「健康のためにパンの砂糖を減らしたい」「砂糖なしでもパンは膨らむの?」と疑問に思ったことはありませんか?実は、パン作りに欠かせないと思われがちな砂糖ですが、入れなくてもパンを作ることは可能です。
しかし、砂糖を抜くと、パンの膨らみや食感、焼き色に大きな変化が現れます。この記事では、砂糖なしでパンを焼いたときに起きる具体的な変化と、それでも美味しく焼くためのコツを、初心者の方にもわかりやすく解説します。
パンは砂糖なしで作るとどうなる?起きる4つの変化

パンのレシピから砂糖を抜いて作ると、どのような仕上がりになるのでしょうか。砂糖は単に甘味をつけるだけでなく、パンの出来栄えに直結する重要な役割を持っています。まずは、砂糖なしで作った場合に起きる代表的な4つの変化について解説します。
イーストの働きが鈍くなり発酵に時間がかかる
砂糖は、パンを膨らませる「イースト(酵母)」の最初のエサとなる重要な栄養源です。砂糖なしの生地では、イーストがエサ不足の状態からスタートすることになります。
もちろん、イーストは小麦粉に含まれるデンプンが分解されてできる糖も食べることができますが、この分解には時間がかかります。そのため、砂糖入りの生地に比べて発酵のスタートが遅くなり、生地が十分に膨らむまでに長い時間がかかるようになります。せっかちに発酵を切り上げると、目の詰まった重たいパンになってしまうのです。
焼き色がつきにくく白っぽい仕上がりになる
パン屋さんのパンのような、こんがりとした美味しそうなきつね色は、主に砂糖(糖分)と熱の反応によって生まれます。
砂糖なしの生地では、焼き色をつけるための糖分が表面に少ないため、焼き上がりの色が非常に薄く、白っぽい見た目になりがちです。食パンやロールパンのような豊かな焼き色を期待してオーブンに入れても、なかなか色がつかず、無理に焼こうとすると乾燥してクラスト(パンの耳の部分)が分厚く硬くなってしまうこともあります。
時間が経つと固くなりやすくパサつきが出る
焼き立てのパンがしっとりふわふわしているのは、実は砂糖の「保水性(水分を抱え込む力)」のおかげでもあります。砂糖には生地の中の水分を逃さないようにする働きがあります。
砂糖を使わずに焼いたパンは、この保水力が弱いため、オーブンの中で水分が蒸発しやすくなります。その結果、焼き上がりはやや乾燥気味になりやすく、冷めてから時間が経つとすぐに硬くなったり、パサパサとした食感になったりする「老化」が早く進む傾向があります。
小麦本来の素朴な風味や塩味が際立つ
ここまでデメリットのような変化を挙げましたが、良い変化もあります。砂糖の甘さがなくなることで、小麦粉そのものが持つ香りや味わいがダイレクトに感じられるようになるのです。
フランスパンなどのハード系のパンが砂糖を使わないのは、このためです。余計な甘味がない分、小麦の香ばしさや発酵の風味、そして塩味が際立ち、噛めば噛むほど味わい深いパンになります。食事と一緒に楽しむパンとしては、むしろ砂糖なしの方が好まれる場合も多いのです。
なぜパン作りには砂糖が必要?知っておきたい3つの役割

「甘くしたくないなら砂糖はいらないのでは?」と考えがちですが、パン作りにおける砂糖は「調味料」以上の働きをしています。ここでは、科学的な視点から砂糖が担っている3つの重要な役割について詳しく見ていきましょう。
イースト菌の栄養源となりガスを発生させる
パン作りにおいて、砂糖はイースト菌の「ガソリン」のような役割を果たします。イーストは糖分を分解して炭酸ガスとアルコールを発生させますが、この炭酸ガスこそがパンをふんわりと膨らませる正体です。
砂糖を加えることで、イーストは活発に活動し、短時間で効率よくガスを作り出すことができます。特に、バターや卵を多く使う「リッチな生地」の場合、生地が重たくなるため、イーストの活動を支えるために多めの砂糖が必要になることが多いのです。
生地に水分を保ちしっとりさせる保湿効果
砂糖には、周りの水分を引き寄せて離さない「親水性」と「保水性」という性質があります。これがパンの柔らかさに大きく貢献しています。
砂糖が入っている生地は、焼いている間も水分をしっかりキープしてくれるため、中身(クラム)がしっとりと柔らかく焼き上がります。また、焼いた後も水分が抜けにくいため、翌日になってもパサつかず、柔らかさを保つことができるのです。お菓子作りでも砂糖を減らしすぎるとパサパサになるのと同じ理屈です。
メイラード反応で香ばしい焼き色と香りをつける
パンの香ばしい匂いと茶色い焼き色は、「メイラード反応」と「カラメル化」という化学反応によって生まれます。
砂糖はこの反応の材料となるため、適度な量の砂糖が入っていると、食欲をそそる美しい焼き色と芳醇な香りが生まれます。砂糖がないとこの反応が弱くなり、どうしても風味や見た目の迫力が控えめになってしまいます。
砂糖なしでも美味しく焼くための具体的な対策と工夫

砂糖なしで作ると、発酵不足やパサつきといった課題が出てきますが、作り方を工夫すれば美味しいパンを焼くことは十分可能です。プロのパン職人も実践している、砂糖を使わずに美味しいパンを作るためのテクニックを紹介します。
モルトエキスや酵素入り生地改良剤を活用する
砂糖の代わりにイーストの助けとなるのが「モルト(麦芽)」です。フランスパンのレシピなどによく登場する材料です。
モルトシロップやモルトパウダーには、小麦粉のデンプンを糖(イーストのエサ)に変える酵素が含まれています。これを少量添加することで、砂糖を入れなくてもイーストの働きを助け、きれいな焼き色をつけることができます。砂糖のような甘さはつかないため、食事パンの風味を損なうこともありません。
発酵時間を長めにとりじっくり熟成させる
砂糖なしの生地は、イーストが活動を始めるまでに時間がかかります。そのため、レシピに記載されている時間よりも長めに発酵時間をとることが大切です。
生地の状態をよく観察し、元の大きさの2倍〜2.5倍になるまで、焦らずじっくり待ちましょう。時間をかけることで、小麦粉の酵素がデンプンを分解して自然な甘味を作り出し、風味豊かなパンに育っていきます。
粉の甘みを引き出す「長時間低温発酵」を試す
砂糖なしのパンを美味しく作るのにおすすめなのが、「オーバーナイト法」とも呼ばれる長時間低温発酵です。
こね上がった生地を冷蔵庫に入れ、一晩(8時間〜12時間程度)かけてゆっくり発酵させます。低温で長時間置くことで、生地全体に水分が行き渡り、しっとりとした食感になります。さらに、熟成が進んで旨味成分が増えるため、砂糖が入っていなくても小麦本来の甘みを感じる味わい深いパンに仕上がります。
水分の蒸発を防ぐために高温短時間で焼く
砂糖なしの生地は保水力が弱いため、低い温度でダラダラと焼いていると、水分がどんどん飛んでカチカチになってしまいます。
フランスパンなどを焼くときと同様に、予熱を高めの温度(230℃〜250℃など)に設定し、短時間で一気に焼き上げるのがコツです。これにより、外側はパリッと香ばしく、内側の水分は逃さずにしっとりと仕上げることができます。スチーム機能があるオーブンの場合は、焼成の最初にスチームを入れると、生地の伸びが良くなりパサつき防止になります。
砂糖の代わりに使える?代用食材の特徴と注意点

「白砂糖は使いたくないけれど、パンの膨らみやしっとり感は欲しい」という場合、他の甘味料で代用することはできるのでしょうか。ここでは、代表的な代用食材と、パン作りにおける注意点を解説します。
はちみつやメープルシロップを使う場合
はちみつやメープルシロップは、パン作りの砂糖の代わりとして非常に優秀です。これらに含まれる糖分(ブドウ糖や果糖)はイーストが直接分解できるため、発酵もスムーズに進みます。
ただし、これらは液体であるため、砂糖と同じ重量で置き換えるときは、仕込み水(牛乳や水)の量を少し減らして調整する必要があります。また、はちみつには独特の保湿効果があるため、砂糖で作るよりもしっとりとした食感になりやすいのが特徴です。
人工甘味料やラカントはイーストの餌にならない
糖質制限中の方によく使われる「エリスリトール」や「ラカント」などのカロリーゼロ系甘味料には注意が必要です。
注意点:イーストはこれらを食べられません
多くの人工甘味料やエリスリトールは、イースト菌が分解できない成分でできています。そのため、砂糖の代わりにこれらを入れても発酵の助けにはならず、「砂糖なし」の状態と同じように発酵が遅くなります。
甘味をつける目的で入れるのはOKですが、発酵を助ける効果は期待できません。これらを使う場合は、砂糖なしの場合と同じように発酵時間を長くとるなどの工夫が必要です。
砂糖不使用のパンに向いているパンの種類
そもそも、すべてのパンに砂糖が必要なわけではありません。砂糖なし、または代用甘味料で作るのに適しているのは、以下のような「リーン(簡素)なパン」です。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| フランスパン | もともと砂糖・油脂不使用で作られる代表的なパン。 |
| カンパーニュ | ライ麦や全粒粉を使い、素材の味を楽しむパン。 |
| ベーグル | 砂糖を減らして、むっちりとした噛みごたえを出せる。 |
| ピザ生地 | クリスピーな食感を出すために砂糖を入れないことが多い。 |
逆に、ふわふわの菓子パンやブリオッシュなどは、砂糖の力(保水・発酵促進)に頼る部分が大きいため、砂糖なしで作るのは難易度が高くなります。
パンと砂糖なしの関係性まとめ

パン作りにおいて、砂糖は単なる「甘味づけ」以上の重要な役割を担っています。砂糖なしで作ると、発酵がゆっくりになり、焼き色がつきにくく、食感もハードになりやすいという変化が起こります。
しかし、それは「失敗」ではなく、フランスパンのように小麦本来の風味を楽しめるパンになるということでもあります。以下のポイントを押さえて、目的に合わせたパン作りを楽しんでください。
・砂糖なしだと発酵に時間がかかるので、気長に待つ
・しっとりさせたいなら「長時間低温発酵」や「モルト」を活用する
・人工甘味料はイーストのエサにならないので注意する
・まずはフランスパンやピザ生地など、砂糖なし向きのパンから挑戦する
砂糖の役割を理解すれば、自分好みの甘さや食感にコントロールできるようになります。ぜひ、砂糖なしのパン作りにもチャレンジしてみてください。




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