「自家製酵母で作るパン」と聞くと、なんだかとても難しそうに感じていませんか?実は、スーパーで手に入る身近な材料だけで、誰でも自宅のキッチンで酵母を育てることができるのです。
その中でも特に初心者の方におすすめなのが、今回ご紹介する「レーズン酵母」。レーズンの糖分が酵母の栄養となり、比較的発酵力が強く、失敗しにくいのが特徴です。瓶の中でシュワシュワと泡立つ様子や、日に日に変化していく香りは、まるで生き物を育てているような愛おしさがあります。
この記事では、初めての方でも迷わず作れるように、材料の選び方から日々の管理、そして完成の見極めまでを丁寧に解説していきます。あなただけの酵母を育てて、風味豊かな絶品パン作りを始めてみましょう。
【レーズン酵母の作り方】準備する材料と道具を揃えよう

自家製酵母作りは、まずは環境を整えることから始まります。生き物である酵母菌を扱うため、使う道具や材料選びには少しだけこだわりを持つことが成功への近道です。特別な機械は必要ありませんが、これから説明するポイントを押さえて準備を進めてください。
オイルコーティングなしのレーズン選び
レーズン酵母を作る上で最も重要なのが、レーズン選びです。スーパーの製菓材料コーナーやドライフルーツ売り場に行くと、様々な種類のレーズンが並んでいますが、必ず「オイルコーティングなし(ノンオイル)」と記載されたものを選んでください。
一般的なレーズンは、袋の中でくっつかないように表面が植物油でコーティングされています。この油膜が酵母菌の呼吸や活動を妨げてしまい、うまく発酵しない原因となります。もし手に入らない場合は、オイル付きのレーズンを熱湯でさっと洗って油を落とし、キッチンペーパーでしっかりと水分を拭き取ってから使うことも可能ですが、雑菌が入るリスクも高まるため、初心者は最初からノンオイルのものを用意するのが無難です。
煮沸消毒ができるガラス瓶の重要性
酵母を育てる「家」となる保存容器は、必ずガラス製で、煮沸消毒ができるものを選びましょう。プラスチック製の容器は、目に見えない細かい傷に雑菌が入り込んでいることがあり、酵母作りには不向きな場合があります。
瓶の容量は、作りたい酵母エキスの量に合わせますが、発酵中にガスが発生して泡が立つため、材料を入れたときにあきスペースが十分にある大きさが理想的です。例えば、レーズン100gと水300gを使うなら、容量900ml〜1000ml程度の瓶が使いやすいでしょう。
使用前には必ず鍋で煮沸消毒を行い、完全に乾かしてから使用します。少しでも水分や雑菌が残っていると、酵母が育つ前にカビが生えてしまう恐れがあるため、この工程は省略せずに丁寧に行ってください。
水と砂糖(モルト)の役割について
酵母作りに使う「水」は、水道水をそのまま使うのではなく、一度沸騰させて冷ました「湯冷まし」か、浄水器を通した水、または市販のミネラルウォーター(軟水)がおすすめです。水道水に含まれる塩素は殺菌作用があるため、酵母菌の活動を弱めてしまう可能性があります。
また、補助的に加える「砂糖」や「モルトエキス」は、酵母菌の初期の栄養源となります。レーズン自体にも糖分は含まれていますが、最初に少量の砂糖を加えることで、酵母の目覚めを助け、発酵のスタートダッシュをスムーズにする効果があります。ただし、入れすぎると雑菌も繁殖しやすくなるため、小さじ1杯程度のごく少量で十分です。
温度計とスケールがあると便利な理由
感覚で作ることもできますが、再現性を高めて失敗を防ぐには「温度計」と「キッチンスケール(はかり)」が欠かせません。
酵母菌が最も活発に働く温度帯は25℃〜28℃前後です。季節によって室温は大きく変わるため、今の環境が酵母にとって快適かどうかを知るために温度計は非常に役立ちます。また、材料の比率(レーズンと水の割合)を正確に計ることで、安定した酵母エキスを作ることができます。毎回同じ条件で作れるようになると、もし失敗したときにも「何が原因だったのか」を特定しやすくなるため、ぜひ用意しておきましょう。
1日目から完成まで!酵母エキスの育て方を写真のようにイメージ

準備が整ったら、いよいよ仕込みです。ここからは時間との勝負ではなく、「観察」がメインの作業になります。毎日少しずつ変化する瓶の中身を見守りながら、酵母が元気に育っていくプロセスを楽しみましょう。
【仕込み】瓶に材料を入れてシェイクする
まず、消毒して乾燥させた清潔な瓶に、レーズンと水を入れます。基本の割合は「レーズン1:水3」が目安です(例:レーズン100gに対して水300g)。ここに、お好みで小さじ1程度の砂糖を加えます。
蓋をしっかり閉めたら、瓶をゆっくりと上下に振って、水とレーズンをなじませましょう。この段階では、レーズンは底に沈んでおり、水も透明な状態です。
置き場所は、直射日光の当たらない、温度変化の少ない場所を選んでください。テレビの近くや冷蔵庫の上などは意外と温度が安定していておすすめです。ここから数日間、毎日1〜2回、蓋を開けて新鮮な空気を取り込み、再び蓋をして瓶を振る作業を繰り返します。
【2〜3日目】泡立ちと変化を見逃さない
2日目から3日目にかけて、徐々に瓶の中に変化が現れ始めます。最初はレーズンが水を吸って大きく膨らみ、水の色が少しずつ茶色く濁ってきます。
よく観察すると、レーズンの表面に小さな気泡がついているのが見えるはずです。これは酵母が活動を始め、炭酸ガスを出している証拠です。この時期はまだ発酵力が弱いため、あまり頻繁に蓋を開け閉めする必要はありませんが、1日1回は必ず蓋を開けて瓶の中に新しい酸素を入れてあげてください。
瓶を振ることで、水面に浮いてきたレーズンが乾燥してカビるのを防ぎ、全体に酵母菌を行き渡らせる効果もあります。少しずつレーズンが浮き上がってくる様子は、見ていてとてもワクワクします。
【完成の目安】オリが沈んで発泡が落ち着くまで
4日目〜5日目(冬場はもっとかかることもあります)になると、発酵のピークを迎えます。蓋を開けると「プシュッ!」という元気な音がして、細かい泡が勢いよく立ち上ります。瓶の中ではレーズンが激しく踊るように動き、水面全体が泡で覆われるような状態になります。
この「勢いよく泡立っている状態」ですぐに使いたくなりますが、実はまだ少し早いです。さらに我慢して様子を見ていると、やがて激しい発泡が少し落ち着き、瓶の底に白っぽい澱(オリ)が溜まってきます。この「オリ」こそが酵母菌の死骸や集まりであり、エキスが十分に熟成されたサインです。レーズンは浮いたままのものもあれば、沈むものもありますが、オリがしっかり溜まり、泡の勢いが穏やかになった時が完成のタイミングです。
完成した酵母エキスのろ過と保存方法
完成したと判断したら、清潔なザルや茶こしを使って、エキスとレーズンの実を分けます。このとき、無理にレーズンを押し潰して絞り出す必要はありません。自然に滴り落ちる液体だけを集めます。
出来上がった「レーズン酵母エキス」は、消毒した別の保存瓶に入れ、すぐに冷蔵庫で休ませましょう。出来立てのエキスはまだ活動が活発すぎるため、冷蔵庫で一晩ほど寝かせて落ち着かせることで、パン作りに適した状態になります。
冷蔵庫内でも酵母はゆっくりと生きていますので、数日に1回は蓋を開けてガスを抜いてあげてください。保存期間は1ヶ月程度が目安ですが、香りがお酢のように酸っぱくなったり、変な濁りが出たりした場合は使用を中止しましょう。
パン作りに必須!レーズン酵母エキスから「元種」を作る手順

酵母エキスが完成したら、そのままパン生地に混ぜて使うこともできます(ストレート法)。しかし、より安定してふっくらとしたパンを焼くためには、エキスと小麦粉を混ぜて発酵力を高めた「元種(中種)」を作るのが一般的です。
元種(中種)とは?エキスとの違い
「元種(もとだね)」とは、液状の酵母エキスに小麦粉を混ぜて培養し、ペースト状や固形にした発酵種のことです。エキスそのものよりも酵母菌の密度が高く、発酵力が強くて安定しているのが特徴です。
エキスをそのまま使うストレート法は、フルーティーな香りが強く出る反面、発酵に時間がかかり、膨らみが弱くなることがあります。一方、元種を使う方法は、発酵時間が短縮でき、釜伸び(オーブンでの膨らみ)も良くなるため、初心者の方には特に扱いやすい製法と言えます。いわば、パンを焼くための「エンジンの出力を上げる」工程だと考えてください。
全粒粉と強力粉どちらを使うべきか
元種作りに使う粉は、基本的にパン作りで使用する「強力粉」で構いません。しかし、より発酵力を高めたい場合や、香ばしい風味を加えたい場合は「全粒粉」を混ぜるのがおすすめです。
全粒粉は小麦の表皮や胚芽が含まれているため、酵母菌の栄養となるミネラルが豊富です。そのため、最初の1回目だけ全粒粉を使い、2回目以降は強力粉で継いでいくという方法も人気があります。もちろん、真っ白で癖のないパンを焼きたい場合は、最初から全て強力粉で作っても全く問題ありません。作りたいパンのイメージに合わせて粉を選んでみましょう。
「かけ継ぎ」をして酵母を強く育てる方法
元種作りは、1回混ぜて終わりではありません。「かけ継ぎ(種継ぎ)」と呼ばれる作業を数回繰り返すことで、酵母をより強く育てていきます。
基本的な手順は以下の通りです。
2. 室温(25℃前後)に置き、嵩(かさ)が2倍になるまで発酵させる。
3. 冷蔵庫で一晩休ませる。
4. 翌日、粉と水を足して混ぜ、再び2倍になるまで発酵させる。
この工程を2〜3回繰り返すことで、発酵力が強く、安定した元種が完成します。かけ継ぎの回数が増えるほど酸味がまろやかになり、パンのボリュームが出やすくなります。
冷蔵庫での保存期間と使い切りの目安
完成した元種は冷蔵庫で保存します。一番元気で美味しい状態で使えるのは、完成から3日〜1週間程度です。
使わずに放置してしまうと、酵母が餌不足になり、酸味が出てきたり、ドロドロに溶けてしまったりします。もし長期間使わない場合は、1週間に1回程度、少量の粉と水を足して「リフレッシュ(餌やり)」をすることで、酵母を元気に保つことができます。
ただし、何度も継ぎ足していると雑菌混入のリスクも増えるため、家庭では2〜3週間程度で使い切り、また新しい酵母エキスから元種を作り直すサイクルを作るのが衛生的でおすすめです。
うまくいかない時は?レーズン酵母作りでよくある失敗と対策

「レシピ通りにやったはずなのに、泡が出ない」「変なにおいがする」など、自家製酵母作りにはトラブルがつきものです。しかし、原因さえわかれば対処できることも多くあります。ここでは、よくある失敗例とその解決策を詳しく見ていきましょう。
泡が出ない・発酵が進まない原因
数日経っても全く泡が出ない場合、いくつかの原因が考えられます。最も多いのが「温度が低すぎる」ことです。酵母は20℃以下になると活動が鈍くなります。冬場などは、瓶をタオルで巻いたり、暖かい部屋に移動させたりして保温してみましょう。
次に考えられるのが「レーズンのオイルコーティング」です。もしオイル付きを使っていた場合は、酵母が呼吸できずに死滅している可能性があります。
また、水道水をそのまま使って塩素の影響を受けている場合や、瓶に残っていた洗剤成分が影響していることもあります。環境を見直して、もう一度仕込み直す勇気も時には必要です。
白い膜やカビが生えてしまった時の対処法
液面に白い膜のようなものが張ることがあります。これは「産膜酵母(さんまくこうぼ)」と呼ばれるもので、カビとは異なります。人体に害はありませんが、風味を損なう原因になるため、清潔なスプーンで取り除けば問題なく続けられます。
一方、「ふわふわした毛のようなもの」や「青や黒、緑色の斑点」が見えた場合は、明らかに「カビ(黒カビ・青カビなど)」です。残念ですが、これは失敗です。カビの胞子は目に見えない部分まで広がっている可能性があるため、もったいないですが中身をすべて捨てて、瓶を徹底的に消毒してから作り直してください。
シンナーのような変なにおいがする場合
蓋を開けた時に、除光液やセメダインのようなツンとする刺激臭(シンナー臭)がすることがあります。これは酵母が「お腹を空かせている」サイン、または「温度が高すぎて過発酵気味」な時によく起こります。
酵母菌が糖分を食べ尽くしてしまい、酢酸エチルなどの成分を作り出している状態です。この場合、少量の砂糖(小さじ1/2程度)を足して様子を見るか、早めに冷蔵庫に移して活動を落ち着かせることで回復することがあります。ただし、あまりに臭いがきつい場合は、パンの風味も悪くなるため、作り直した方が良いでしょう。
瓶の蓋が開かないほどガスが溜まったら
発酵のピーク時には、想像以上のガスが発生します。蓋をきつく閉めすぎていると、瓶の内圧が高まりすぎて蓋が開かなくなったり、最悪の場合は瓶が破裂したりする危険があります。
発酵中は、スクリューキャップなら少し緩めておくか、1日に数回こまめにガス抜きを行うことが大切です。もし蓋が固くて開かなくなってしまった場合は、瓶の蓋部分をお湯で温めたり、ゴム手袋をして回したりすると開くことがありますが、中身が噴き出す可能性があるため、シンクの中で、顔を近づけずに慎重に作業してください。
室温管理が難しい夏場と冬場の注意点
日本の気候では、春と秋が酵母作りのベストシーズンですが、夏と冬でも工夫次第で作ることができます。
夏場の注意点:室温が30℃を超えると、酵母よりも雑菌や腐敗菌が繁殖しやすくなります。直射日光を避け、保冷剤を入れた発泡スチロール箱や、野菜室(温度が高めの設定)を活用するなどして、25℃前後の環境を作ることが大切です。発酵の進みが早いので、過発酵(腐敗)にも注意が必要です。
冬場の注意点:気温が低いと発酵がなかなか進みません。完成までに1週間〜10日かかることもザラです。コタツの中や冷蔵庫の横、高い位置(暖かい空気は上にたまるため)に置くなどして、酵母を冷やさないように工夫しましょう。ゆっくり育った冬の酵母は、キメが細かく日持ちが良いというメリットもあります。
出来上がったレーズン酵母で作るおいしいパンの楽しみ方

苦労して育てた酵母を使って焼くパンの味は格別です。イーストで作るパンとは一味違う、複雑な旨味と香りを存分に楽しみましょう。ここでは、レーズン酵母と相性の良いパンのスタイルをいくつかご紹介します。
酵母の風味を活かすカンパーニュ
レーズン酵母の魅力を最大限に引き出せるのが、フランスパンの一種である「カンパーニュ(田舎パン)」です。小麦粉、塩、水、そして元種というシンプルな材料で作られるため、酵母そのものが持つフルーティーな香りや、熟成された旨味がダイレクトに感じられます。
バリッとした厚めの皮(クラスト)と、しっとりモチモチの中身(クラム)のコントラストは、自家製酵母ならではの食感。噛めば噛むほど味わい深く、スープや肉料理との相性も抜群です。まずはこのシンプルなパンで、育てた酵母の実力を味わってみてください。
ハード系だけじゃない!食パンへの活用
自家製酵母というとハード系のパンをイメージしがちですが、実は「食パン」も美味しく焼くことができます。レーズン酵母で作る食パンは、イーストで作るものよりも老化(乾燥して硬くなること)が遅く、翌日もしっとり感が続くのが特徴です。
ほんのりと酵母由来の甘みや酸味が加わり、トーストすると香ばしさが際立ちます。バターや牛乳を使ったリッチな配合の生地でも、酵母の力でしっかりと膨らみ、味わい深い高級感のある食パンに仕上がります。
余った酵母エキスで作れるスコーンや菓子
パン作りをしていると、どうしても使いきれずに余ってしまう「酵母エキス」や、かけ継ぎで余った「元種」が出てきます。これらを捨ててしまうのはもったいないですよね。
そんな時は、スコーンやクラッカー、パンケーキなどのお菓子作りに活用しましょう。ベーキングパウダーの代わりに酵母エキスや元種を入れることで、ザクザクとした独特の食感や、風味豊かなコクが生まれます。特にスコーンは、材料を混ぜて焼くだけなので手軽に作れ、酵母の消費レシピとしても非常に優秀です。
まとめ:レーズン酵母の作り方をマスターして自家製パンを楽しもう

レーズン酵母の作り方について、材料の選び方から完成後の活用法まで詳しく解説してきました。最初は「瓶の消毒」や「毎日の観察」を手間に感じるかもしれませんが、日に日に育っていく酵母の姿を見ていると、自然と愛着が湧いてくるものです。
【レーズン酵母作りの重要ポイント】
・オイルなしのレーズンと清潔な瓶を使うこと
・毎日1回は蓋を開けて新鮮な空気を送ること
・25℃〜28℃の温度帯を意識すること
・泡立ちだけでなく「オリ」の沈殿を完成の目安にすること
失敗しても、それは酵母の生態を知るための大切な経験になります。季節や環境によって表情を変える酵母との対話を楽しみながら、世界に一つだけの「我が家の味」を焼き上げてみてください。自家製酵母で焼いたパンの香ばしい匂いが、あなたのキッチンを幸せで満たしてくれるはずです。



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