「レシピに『卵1個』とあるけれど、LサイズでもMサイズでもいいの?」「卵を入れると生地がベチャベチャになってしまった……」
パン作りをしていると、こうした「卵と水分の悩み」に直面したことはありませんか?実は、パン作りにおいて卵は単なる風味づけではなく、生地の水分量(加水率)を大きく左右する重要な材料です。卵の水分量や計算方法を正しく理解していないと、生地がまとまらなくなったり、焼き上がりがパサついたりする原因になってしまいます。
この記事では、パン作りにおける卵の水分量の考え方や、誰でも簡単にできる計算方法、そして卵がパンに与えるうれしい効果について、初心者の方にもわかりやすく解説します。卵の扱い方をマスターして、ワンランク上の美味しいパンを焼き上げましょう!
パン作りにおける卵の水分量と役割

パン作りにおいて、卵は水や牛乳と同じように「水分」として扱われることが多いですが、実はその中身は水だけではありません。まずは、卵の中にどれくらいの水分が含まれているのか、そして卵黄と卵白ではどのような違いがあるのかという基本的な知識から見ていきましょう。これを知るだけで、レシピの調整がぐっと楽になります。
卵に含まれる水分は何パーセント?
普段何気なく使っている卵ですが、その成分の大部分は「水分」です。しかし、水100gと卵100gでは、当然ながら水分量が異なります。
パン作りで一般的に基準とされる数値は以下の通りです。
【卵の水分量の目安】
● 全卵(殻なし):約75〜76%
● 卵黄:約48〜50%
● 卵白:約88〜90%
このように、全卵の場合は約4分の3が水分で、残りの約4分の1はタンパク質や脂質などの「固形分」となります。つまり、水100gを卵100gに置き換えてしまうと、水分が約25gも不足することになり、生地が硬くなってしまうのです。逆に、この水分量を計算に入れずにレシピの水に卵を足してしまうと、水分過多でベタベタの生地になってしまいます。
「卵も水分の一部」として計算することが、失敗しないパン作りの第一歩です。
全卵・卵黄・卵白それぞれの違い
卵は「全卵」で使う場合と、「卵黄のみ」「卵白のみ」で使う場合で、パン生地への影響が大きく異なります。
まず「卵黄」は、水分量が約50%と少なく、脂質(油分)を多く含んでいます。そのため、生地にコクや旨味を与え、しっとりとした食感にする効果があります。卵黄に含まれる「レシチン」という成分は天然の乳化剤として働き、水と油をなじませて生地を柔らかく保つ役割も果たします。
一方、「卵白」は約90%が水分で、残りは主にタンパク質です。脂質はほとんど含まれていません。卵白のタンパク質は熱を加えるとしっかりと固まる性質があるため、パンの骨格を強くし、上に膨らむ力を助けてくれます。しかし、入れすぎると水分が飛びやすく、少しパサついた食感になりやすいという特徴もあります。
「全卵」はこれら両方の性質をバランスよく持っているため、ふんわりとして口溶けの良い、多くの人に好まれるパンに仕上がるのです。
卵がパン生地に与える影響とは
水分量の変化以外にも、卵を加えることでパンにはたくさんのメリットが生まれます。主な効果は以下の3つです。
1つ目は「風味とコクの向上」です。卵特有の香ばしい香りや豊かな味わいは、水だけのシンプルなパン(リーンなパン)にはない魅力です。
2つ目は「焼き色の美しさ」です。卵のタンパク質や糖分が加熱されることで「メイラード反応」が促進され、食欲をそそる黄金色の焼き色がつきやすくなります。
3つ目は「老化の防止」です。卵黄の乳化作用によって生地の水分と油分が安定し、焼いた後も硬くなりにくく、翌日までしっとり感が続きやすくなります。
卵を使った場合の水分量の計算方法

ここからは、実際にパン作りをする時に一番悩む「水分の計算方法」について解説します。レシピをアレンジしたい時や、余った卵を使いたい時に、この計算式を知っていると非常に便利です。難しそうに見えますが、基本的なルールさえ覚えれば電卓ひとつで簡単に計算できます。
基本的なベーカーズパーセントの考え方
パン作りには「ベーカーズパーセント」という独特の計算方法があります。これは、使用する粉の総量を「100%」とし、その他の材料が粉に対して何パーセントあるかを表したものです。
例えば、「粉200gに対して水が130g」入るレシピなら、水分量(加水率)は65%となります。
卵を使う場合、この「加水率」をどう設定するかが重要です。一般的に、初心者の方が扱いやすい加水率は62%〜68%程度と言われています。
卵をレシピに加えるときは、卵の水分も含めてこのパーセンテージに収まるように「水(または牛乳)」の量を調整する必要があります。「卵とは別に、水もレシピ通り入れる」のではなく、「卵と水の合計で、目標の水分量にする」という考え方が基本になります。
卵を「水分」としてカウントする計算式
一番シンプルで、家庭でのパン作りにおすすめなのが「全卵をそのまま水分(液体)としてカウントする」方法です。厳密には固形分が含まれますが、多くのレシピ本や家庭用の製法では、この簡易的な計算で十分美味しく作れます。
例えば、粉200gで加水率65%(水分合計130g)のパンを作りたい場合で、Mサイズの卵1個(約50g)を使うとしましょう。
計算式は以下のようになります。
【簡易計算式】
必要な水分の総量 - 卵の重量 = 加える水の量
例)
目標水分量:130g
卵の重量:50g
130g - 50g = 80g
つまり、この場合は「卵50g」と「水80g」を入れれば、合計で130gの水分が入ったことになります。
この方法のメリットは、計算がとても簡単なこと。デメリットとしては、卵の固形分(約25%)も水分として数えているため、厳密な水だけの生地(リーンな生地)に比べると、実際の水分量は少し下がります。そのため、少し硬めのしっかりした生地になりやすい傾向がありますが、初心者の方には扱いやすく、失敗が少ない方法です。
固形分を考慮したより正確な計算
よりプロに近い、ふわふわでしっとりしたパンを作りたい場合は、卵の「水分量(約75%)」だけを計算に入れる方法を使います。「卵の25%は固形分だから、それは水とはみなさない」という考え方です。
先ほどと同じ、粉200gで加水率65%(水分合計130g)を目指す場合で計算してみましょう。
【正確な計算式】
1. 卵の中の水分量を出す
卵50g × 0.75(水分率) = 37.5g(卵由来の水)
2. 足りない分を水で補う
目標130g - 37.5g = 92.5g(加える水)
簡易計算では水は「80g」でしたが、こちらの計算では「約92.5g」となり、水の量が12g以上増えました。
この方法で作ると、生地の水分量がしっかりと確保されるため、焼き上がりがより柔らかく、老化も遅いパンになります。ただし、水分量が増えるぶん生地がベタつきやすくなるため、こねる技術が少し必要になります。
初心者におすすめの計算テクニック
計算が苦手な方や、毎回電卓を叩くのが面倒な方におすすめの、現場でもよく使われる実践的な手順をご紹介します。この4ステップを踏めば、大きな失敗を防ぐことができます。
1. 目標の加水率を決める
作りたいパンに合わせて、粉に対する水分の割合を決めます(食パンなら65〜68%、バターロールなら62〜65%程度が目安)。
2. 卵を先に割って計量する
卵は個体差が大きいので、先にボウルに割り入れ、よく溶きほぐしてから重さを量ります。レシピの「1個」という表記に頼らず、必ずグラムを確認しましょう。
3. 「総水分量」から「卵の重さ」を引く
簡易計算(卵を液体とみなす方法)でOKです。例えば目標水分が150gで、卵が52gなら、残りは98gです。
4. 水を少し多めに用意し、調整しながら入れる
計算で出た水(例:98g)に、プラス5〜10g程度の予備の水を用意しておきます。まずは計算通りの水を入れてこね始め、生地が硬いと感じたら予備の水を足していきます。湿度や粉の銘柄によって吸水率は変わるため、最後は「手触り」で調整するのが一番確実なテクニックです。
卵のサイズと重量のブレを攻略する

「L玉」「M玉」と表示されていても、実はパックの中の卵一つひとつには重量のばらつきがあります。パン作りにおいて、たった数グラムの水分差が生地の扱いやすさを変えてしまうこともあります。ここでは、卵のサイズに関する知識と、計量時のポイントを深掘りします。
S・M・Lサイズの重量の違い
スーパーで売られている卵のサイズは、農林水産省の規格によって重さで決められています。ただし、この規格は「殻付き」の重さです。パン作りで重要なのは「殻を割った中身(可食部)」の重さですので、その目安を知っておきましょう。
| サイズ | 殻付き重量目安 | 殻なし重量目安 |
|---|---|---|
| Sサイズ | 46g〜52g未満 | 約40g |
| Mサイズ | 52g〜58g未満 | 約50g |
| Lサイズ | 58g〜64g未満 | 約60g |
こうして見ると、SサイズとLサイズでは中身だけで約20gもの差が出ることがわかります。これは水に換算すると大さじ1杯以上の差です。パン生地にとって大さじ1杯の水分の違いは、生地が「ちょうどいい」か「ドロドロ」かを分ける決定的な差になり得ます。
また、サイズが大きくなっても卵黄の大きさはあまり変わらず、主に「卵白」の量が増える傾向にあることも覚えておくと良いでしょう。
殻なしの重量を基準にする重要性
レシピ本に「卵(M)1個」と書いてある場合、多くの著者は「殻なしで約50g」を想定してレシピを作っています。
もし手元にLサイズの卵しかなく、そのまま1個(約60g)を入れてしまうと、10gの水分過多になります。逆にSサイズ(約40g)を使うと、10gの水分不足になります。
「たかが10g」と思うかもしれませんが、粉200gのパンなら加水率が5%も変動することになります。加水率5%のズレは、パンの仕上がりを別物にしてしまうほどの大きな影響力を持っています。そのため、どんなに面倒でも「卵は殻を割ってから計量する」ことが、美味しいパンを作るための鉄則です。
計量時に気をつけるべきポイント
卵を計量する際は、以下の手順で行うとスムーズかつ正確です。
まず、別の容器に卵を割り入れ、白身のコシ(ドロッとした部分)を切るようにしっかりと溶きほぐします。白身と黄身が分離したままだと、計量した時に「白身ばかりが入って黄身が少ない」といった偏りが起きてしまうからです。
次に、必要な分量を計量します。もし「50g必要だが、溶き卵が55gあった」という場合は、5gだけ取り除きます。この余った5gは、焼く前のツヤ出し(ドリュール)として使ったり、スープに入れたりして活用しましょう。
メモ
冷蔵庫から出したばかりの冷たい卵を使うと、パン生地の温度を下げすぎて発酵が遅れる原因になります。計量する前に常温に戻しておくか、急ぐ場合はぬるま湯(30度程度)で湯煎して温めてから使うと、発酵がスムーズに進みます。
水分量が変わるとパンの食感はどうなる?

卵の量や、それに伴う水分のバランスを変えることで、パンの食感は自在にコントロールできます。「卵が多いパン」と「卵がないパン」では、どのような違いが生まれるのでしょうか。食感のメカニズムを知って、自分好みのレシピ調整に役立てましょう。
卵たっぷりのブリオッシュ生地の特徴
卵をたっぷり使ったパンの代表格といえば「ブリオッシュ」です。ブリオッシュは、仕込み水のほとんど(あるいは全て)を卵でまかないます。
卵黄の油脂分とレシチンの乳化作用が最大限に発揮されるため、焼き上がりはケーキのようにふんわりと軽く、口の中でほろりと崩れるような食感になります。クラム(中身)は鮮やかな黄色になり、リッチで濃厚な風味が特徴です。
このように卵の比率が高い生地は、水分量は多くても卵白のタンパク質が骨格を支えてくれるため、バターなどの油脂をたくさん入れても高さが出やすく、ボリュームのあるパンになりやすいというメリットがあります。
卵なしのハード系パンとの比較
一方、フランスパン(バゲット)などのハード系パンには、基本的に卵を入れません。材料は「粉、水、塩、酵母」のみです。
卵が入らないことで、小麦本来の香りがダイレクトに感じられ、皮(クラスト)はパリッと硬く香ばしく、中身(クラム)はもっちりとした弾力のある食感になります。
卵を入れると生地が歯切れよくソフトになる反面、ハード系特有の「引きの強さ」や「ガリッとした皮」は弱まります。
「もっちり噛みごたえのあるパン」を作りたい場合は卵を減らすか無しにし、「ふんわり歯切れの良いパン」を作りたい場合は卵を増やす、というように使い分けるのがポイントです。
パサつきを防ぐための水分調整
「卵を入れたパンを作ったら、翌日パサパサになってしまった」という経験はありませんか?
これは、卵白の性質が関係していることが多いです。卵白のタンパク質は熱で凝固して硬くなる性質があり、また水分を抱え込む力が比較的弱いため、乾燥しやすい傾向があります。
これを防ぐためには、2つの調整方法があります。
ひとつは、「卵黄のみ」を使うことです。卵白を抜いて卵黄だけを使えば、乾燥を防ぎつつしっとり感を高めることができます。
もうひとつは、「水分量をしっかり確保すること」です。先ほど紹介した「固形分を考慮した計算方法」を使って、卵以外の水や牛乳を少し多めに配合してみてください。生地に十分な水分が含まれていれば、卵が入っていても翌日までしっとりしたパンを保つことができます。
失敗しないための水分調整テクニック

最後に、実際にキッチンで生地を扱う際に役立つ、実践的なテクニックをご紹介します。計算通りに計量しても、その日の湿度や粉の状態によって生地の様子は変わります。そんな時にどう対応すればよいかを知っておけば、もうパニックになることはありません。
こねる前の水回しのコツ
材料を混ぜ合わせる最初の段階(水回し)は、パンの出来を左右する重要な工程です。
卵入りの生地を作る時は、まず粉類と「卵+水(液体)」を混ぜ合わせますが、この時、いきなり全量を入れずに9割程度の水分を入れて様子を見ましょう。
粉っぽさがなくなり、ひとまとまりになった時点で生地の固さを確認します。耳たぶくらいの柔らかさならOKですが、硬くて指が入らないようであれば、残りの水を少しずつ足していきます。
また、卵と水を混ぜ合わせた液体を一度に入れると混ざりにくい場合があるため、卵は事前によく水に溶かして「卵液」の状態にしてから粉に加えると、ムラなくスムーズに混ざります。
生地がベタつく時の対処法
卵が入った生地、特に加水率を高めに設定した生地は、こね始めが非常にベタつきます。「失敗したかも?」と不安になって粉を足したくなりますが、すぐに粉を足すのはNGです。
卵の脂質や水分がグルテンになじむまでには時間がかかります。最初はベタベタでも、こね続けてグルテンが形成されてくると、自然と生地がつながって手離れが良くなってきます。まずは10分〜15分、根気よくこねてみてください。
それでもどうしてもまとまらない(ドロドロの状態が変わらない)場合のみ、小さじ1杯ずつ強力粉を足して様子を見ましょう。
季節や室温による微調整の方法
パン作りは環境に敏感です。特に夏と冬では、同じ配合でも生地の状態が変わることがあります。
夏場(湿度が高い時)
粉が空気中の水分を吸っているため、レシピ通りの水を入れるとベタつきやすくなります。水分量を2〜3%減らす(130gなら3〜4g減らす)か、卵のサイズを小さめにするのがおすすめです。
冬場(乾燥している時)
粉が乾燥しているため、水分が不足しがちになります。レシピ通りの水に加え、5g程度余分に水を用意しておき、生地の硬さを見ながら足してあげると良いでしょう。
このように、数値にこだわりすぎず、目の前の生地の状態に合わせて「対話」をするように水分を微調整することが、美味しいパンを焼く最大の秘訣です。
まとめ:卵と水分量を理解して理想のパンを焼こう

パン作りにおいて「卵」は、単なる材料の一つではなく、生地の水分量や食感を決定づける大きな要素です。今回ご紹介した以下のポイントを押さえておけば、レシピにとらわれすぎず、自分好みのパンを作れるようになります。
- 卵の約75%は水分。レシピの水を調整するときは、卵を「水分」として計算に入れる。
- ベーカーズパーセントを意識する。卵と水を合わせた「総水分量」で考えるのが成功の鍵。
- サイズによる誤差に注意。必ず「殻なし」で計量し、1g単位で正確さを心がける。
- 食感の好みで使い分ける。しっとりさせたいなら卵黄、ボリュームを出したいなら全卵。
「水分量」と聞くと難しく感じるかもしれませんが、一度計算方法に慣れてしまえば、あとは自由自在です。今日のパン作りから早速、卵の重さを量り、水分量を意識してみてください。きっと、今まで以上にふんわりと美味しい、理想のパンが焼き上がるはずです。



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