「パン作りを始めたいけれど、レシピに書いてある砂糖はどれを使えばいいの?」
「家にある普通の砂糖でも、おいしいパンは焼けるのかな?」
そんな疑問を持ったことはありませんか。パン作りにおいて、砂糖は単に甘みをつけるだけでの調味料ではありません。実は、パンのふくらみや焼き色、そして翌日のしっとり感にまで大きく関わる、非常に重要な役割を担っているのです。
スーパーの売り場には、上白糖、グラニュー糖、きび砂糖、てんさい糖など、たくさんの種類の砂糖が並んでいます。これらを使い分けることで、パンの風味や食感を自分好みにコントロールできるようになります。
この記事では、パン作りに欠かせない砂糖の役割から、種類ごとの特徴、そして作りたいパンに合わせたおすすめの選び方まで、わかりやすく解説していきます。
パン作りで砂糖が果たす4つの重要な役割とは?

パン作りにおいて、砂糖は「縁の下の力持ち」のような存在です。レシピを見ると、甘くない食パンやハード系のパンにも少量の砂糖が入っていることがよくあります。なぜ、甘くする必要がないパンにも砂糖を入れるのでしょうか。それには、味付け以外にも科学的な理由が隠されています。ここでは、美味しいパンを作るために砂糖が働いている4つの役割について詳しく見ていきましょう。
イースト(酵母)の栄養源となり発酵を助ける
砂糖の最も重要な役割の一つは、パンをふくらませるイースト(酵母)の「エサ」になることです。イーストは生き物であり、活動するためには栄養が必要です。生地の中に砂糖があると、イーストはその糖分を分解して「炭酸ガス」と「アルコール」を作り出します。
この時に発生する炭酸ガスが生地の中に気泡となって溜まり、パンをふっくらと大きくふくらませるのです。また、生成されるアルコールはパン特有の芳醇な香りの元となります。砂糖が全く入っていない生地や極端に少ない生地では、イーストの活動が鈍くなり、発酵に時間がかかったり、思うようにふくらまなかったりすることがあります。適切な量の砂糖を加えることで、イーストが元気に活動し、ふんわりとしたボリュームのあるパンが焼き上がるのです。
美味しそうな焼き色(焦げ目)をつける
パン屋さんで売られているパンの、あの食欲をそそる黄金色の焼き色。実は、あれも砂糖のおかげでついています。パン生地が高温のオーブンで焼かれるとき、生地に残っている糖分が熱によって化学反応を起こします。
これを「メイラード反応」および「カラメル化」と呼びます。メイラード反応は、糖と小麦粉などのタンパク質が反応して褐色に変化し、香ばしい風味を生み出す現象です。もし砂糖を入れずにパンを焼くと、焼き色がつきにくく、全体的に白っぽく味気ない見た目になってしまいます。こんがりとした美しい焼き色と、焼きたての香ばしい匂いは、砂糖が十分に存在して初めて生まれるものなのです。
水分を保ち、しっとりとした食感を長持ちさせる
砂糖には「保水性」という、水分を抱え込んで離さない性質があります。この性質は、パンの焼き上がりやその後の保存状態に大きく影響します。生地に砂糖を加えることで、焼いている間も水分が蒸発しすぎるのを防ぎ、焼き上がったパンの中身(クラム)をしっとりと柔らかく仕上げてくれます。
さらに重要なのは、時間が経ってからの変化です。手作りパンは翌日になると固くなりがちですが、砂糖の保水性が高いパンは、時間が経っても水分が逃げにくく、パサつきを抑えることができます。つまり、砂糖はパンの「老化」を遅らせ、翌日でも美味しい状態をキープしてくれる保存料のような働きも兼ねているのです。
パンに豊かな風味と甘みを加える
もちろん、単純に「甘みをつける」という役割も重要です。しかし、パン作りにおける砂糖の風味への貢献は、単なる甘さだけではありません。使用する砂糖の種類によって、コクやまろやかさ、ミネラルの風味など、パン全体の味わいに奥行きを与えることができます。
例えば、真っ白な砂糖を使えば小麦の香りを邪魔しないスッキリとした味になりますし、黒糖やきび砂糖を使えば、独特の香りとコクがプラスされ、味わい深いパンになります。作るパンのコンセプトに合わせて砂糖を選ぶことで、風味のバリエーションを無限に広げることができるのです。
パン作りの砂糖おすすめ:基本の白いお砂糖

パン作りで最も一般的に使われるのが、精製された白い砂糖です。これらはクセがなく、どのようなパンにも合わせやすいという特徴があります。初心者の方がまず揃えるべき砂糖や、それぞれの特徴について解説します。
しっとりソフトな仕上がりの「上白糖」
日本で「砂糖」といえば、この上白糖(じょうはくとう)を指すことがほとんどです。実は世界的に見ると珍しい日本独特の砂糖なのですが、日本のパン作りにおいては基本中の基本となる砂糖です。上白糖の特徴は、しっとりとしていて少し粘り気があることです。
これは、製造工程で「転化糖」という成分がまぶされているためです。この転化糖のおかげで、保水性が非常に高く、パン生地をしっとりと柔らかく仕上げる効果に優れています。また、焼き色もつきやすいため、食パンや菓子パンなど、ソフトで口当たりの良いパンを作りたい時に最適です。スーパーで安価に手に入り、ダマになりにくいので扱いやすいのも初心者には嬉しいポイントです。
サクッと軽い食感になる「グラニュー糖」
グラニュー糖は、世界中で最も標準的に使われている砂糖です。上白糖よりも純度が高く、サラサラとした細かい粒が特徴です。クセのないすっきりとした甘さを持っており、小麦粉やバターなど他の材料の風味を邪魔しません。
パン作りに使用すると、上白糖のような粘り気がないため、サクッとした歯切れの良い軽い食感に仕上がります。そのため、フランスパンのようなハード系のパンや、クロワッサン、ブリオッシュなど、軽さを出したいパンにおすすめです。また、メロンパンのクッキー生地のように、表面のサクサク感を出したい場合にもグラニュー糖が適しています。プロのレシピではグラニュー糖が指定されることも多いので、一つ持っておくと便利です。
デコレーションにも活躍する「粉砂糖」
粉砂糖は、グラニュー糖をさらに細かく粉砕してパウダー状にしたものです。生地の中に練り込む材料として使われることはあまり多くありませんが、ブリオッシュやシュトーレンなど、リッチな配合のパンやお菓子の要素が強いパンでは使われることがあります。
生地に使う場合のメリットは、その溶けやすさです。水分が少ない生地でも素早く溶けて馴染むため、混ぜる回数を減らしたい繊細な生地作りに向いています。しかし、主な用途はやはり仕上げのデコレーションでしょう。焼き上がったパンに茶こしで振りかけるだけで、見た目が一気に華やかになります。なお、湿気を吸って固まりやすいため、コーンスターチが含まれているタイプと純粋な砂糖だけのタイプがあり、用途によって使い分ける必要があります。
【白いお砂糖の使い分けまとめ】
- 上白糖:しっとり、ふんわりさせたい日常のパンや食パンに。初心者におすすめ。
- グラニュー糖:サクッと軽い食感、素材の味を活かしたいパンに。
風味とコクを出したい時のおすすめ砂糖(茶色いお砂糖)

健康志向の高まりや、より味わい深いパンを求める人たちの間で人気なのが、精製度の低い茶色い砂糖です。ミネラルを含んでいたり、独自の風味があったりと、個性豊かな砂糖たちを紹介します。
ミネラル豊富で優しい甘さ「きび砂糖」
きび砂糖は、サトウキビの絞り汁を煮詰めて作られる、完全に精製されていない砂糖です。そのため、カルシウムやカリウムなどのミネラル分が残っており、薄い茶色をしています。特徴は、黒糖ほどクセが強くなく、上白糖に似た使いやすさを持ちながら、コクのある優しい甘さがあることです。
パン生地に混ぜると、ほんのりと色づき、素朴で温かみのある味わいになります。どのようなパンにも合いますが、特に全粒粉を使ったパンや、素朴な丸パン、ロールパンなどによく合います。「白砂糖は控えたいけれど、黒糖だと味が強すぎる」という方にぴったりの、バランスの良い砂糖です。
お腹に優しく体を温める「てんさい糖」
日本のスーパーでよく見かけるようになった「てんさい糖」は、北海道などの寒冷地で育つ「甜菜(てんさい・サトウダイコン)」という野菜の根から作られます。サトウキビが原料の砂糖とは異なり、まろやかで上品な甘みが特徴です。
てんさい糖の最大の特徴は、天然のオリゴ糖が含まれていることです。オリゴ糖は腸内のビフィズス菌の栄養となるため、お腹の調子を整えたい健康志向の方に強く支持されています。また、体を温める作用があるとも言われており、冷えが気になる方にもおすすめです。パン作りに使うと、キメの細かい優しい口当たりになります。ただし、粒が粗いタイプは生地に溶け残ることがあるので、微粒子タイプを選ぶか、あらかじめ水分に溶かしてから使うと良いでしょう。
香ばしいコクと風味が特徴の「三温糖」
三温糖(さんおんとう)は、上白糖やグラニュー糖を作る際に残った糖液を、さらに煮詰めて作られる砂糖です。加熱によってカラメル化しているため、黄褐色をしており、独特の香ばしい風味と強いコクがあります。
実は成分的には上白糖とほぼ同じで、ミネラル分はそれほど多くありませんが、その濃厚な甘みはパン作りにおいて強い武器になります。特に、甘さをしっかり感じさせたい菓子パンや、くるみパン、レーズンパンなどの具材が入ったパンと相性が抜群です。白い生地を作りたい場合には不向きですが、カントリー風の茶色いパンを作りたい時には、積極的に使いたい砂糖です。
独特の強い風味と栄養価の高さ「黒糖」
黒糖は、サトウキビの絞り汁をそのまま煮詰めて固めたもので、最も精製度が低い砂糖です。そのため、ビタミンやミネラルが非常に豊富に含まれています。味は非常に濃厚で、独特の苦味や渋みを含んだ強いコクがあります。
パン作りに使うと、生地がしっかりとした黒褐色になり、黒糖特有の強い香りが広がります。その個性の強さから、繊細な味のパンには向きませんが、蒸しパンや、レーズン、ナッツをたっぷりと入れたハード系のパンなどには最高にマッチします。塊の状態(ブロック)で売られていることが多いので、パン作りには粉末状に加工された「黒糖パウダー」や「粉黒糖」を使うと便利です。
メモ: 黒糖を多く配合すると、ミネラルの影響でイーストの活動が活発になりすぎたり、逆に生地がダレやすくなったりすることがあります。最初はレシピの砂糖の20〜30%を黒糖に置き換えるなど、様子を見ながら使うのがコツです。
上品な口溶けと和の香り「和三盆」
少し高級なラインナップとして紹介したいのが「和三盆(わさんぼん)」です。これは日本の伝統的な製法で作られる最高級の砂糖で、主に高級和菓子に使われます。粒子が非常に細かく、口の中でスーッと溶ける上品な甘さが特徴です。
コストがかかるため日常的なパン作りにはあまり使われませんが、ここぞという時の特別なパン作りにおすすめです。例えば、高級食パンや、和素材(抹茶や小豆)を使ったあんぱんなどに使用すると、他の砂糖では出せない繊細で奥深い風味を醸し出します。上白糖のようなベタつきがなく、グラニュー糖よりもまろやかなので、生地の口溶けの良さを追求したい時に試してみる価値があります。
液体の甘味料もパン作りに使えるの?

砂糖以外にも、はちみつやメープルシロップなどの液体甘味料をパン作りに使うことができます。粉末の砂糖とは違った効果や注意点があるため、それぞれの特徴を理解して使い分けましょう。
しっとり感が段違い!「はちみつ」
はちみつは、パン作りに非常におすすめの甘味料です。その最大の特徴は、砂糖以上に高い「保水性」です。はちみつに含まれる果糖とブドウ糖は、空気中の水分を取り込む力が強く、焼き上がったパンを驚くほどしっとりとさせ、その柔らかさを長時間キープしてくれます。
また、はちみつの甘さは砂糖よりも強いため、砂糖の分量の80%程度に置き換えると丁度よい甘さになります。さらに、酵素を含んでいるため、イーストの働きを助ける効果もあります。注意点として、はちみつは焦げやすい性質があるため、焼成温度を通常より10度ほど下げるか、焼き時間を調整する必要があります。食パンやバターロールに少し加えるだけで、プロのような仕上がりに近づきます。
豊かな香りで贅沢な気分「メープルシロップ」
カエデの樹液を煮詰めて作られるメープルシロップは、独特の香ばしい香りが魅力です。パン生地に練り込むと、焼いている最中から部屋中に甘く幸せな香りが広がります。ミネラル、特にカリウムやカルシウムを多く含んでおり、はちみつよりもさらっとしていて上品な甘さです。
メープルシロップの風味を活かすためには、全粒粉のパンや、ナッツ類を使ったパンに合わせるのがおすすめです。ただし、水分量が多いため、レシピの砂糖を全量メープルシロップに置き換える場合は、牛乳や水などの水分量を少し(シロップの分の2〜3割程度)減らして調整する必要があります。
つや出しや水飴の効果「水飴・モルトシロップ」
家庭でのパン作りではあまり馴染みがないかもしれませんが、「水飴」や「モルトシロップ(麦芽水飴)」もプロの現場ではよく使われます。水飴は、砂糖よりも甘さが控えめで、保湿性が高いため、パンのしっとり感を持続させる補助的な役割で使われることがあります。
特に「モルトシロップ」は、フランスパンなどのハード系パン作りには欠かせない材料です。砂糖を入れないハードパンにおいて、イーストの初期の栄養源となり、発酵を助けるとともに、クラスト(パンの皮)にパリッとした食感と美味しそうな焼き色をつける役割を果たします。本格的なバゲットを焼きたい場合は、砂糖の代わりにモルトシロップ(またはモルトパウダー)を使うのが正解です。
作るパンの種類別・おすすめの砂糖の選び方

ここまで様々な砂糖の特徴を見てきましたが、「結局、自分が作りたいパンにはどれを使えばいいの?」と迷ってしまうこともあるでしょう。最後に、パンの種類別に相性の良いおすすめの砂糖を整理してご紹介します。
毎日食べる「食パン」には上白糖かきび砂糖
朝食の定番である食パンには、飽きのこない味と、翌日もしっとりしていることが求められます。そのため、保水力が高く、クセの少ない「上白糖」が最もおすすめです。日本のふわふわな食パンを目指すなら、上白糖がベストチョイスと言えます。
少し健康を意識したい、あるいは素朴な味わいにしたい場合は、「きび砂糖」や「てんさい糖」を選びましょう。ほんのりとしたコクが出て、バターやミルクの風味ともよく馴染みます。また、しっとり感をさらに高めたい場合は、砂糖の一部(10〜20%程度)をはちみつに置き換えるのも非常に有効なテクニックです。
パリッと焼きたい「ハード系パン」にはグラニュー糖かモルト
フランスパン、カンパーニュ、ベーグルなど、外側をパリッと、中をモチッとさせたいハード系のパンには、粘り気の少ない「グラニュー糖」が適しています。すっきりとした甘さは小麦本来の風味を際立たせ、クラスト(皮)を軽やかに仕上げてくれます。
さらに本格的なハードパンを目指すなら、砂糖を使わず、前述した「モルトシロップ(またはモルトパウダー)」のみを使用するのがプロのやり方です。これにより、甘みをほとんど感じさせず、小麦の旨味だけをダイレクトに味わえるパンになります。
リッチな「菓子パン」には三温糖や強力な甘みを
アンパン、クリームパン、シナモンロールなどの菓子パン(リッチなパン)には、生地自体にもしっかりとした甘みとコクが求められます。ここでは、濃厚な風味を持つ「三温糖」や、量を多めに使ってもくどくなりにくい「上白糖」がおすすめです。
特にカスタードクリームやあんこといった甘いフィリング(具材)とのバランスを考えると、生地にもある程度のコクがあった方が、全体としてまとまりのある味になります。また、ブリオッシュのように卵とバターをたっぷり使う黄金色のパンには、色味を邪魔せず甘さを出せるグラニュー糖が使われることも多いです。
| パンの種類 | おすすめの砂糖 | 特徴 |
|---|---|---|
| 食パン・ロールパン | 上白糖 きび砂糖 |
しっとり柔らかく、万人受けする味。 毎日食べても飽きない。 |
| フランスパン・ハード系 | グラニュー糖 モルト |
皮がパリッと仕上がる。 小麦の香りを邪魔しない。 |
| 菓子パン・惣菜パン | 三温糖 上白糖 |
具材に負けないコクと甘み。 焼き色が綺麗につく。 |
| 全粒粉・ナッツ系 | 黒糖 メープルシロップ |
素材の味を引き立てる強い風味。 ミネラル豊富な味わい。 |
パン作りと砂糖のおすすめポイントまとめ

パン作りにおいて、砂糖は単なる甘味料ではなく、イーストの活動を支え、焼き色や食感をコントロールする重要な素材であることがお分かりいただけたでしょうか。最後に、今回のポイントを振り返ります。
- 役割を理解する:砂糖は「発酵」「焼き色」「保水(しっとり感)」「風味」の4つの役割を持っています。
- 基本は上白糖:初心者の方や、ふわふわの食パンを作りたい時は、保水力の高い上白糖が一番の失敗知らずです。
- 食感で使い分ける:サクッと軽くしたいならグラニュー糖、しっとりさせたいなら上白糖やはちみつを選びましょう。
- 風味を楽しむ:きび砂糖やてんさい糖、黒糖などは、ミネラルの風味やコクをプラスしたい時に最適です。
まずは、レシピ通りに作ってみるのが基本ですが、慣れてきたら砂糖の種類を変えてみるだけで、いつものパンが全く違う表情を見せてくれます。「今日はサンドイッチにするからあっさりしたグラニュー糖で」「明日の朝食用にはちみつ入りでしっとりさせよう」といった具合に、その日の気分や目的に合わせて砂糖を選べるようになれば、パン作りはもっと楽しく、奥深いものになるはずです。ぜひ、あなたのお気に入りの砂糖を見つけて、素敵なパン作りライフを楽しんでください。



コメント