焼きたてのパンがオーブンから出てきた瞬間は、パン作りの中で最も心が躍る瞬間ではないでしょうか。しかし、冷めるにつれて「パンの表面がシワシワ」になってしまい、ショックを受けた経験を持つ方も多いはずです。
表面がしぼんでシワが寄ってしまう現象には、発酵の工程から焼き方、さらには焼き上がった後の扱いまで、さまざまな理由が隠されています。特に初心者の方は、なぜこうなるのか分からず悩んでしまいがちです。
この記事では、パンの表面がシワシワになる具体的な原因を詳しく解説し、ツヤのあるふっくらとしたパンを焼き上げるためのコツを分かりやすく紹介します。失敗を防ぐポイントをマスターして、お店のような美しいパンを目指しましょう。
パンの表面がシワシワになる主な原因とメカニズム

パンの表面にシワができる現象は、パン作りの用語で「焼き縮み」や「ケービング」とも呼ばれます。まずは、なぜこのような見た目の変化が起こるのか、その根本的な仕組みを知ることが解決への近道です。
焼き縮み(ケービング)が発生する理由
パンが焼き上がった直後は、内部の空気や水蒸気が熱によって膨張しているため、パン全体が大きく膨らんでいます。しかし、冷め始めると内部の温度が下がり、膨張していた空気が収縮しようとします。
このとき、パンの骨格(グルテンの構造)がしっかりしていないと、外側からの圧力に耐えきれずに生地が内側へ引っ張られてしまいます。これが、パンの表面がシワシワになってしまう最大のメカニズムです。
特に食パンなどの大きなパンで側面が凹む現象は「腰折れ」と呼ばれますが、表面のシワも原理としては同じです。生地の支える力が、冷える時の収縮する力に負けてしまうことが原因と言えるでしょう。
水分蒸発と温度変化の関係
パンの内部には多くの水分が含まれており、焼成中に蒸気となって生地を押し上げます。焼き上がってオーブンから出した瞬間、パンは急激な温度変化にさらされ、内部の蒸気が一気に外へ出ようとします。
この蒸気の抜け方がスムーズでない場合や、逆に表面から急激に水分が失われすぎると、表面の皮(クラスト)だけが乾燥して縮んでしまいます。これが細かいシワとなって表面に現れるのです。
また、冬場の乾燥した室内や、エアコンの風が直接当たるような場所でパンを冷ますと、表面の水分バランスが崩れやすくなります。適度な湿度を保ちながら、ゆっくりと熱を取ることが美しさを保つためには欠かせません。
生地の骨格が弱いとどうなるか
パンの形を維持しているのは、小麦粉に含まれるタンパク質から作られる「グルテン」です。このグルテンの網目構造がしっかりと作られていないと、パンは焼き上がった後に自重を支えることができなくなります。
骨格が弱いパンは、風船がしぼむように表面から張りを失っていきます。こね不足によってグルテンの形成が不十分だったり、強力粉のタンパク質量が少なすぎたりする場合に、この現象が顕著に現れる傾向があります。
また、生地の熟成が足りない場合も、ガスを保持する力が弱くなり、結果としてシワの原因になります。しっかりとした「壁」を生地内部に作ることが、シワのないパンを焼くための重要な土台となるのです。
冷却時に起こる物理的な変化
パンは焼き上がってから完全に冷めるまでの間に、構造が安定していきます。この冷却プロセスこそが、シワができるかどうかの分かれ道です。焼き立てのパンはまだ組織が柔らかく、非常にデリケートな状態にあります。
内部の熱い蒸気が外へ逃げ、代わりに外の空気が入る「呼吸」のような現象がスムーズに行われないと、内圧の低下によって生地が潰れてしまいます。表面の皮が薄すぎるパンなどは、特にこの影響を受けやすいです。
適切な冷却を行うことで、パンの皮は適度な硬さを持ち、中の水分が均一に分散されます。急激に冷やしすぎず、かつ蒸気をこもらせない環境作りが、表面をピンと張った状態に保つためのポイントになります。
発酵のプロセスで気をつけるべきポイント

パンの表面がシワシワになる原因の多くは、実は焼く前の「発酵」の段階に潜んでいます。発酵の状態がパンの構造を決定づけるため、適切な見極めが美しさを左右すると言っても過言ではありません。
過発酵(オーバープルーフ)の影響
二次発酵の時間が長すぎたり、温度が高すぎたりして「過発酵」の状態になると、生地の中のガス気泡が大きくなりすぎてしまいます。一見するとよく膨らんでいるように見えますが、実は生地の限界を超えています。
薄く引き伸ばされすぎたグルテンの膜は、焼き上げの熱に耐えられず、プチプチと切れてしまいます。その結果、オーブンの中では一度大きく膨らみますが、取り出した後にガスが抜け、表面がだらしなくシワ寄ってしまうのです。
過発酵になった生地は、骨格がボロボロの状態です。指で押しても戻ってこないほど生地が弱くなっている場合は、焼いた後にシワができやすいので、発酵時間の管理には細心の注意を払いましょう。
二次発酵の見極め方
適切なタイミングでオーブンに入れることは、シワのないパンを作るために非常に重要です。二次発酵の終了目安は、元の生地の大きさが約2倍から2.5倍になったくらいが一般的とされています。
指に粉をつけて生地を軽く押してみて、押し跡がゆっくりと戻ってくる状態がベストです。すぐに戻ってしまうのは発酵不足、跡がそのまま残って生地が沈んでしまうのは過発酵のサインですので注意してください。
見た目の大きさだけで判断せず、生地の「張り」を感じるかどうかも確認しましょう。パンパンに張っているのではなく、赤ちゃんの肌のような柔らかさと弾力を両立している状態を目指すのが理想的です。
発酵温度と湿度のバランス
発酵させる環境も、パンの表面の質感に大きな影響を与えます。湿度が低すぎると生地の表面が乾燥して硬くなり、焼いたときにきれいに膨らまず、無理に伸びた部分が後にシワになることがあります。
逆に湿度が適切であれば、生地は柔軟性を保ったまま均一に膨らむことができます。家庭で発酵させる際は、乾燥を防ぐために濡れ布巾をかけたり、発酵機能付きのオーブンの場合は湿度設定を意識したりしましょう。
また、急激に高い温度で発酵させると、イーストがガスを出しすぎて生地のキメが粗くなります。キメが粗いパンは構造的に弱いため、冷めたときにシワができやすくなるというデメリットがあるのです。
フィリング(具材)が多い場合の注意点
くるみやレーズン、チーズなどの具材をたくさん入れるパンは、生地そのものの比重が重くなります。具材の重みに耐えるためには、プレーンなパンよりもさらに強固な生地の繋がりが必要になります。
具材が偏っていたり、多すぎたりすると、発酵中に生地の膜が破れやすくなり、そこからガスが漏れてパンがしぼむ原因になります。表面に近い場所に大きな具材があると、その部分の皮が薄くなりシワになりやすいです。
具材を混ぜ込む際は、生地全体に均一に分散させるように意識し、生地を傷めないように優しく扱いましょう。具材の水分や油分が生地に移行して弱くならないよう、事前の下処理も大切です。
焼き上げの工程で見直したいオーブンの設定

どれだけ完璧に発酵させた生地でも、焼き方が不適切であれば表面はシワシワになってしまいます。オーブンの温度設定や加熱のバランスは、パンの「殻」を作る上で極めて重要な要素です。
焼き時間不足(アンダーベイク)の怖さ
パンの表面がシワシワになる最も分かりやすい原因は、焼き時間が足りないことです。これを「アンダーベイク」と呼びます。外側がきれいに色づいていても、内部までしっかり火が通っていないことがあります。
内部に余分な水分が残っていると、冷める時にその水分が蒸気となって表面の皮をふやかしてしまいます。また、パンの骨格を形成する澱粉(でんぷん)の糊化が不十分なため、形を維持する力が足りません。
しっかりとした焼き色は、パンの構造を支える「柱」の役割を果たします。シワが気になる場合は、いつもの焼き時間にプラス2〜3分、あるいは設定温度を少し上げて、しっかりと「焼き切る」ことを意識してみてください。
庫内温度の正確な把握
オーブンの設定温度と、実際の庫内温度には差があることがよくあります。特に予熱が不十分なまま生地を入れてしまうと、最初の立ち上がりが遅くなり、生地の骨格が固まる前にガスが抜けてしまいます。
温度が低すぎると焼き固まるまでに時間がかかり、その間に水分が逃げすぎて皮が厚く、かつ弱くなってしまいます。これが冷めた時のシワに繋がるのです。逆に高すぎると、表面だけ焼けて中は生という状態になりかねません。
オーブンメーター(庫内温度計)を使って、自分のオーブンの癖を知ることは上達への近道です。また、天板を一緒に予熱しておくことで、生地の底面から熱を伝え、安定した焼き上がりをサポートできます。
【オーブン設定のチェックリスト】
・予熱は設定温度よりも20〜30度高く設定しているか(扉を開けた時の温度低下対策)
・パンの種類に合わせた適切な段(上段・中段・下段)を使っているか
・焼き上がりの中心温度が95度前後(食パンの場合)に達しているか
スチーム機能の使いすぎに注意
ハード系のパンを作る際によく使われるスチーム(水蒸気)機能ですが、これも使い方を誤るとシワの原因になります。スチームはパンの表面を湿らせて膨らみを助けますが、多すぎると表面の皮が薄くなりすぎます。
皮が極端に薄いパンは、冷める時の収縮に耐える強度がありません。菓子パンやソフトな食パンなどで不必要にスチームを当ててしまうと、表面がふにゃふにゃになり、シワが寄りやすくなるので注意が必要です。
スチームが必要なのは、フランスパンなどのクラストをパリッとさせたい種類に限られます。柔らかいパンを目指す場合は、生地自体の水分量と焼き温度の調整で対応するのが正解です。
卵液(ドリュール)の塗り方とシワ
パンにツヤを出すために塗る卵液(ドリュール)も、実はシワと関係があります。卵液を厚く塗りすぎると、焼成中に卵の膜が先に固まってしまい、中の生地が膨らもうとする力を押さえつけてしまいます。
そのまま無理やり膨らむと、表面の膜に無理な負荷がかかり、焼き上がった後にその部分がひび割れたり、冷めてから細かいシワになったりすることがあります。卵液は刷毛で薄く、均一に塗るのが基本です。
また、ドリュールを塗るタイミングが遅すぎると、せっかく膨らんだ生地を刷毛で潰してしまうリスクもあります。二次発酵が終わる直前、生地が一番デリケートになる前に手早く塗るようにしましょう。
焼き上がった直後の扱いが仕上がりを左右する

パンが焼き上がったからといって、安心するのはまだ早いです。オーブンから出した後の数分間の行動が、パンの表面を美しく保つか、シワシワにしてしまうかの運命を決定します。
「ショック」を与える重要性
食パンや型に入れて焼くパンの場合、焼き上がった直後に型ごと数センチの高さから台にトンと落とす「ショック」という作業が不可欠です。これを行う目的は、パン内部の熱い蒸気を一気に入れ替えることにあります。
この衝撃によって、パンの組織の中にある水蒸気が外に追い出され、代わりに乾燥した空気が入り込みます。これにより、冷める過程での内圧の急激な低下を防ぎ、パンの側面や表面が凹むのを防ぐことができるのです。
ショックを与えないと、内部にこもった蒸気がパンを内側から湿らせ、ふにゃふにゃにしてしまいます。これはシワだけでなく、腰折れの最大の原因にもなりますので、必ず習慣にしましょう。
型から出すタイミングとコツ
型焼きパンの場合、ショックを与えたらすぐに型から取り出す必要があります。型に入れたまま放置すると、型とパンの隙間に蒸気が溜まり、パンの表面が蒸れてシワシワになってしまうからです。
せっかくパリッと焼き上がったクラスト(皮)も、自分の蒸気で湿ってしまえば台無しです。熱いうちは生地が柔らかいので、形を崩さないように注意しながら、手早くクーラー(網)の上に移しましょう。
ただし、非常に柔らかい菓子パンなどの場合は、無理に扱うと指の跡がついてそれがシワに見えることもあります。優しく、かつ迅速に。このリズムが美しい仕上がりを支えます。
冷却場所と風通しの確保
パンを冷ます場所は、風通しの良い網の上がベストです。お皿やまな板の上に直接置いてしまうと、底面に蒸気がこもってパンがベチャベチャになり、それが全体のシワへと繋がっていきます。
しかし、風が強すぎる場所も考えものです。扇風機の風が直接当たったり、冬場の乾燥した空気に晒されたりすると、表面が急激に乾きすぎて「ひび割れ」や「細かいシワ」の原因になります。
理想は、直射日光の当たらない常温の室内で、自然に熱が抜けるのを待つことです。パンの大きさにもよりますが、30分から1時間ほどかけてゆっくりと中心まで冷ましていくのが、シワを防ぐコツとなります。
カットするまでの待機時間
焼きたてのパンをすぐに切って食べたい気持ちはよく分かりますが、表面をきれいに保ちたいなら我慢が必要です。パンは冷めていく過程で内部の構造が安定し、水分が均一に行き渡ります。
熱いうちにカットしてしまうと、そこから一気に蒸気が漏れ出し、支えを失ったパンが自重で潰れてしまいます。これが断面付近のシワや、パン全体のしぼみの原因になることが非常に多いのです。
食パンであれば、手で触って完全に熱が取れたと感じるまで待つのが正解です。目安としては、焼き上がりから最低でも1〜2時間は置くようにしましょう。そうすることで、表面の張りも中のしっとり感も維持されます。
パンの香りに誘われてすぐに切りたくなりますが、美しさを取るなら「完全冷却」が鉄則です。切るのを待つ時間も、パン作りという工程の大切な一部だと考えましょう。
材料の配合やこね方の基本を見直そう

パンの表面がシワシワになる原因の根底には、レシピそのものの構成や、生地作りの基礎体力が関わっていることも少なくありません。根本的な解決を目指すなら、材料とこね工程に立ち返ってみましょう。
水分量が多いレシピのリスク
最近流行の「高加水パン」や「生食パン」のような、水分をたっぷり含んだレシピは、しっとりして美味しい反面、シワができやすいという特性があります。水分が多い分、生地の支えが不安定になりがちだからです。
もし、特定のレシピでいつもシワができるのであれば、水分量を2〜3%減らしてみるのが効果的です。わずかな差ですが、これだけで生地の腰が強くなり、焼き上がった後の形状維持能力が格段にアップします。
特に初心者の方は、扱いやすい水分量(小麦粉に対して65〜68%程度)からスタートし、生地の構造がどう作られるかを体感してから、高加水に挑戦することをおすすめします。
グルテン膜の形成が不十分な場合
「こね」はパンの骨格を作る作業です。こね不足の生地は、薄い膜を広げることができず、発酵で出たガスを小さな気泡として保持できません。大きな気泡がボコボコとできてしまうと、冷めた時にその部分が大きく窪んでシワになります。
こね終わりの目安として、生地の一部をそっと広げた時に、向こう側が透けて見えるくらいの「グルテンチェック」ができているか確認してください。膜がすぐに切れてしまうようでは、まだ骨格が未完成です。
手こねの場合は、力加減や回数にムラが出やすいため、生地の表面がツヤツヤと滑らかになるまで根気強くこねることが大切です。しっかりした骨格があれば、多少の衝撃や温度変化でもシワになることはありません。
砂糖や油脂の量による生地の強度
リッチな配合のパン(砂糖やバターが多いパン)は、生地が柔らかく、構造的に弱くなりやすい性質があります。砂糖は吸湿性が高く、バターはグルテンの形成を阻害する働きがあるためです。
これらの材料が多いパンを焼く時は、通常よりも入念にこねる必要があります。また、油脂を入れるタイミングも重要で、最初から入れてしまうとグルテンが作られにくいため、ある程度こねてから後入れするのが基本です。
材料の比率が原因でシワができる場合は、配合を見直すか、あるいは焼き時間を少し長めにして「外側の殻」をしっかり作ることで対策しましょう。材料の特性を理解することが、美しいパンへの第一歩です。
副材料(ドライフルーツなど)の扱い
生地に混ぜ込むドライフルーツやナッツ類は、事前に適切な処理をしていますか。例えば、乾燥したままのレーズンを入れると、生地の水分を吸い取ってしまい、周囲の生地を乾燥させてシワの原因になることがあります。
逆に、湯通しした後の水切りが不十分だと、余分な水分が生地をふやかしてしまいます。副材料を入れる際は、生地の状態を変化させないよう「適度な保湿」と「確実な水切り」が欠かせません。
また、大きな具材が表面に露出していると、その部分からクラストが割れたり、冷却時に凹凸ができやすくなります。成形時に具材が表面に出すぎないよう、薄い生地の膜で覆うように工夫すると、滑らかな表面を保てます。
| チェック項目 | シワになりやすい状態 | 理想的な状態 |
|---|---|---|
| こね具合 | 膜が薄く伸びず、すぐ切れる | 薄く透き通るような膜ができる |
| 水分量 | 生地がベタついて形が崩れる | 適度な弾力があり、形を保てる |
| 砂糖・油脂 | 多すぎて生地がダレている | 乳化して生地と一体化している |
| 副材料 | 水分調整せずそのまま投入 | 下処理済みで均一に混ざっている |
パンの表面がシワシワになる悩みを解消するためのまとめ

パンの表面がシワシワになってしまう原因は、一つだけではなく、複数の要素が重なり合っていることがほとんどです。しかし、それぞれの工程を丁寧に見直すことで、必ず改善することができます。
まず大切なのは、「適切な発酵の見極め」と「しっかりとした焼き込み」です。過発酵を避け、パンの骨格が崩れないタイミングでオーブンに入れ、内部の水分を飛ばし切るまで焼き上げることが、シワを防ぐ最強の対策となります。
また、焼き上がった直後の「ショック(衝撃)」と「迅速な型出し」も忘れないでください。内部の蒸気を逃がし、新鮮な空気と入れ替えることで、冷める時の収縮に負けない強いパンに仕上がります。
材料の配合やこね方の基本を忠実に守り、生地に強い骨格を作ってあげることも重要です。最初は水分量を控えめにするなど、作りやすい環境から整えていくのが良いでしょう。
パン作りは経験の積み重ねです。もし表面がシワシワになってしまっても、それは「次はここを改善しよう」というパンからのサインです。この記事で紹介したポイントを一つずつ試して、ぜひ理想のツヤピカなパンを焼き上げてくださいね。



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