パン作りをしていると「冷蔵庫に牛乳がないから水で代用したい」「レシピは水だけど、牛乳を使ってもっとリッチな味にしたい」と考えることはありませんか。実は、パン作りにおいて牛乳と水は単純に同じ量で置き換えることができません。両者には成分の違いがあり、それがパンの膨らみや食感、焼き色に大きく影響するからです。
この記事では、失敗しないための正しい換算方法と、それぞれの水分がパンに与える効果について、初心者の方にもわかりやすく解説します。
パン作りにおける牛乳と水の換算ルールとは?

パン作りにおいて、レシピにある「水」を「牛乳」に変える場合、あるいはその逆を行う場合、最も重要なのは水分の総量を調整することです。牛乳は見た目は液体ですが、実はそのすべてが水分というわけではありません。このセクションでは、失敗しないための基本的な計算式をご紹介します。
水を牛乳に置き換える場合の計算式
レシピに記載されている「水」を「牛乳」に変更したい場合、水の分量よりも少し多めに牛乳を入れる必要があります。これは、牛乳の成分のうち約88%が水分で、残りの約12%は脂肪分やタンパク質などの固形分だからです。つまり、水と同じ量だけ牛乳を入れても、パン生地に必要な水分量が不足してしまい、硬い生地になってしまいます。
基本の計算式は「水の分量 × 1.1 〜 1.15」です。例えば、レシピで「水 100g」となっている場合、牛乳に置き換えるなら「110g 〜 115g」を目安に計量します。まずは1.1倍の量で生地をこね始め、生地の硬さを見ながら微調整するのが失敗しないコツです。
【換算例:水 → 牛乳】
・水 70g → 牛乳 77g(約80g)
・水 150g → 牛乳 165g
・水 200g → 牛乳 220g
牛乳を水に置き換える場合の計算式
逆に、レシピの「牛乳」を「水」に変えたい場合は、分量を減らす必要があります。牛乳の分量と同じだけの水を入れてしまうと、水分過多になり、生地がベタベタでまとまらなくなってしまいます。これは、牛乳に含まれていた固形分がなくなり、純粋な水分だけが生地に入るためです。
基本の計算式は「牛乳の分量 × 0.85 〜 0.9」です。例えば、「牛乳 100g」のレシピを水で作る場合は、「85g 〜 90g」の水を用意します。牛乳を使ったパンはもともとリッチな配合が多いので、水に変えることであっさりとした味になりますが、少しバターや油脂を足すことで風味を補うことも可能です。
なぜ換算が必要なのか?成分の違いを知ろう
水と牛乳の最大の違いは「固形分(乳固形分)」の有無です。水は100%が水分ですが、牛乳には乳脂肪、乳糖、タンパク質が含まれています。これらの成分は単に栄養価を高めるだけでなく、パンの構造や発酵にも影響を与えます。
特に乳脂肪分はグルテンの形成を穏やかにし、パンを柔らかくする働きがあります。また、乳糖はイーストの餌にはなりませんが、加熱されることで「メイラード反応」を起こし、パンの耳においしそうな焼き色をつける役割を果たします。そのため、単純に水分量だけを合わせるのではなく、仕上がりのイメージに合わせて材料を微調整することが、美味しいパンを作るための近道です。
牛乳と水を変えるとパンの仕上がりはどう変わる?

水分を水にするか牛乳にするかで、焼き上がったパンのキャラクターは大きく変わります。食感、香り、そして見た目の焼き色など、それぞれの特徴を理解しておくと、自分好みのパンを作れるようになります。
食感の違い:ふんわり対もっちり
牛乳を使ったパンは、全体的に「ふんわり」「しっとり」とした食感になりやすいのが特徴です。牛乳に含まれる乳脂肪分が生地の中で油脂のような働きをし、グルテンの伸びを良くして生地を柔らかく保つからです。時間が経っても硬くなりにくいというメリットもあります。
一方、水だけで仕込んだパンは、小麦粉本来のグルテンの力がダイレクトに発揮されるため、「もっちり」「ざっくり」とした食感になります。フランスパンのようなハード系のパンが水で作られるのは、皮(クラスト)をパリッとさせ、中(クラム)に気泡をたくさん含んだ軽い食感を作るためです。
風味と焼き色の違い
風味に関しては、やはり牛乳を使った方がミルク特有のコクと甘い香りが加わります。そのまま食べても味わい深く、リッチな印象のパンになります。食パンや菓子パンなど、優しく甘い風味を出したい時には牛乳が最適です。
焼き色についても大きな違いが出ます。牛乳に含まれる乳糖とタンパク質が熱に反応するため、牛乳を使ったパンは濃く美しい焼き色がつきやすいです。逆に水だけのパンは、砂糖の量が同じであれば焼き色は比較的淡く、シンプルで素朴な色合いに仕上がります。こんがりとしたきつね色を目指すなら、牛乳やスキムミルクの添加が効果的です。
老化(硬くなるスピード)の違い
パン作りで気になるのが、焼いた後の「老化(パサつき)」です。一般的に、牛乳を使ったパンの方が老化が遅く、翌日もしっとり感が続きやすいと言われています。これは牛乳の固形分が水分を抱え込む保水効果を持っているためです。
水で作ったシンプルなパンは、焼き立ては最高に美味しいですが、時間が経つと水分が飛びやすく、硬くなるのが早い傾向があります。翌日以降も柔らかいパンを食べたい場合は、水分を牛乳にするか、水仕込みの場合でも油脂や砂糖のバランスを工夫する必要があります。
スキムミルクや豆乳を使う場合の換算とポイント

牛乳や水以外にも、スキムミルク(脱脂粉乳)や豆乳を水分として使うことがあります。これらを使う場合も、それぞれの特性に合わせた換算が必要です。基本を押さえておけば、手元にある材料で自在にアレンジができるようになります。
スキムミルクを使う場合の黄金比率
スキムミルクは、牛乳から脂肪分と水分を取り除いて粉末にしたものです。保存がきくため、パン作りには非常に重宝します。レシピの「牛乳」を「水+スキムミルク」で代用する場合、牛乳を約10%の固形分と90%の水分と考えて計算します。
具体的には、「牛乳 100g」を置き換える場合、「水 90g + スキムミルク 10g」とします。これで成分的には低脂肪牛乳に近い状態になります。もし脂肪分も補いたい場合は、ここにバターを少し多めに加えることで、牛乳を使った時のようなリッチなコクを再現することができます。
豆乳を使う場合の特徴と換算
豆乳は牛乳と水分含有量が非常に近いため、基本的には「牛乳と同じ分量」で置き換えても大きな失敗はありません。ただし、メーカーや製品(無調整か調整か)によって濃度が異なるため、厳密には「水 100g → 豆乳 110g前後」と考えるのが安全です。
豆乳を使うと、牛乳に比べてさっぱりとした味わいになります。また、豆乳に含まれる大豆タンパク質の性質上、生地が少し引き締まりやすく、もちもちとした弾力が強くなる傾向があります。焼き色は牛乳ほど濃くつきませんが、素朴で優しい色合いに仕上がります。大豆特有の香りが気になる場合は、少しハチミツを加えるなどの工夫もおすすめです。
低脂肪乳やその他のミルクの注意点
健康志向で「低脂肪乳」や「無脂肪乳」を使う方もいるかもしれません。これらは普通の牛乳に比べて脂肪分が少ないため、生地の伸びが悪くなったり、焼き上がりのしっとり感が減ったりすることがあります。
水分量の換算としては普通の牛乳と同じ「水の1.1倍」で問題ありませんが、味わいはあっさりしたものになります。もしレシピ通りのふんわり感を出したい場合は、バターやオイルなどの油脂を少しだけ(粉に対して1〜2%程度)追加することで、脂肪分の不足を補うことができます。
水分量を調整する際の注意点と失敗しないコツ

計算式通りに計量しても、その日の環境や粉の状態によっては生地がベタついたり、硬すぎたりすることがあります。ここでは、計算した水分量を実際に生地に加える際の実践的なテクニックをご紹介します。
「調整水」を残して様子を見る
パン作りで最も大切なルールのひとつが、「水分を一気に入れない」ことです。計算で出した分量が正しくても、使用する小麦粉の銘柄や保存状態によって、吸水率は微妙に異なります。特に夏場や梅雨の時期は粉が湿気を吸っているため、水分を減らす必要があります。
こね始める際は、計量した水分の90%〜95%程度を最初に入れ、残りの水分(調整水)は様子を見ながら少しずつ足していくようにしましょう。一度ベタベタになってしまった生地を元に戻すのは大変ですが、硬い生地に水を足して調整するのは比較的簡単です。
季節や湿度による影響を考慮する
パン生地は生き物のように環境の影響を受けます。湿度が低い冬場は粉が乾燥しているため、計算上の水分量では足りず、生地が硬くなることが多いです。逆に湿度の高い夏場は、レシピ通りの水分だとデロデロになりやすい傾向があります。
牛乳や水に関わらず、冬場は計算した量より「小さじ1杯程度多め」、夏場は「小さじ1杯程度少なめ」を意識して準備しておくとスムーズです。また、液体の温度も重要です。冬は人肌程度に温め、夏は冷たい状態で使うことで、発酵を適切なスピードにコントロールできます。
ベーカーズパーセントで管理する
パン作り上級者がよく使う「ベーカーズパーセント」を意識すると、アレンジが格段に楽になります。これは小麦粉の総量を100%として、他の材料の割合を表す方法です。例えば「加水率」と呼ばれる水分の割合は、一般的なパンで65%〜70%程度です。
水を牛乳に変える場合は、この加水率を数パーセント上げるイメージです(例:水なら65%、牛乳なら72%など)。「粉に対して水分が何パーセント入っているか」を意識することで、粉の量を変えても(例えば200gを300gにしても)、電卓ひとつで瞬時に正しい水分量を割り出すことができます。
パンの種類別おすすめの水分選び

「このパンには水を使うべきか、牛乳を使うべきか」と迷うことがあるかもしれません。基本的には個人の好みですが、パンの種類によって「相性の良い水分」というものが存在します。代表的なパンのスタイル別に見ていきましょう。
ハード系パン(フランスパン、カンパーニュなど)
バゲットやカンパーニュなどのハード系パンには、断然「水」がおすすめです。これらのパンは、小麦粉本来の風味と、パリッとしたクラスト(皮)の食感を楽しむものだからです。
牛乳や油脂が入るとクラストが柔らかくなってしまい、ハードパン特有のクリスピーさが失われてしまいます。どうしてもミルクの風味をつけたい場合は、「ミルクフランス」用のソフトな生地にするか、仕込み水の一部(20〜30%程度)だけを牛乳に置き換える程度に留めるのが良いでしょう。
食パン・リッチ系パン(ブリオッシュなど)
朝食の定番である食パンや、バターたっぷりのブリオッシュには「牛乳」が非常に相性が良いです。特に「ホテル食パン」や「生食パン」と呼ばれるような、耳まで柔らかく甘みのあるパンを作りたい場合は、水分の全量を牛乳、あるいは生クリームの一部に置き換えるのが正解です。
牛乳を使うことで、トーストした時のサクッとした歯切れの良さと、中のしっとり感のコントラストが生まれます。毎日食べる食パンだからこそ、牛乳を使って栄養価を高められるのも嬉しいポイントです。
菓子パン・惣菜パン
あんパンやクリームパンなどの菓子パン、ハムロールなどの惣菜パンには、扱いやすさと味のバランスから「水と牛乳のブレンド」や「水+スキムミルク」がよく選ばれます。
具材の味を引き立てつつ、パン生地自体にも適度な柔らかさと甘みが欲しいからです。例えば、水分の半分を牛乳にすると、重すぎず軽すぎない、ちょうど良い食感の生地になります。初心者の方がアレンジを試みるなら、まずはこの「半々」から始めてみるのもおすすめです。
まとめ

パン作りにおける「牛乳」と「水」の換算は、単なる分量の置き換えだけでなく、パンの仕上がりをコントロールするための大切なテクニックです。水を牛乳に変える時は「約1.1倍」、牛乳を水に変える時は「約0.9倍」という基本ルールを覚えておくだけで、失敗のリスクをぐっと減らすことができます。
牛乳を使えばしっとりとリッチに、水を使えば小麦の香りが立つシンプルな味わいに仕上がります。その日の気分や冷蔵庫の中身、作りたいパンのイメージに合わせて水分を使い分けることができれば、あなたのパン作りはもっと自由で楽しいものになるはずです。ぜひ、次回のパン作りで実践してみてください。




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