」や「岩塩」などの粒が大きく、旨味のある塩です。これらは焼いても溶けきらずに粒として残るため、食べた時に「ガリッ」という食感と、まろやかな塩気のアクセントを楽しむことができます。
高温短時間で焼き上げてカリッとした底を作る
塩パンやハード系のパンを焼くときは、オーブンの温度設定も重要です。一般的に200℃〜220℃の高温で予熱し、短時間(10分〜15分程度)で焼き上げます。
高温で一気に焼くことで、中のバターが溶け出すと同時に生地の表面が焼き固まり、中はふんわり、外はパリッとしたコントラストが生まれます。温度が低いと、バターがただ溶け出して生地全体が油っぽくなってしまうので注意しましょう。
知っておきたいパン作りにおける「塩」の重要な役割

最後に、パン作りにおいて「塩」がどのような役割を果たしているのかを少し専門的な視点で解説します。単に「味をつける」だけではない、科学的な理由を知ることで、パン作りがもっと面白くなります。
グルテンを引き締めて生地のコシを作る
塩には、小麦粉のタンパク質である「グルテン」を引き締める効果があります。塩を入れることで、パン生地にコシと弾力が生まれ、ガスを保持する力が強くなります。
もし塩を入れ忘れると、生地はダレてベタベタになり、まとまりにくくなってしまいます。焼き上がりもキメが粗く、ボソボソとした食感になってしまうのです。塩はパンの骨格を作るために欠かせない材料と言えます。
イーストの発酵をコントロールする
塩には、イースト菌の活動を適度に抑制する働きがあります。「抑制する」と聞くと悪いことのように思えますが、これは非常に重要です。
雑菌の繁殖を抑えて保存性を高める
昔から塩は保存料として使われてきましたが、パンにおいても同様の効果があります。特に長時間発酵させるパンや、具材を入れるパンにおいて、塩は雑菌の繁殖を防ぐ役割を担っています。
現代の短時間で作るパンではそこまで大きな影響はありませんが、湿度の高い季節や、作り置きするパンにおいては、適切な塩分量が安全性を守ってくれているのです。
素材の甘みを引き立てる対比効果
これは冒頭でも触れましたが、塩の最も分かりやすい役割です。小麦粉、砂糖、脱脂粉乳、卵など、パンの材料の多くは「甘み」や「まろやかさ」を持っています。
これらをただ混ぜただけでは、ぼんやりとした味になってしまいます。そこに少量の塩が入ることで、味の輪郭がクッキリとし、素材それぞれの甘みや風味がより鮮明に感じられるようになります。美味しいパンには、適切な量の塩が不可欠なのです。
しょっぱいパンを極めて、もっと楽しいパン作りを

「しょっぱいパン」には、計算された美味しさを持つ「塩パン」の世界と、うっかりミスから生まれる「失敗パン」の悩みという二つの側面がありました。しかし、どちらの場合でも共通しているのは、塩がパンの味と食感を決める最も重要な鍵であるということです。
人気の塩パンを作る際は、バターと岩塩の選び方にこだわり、高温でカリッと焼き上げることで、お店に負けない味を家庭で再現できます。一方で、もし分量を間違えてしょっぱくなりすぎてしまっても、フレンチトーストやパングラタンにアレンジすれば、むしろ普段より美味しい料理に変身させることも可能です。
塩の役割を正しく理解し、味方につけることで、あなたのパン作りライフはより豊かで失敗のないものになるはずです。ぜひ、今度の休日は美味しい「しょっぱいパン」を楽しんでみてください。




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