スーパーの乳製品売り場に行くと、生クリームのパッケージに「35」や「47」といった大きな数字が書かれているのを目にしますよね。「値段が少し違うけれど、中身はどう違うの?」「パン作りにはどっちを使えばいいの?」と迷ってしまった経験はありませんか?
実はこの数字、生クリームの性格を決める非常に重要なカギを握っています。どちらを選ぶかによって、作ったパンやお菓子の味、食感、そして見た目の仕上がりが驚くほど変わってしまうのです。
この記事では、生クリームの35と47の決定的な違いから、それぞれの特徴を活かした使い分け、さらにはプロが実践している秘密のテクニックまでを、パン作りやお菓子作り初心者の方にもわかりやすく丁寧に解説します。これを知れば、もう売り場で迷うことはありません。自分好みの味を作るための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。
生クリームの「35」と「47」の違いを基本から理解しよう

まずは、パッケージに書かれている数字が具体的に何を表しているのか、そしてその数字の違いが「見た目」や「味」にどのような変化をもたらすのか、基本的な知識をしっかり押さえておきましょう。
この根本的な違いを知ることで、レシピ本に書かれている「生クリーム」という表記の裏にある意図も読み取れるようになります。
パッケージの数字は「乳脂肪分」を表している
パッケージに大きく記載されている「35」や「47」という数字。これは、そのクリームに含まれている「乳脂肪分(にゅうしぼうぶん)」のパーセンテージを表しています。
つまり、35と書かれていれば「クリーム全体の約35%が乳脂肪でできている」、47であれば「約47%が乳脂肪」という意味になります。
残りの成分の多くは水分や無脂乳固形分(タンパク質など)です。この脂肪分の割合が、クリームの性質を決定づける最も重要な要素となります。
一般的に、乳脂肪分が30%〜40%未満のものを「低脂肪タイプ」、40%以上のものを「高脂肪タイプ」と呼びます。メーカーによっては「36」や「45」といった数字のものもありますが、基本的にはこの区分けで考えると同じような性質を持っていると考えて大丈夫です。
パン作りやお菓子作りにおいて、この「たかが10%程度の差」が、作業のしやすさや仕上がりの美しさに劇的な影響を与えるのです。
見た目の白さと黄色みの違いについて
パックから出した瞬間の液体の色を比べてみると、実ははっきりとした違いがあることに気づきます。
乳脂肪分が低い35の生クリームは、真っ白でさらっとしているのが特徴です。まるで牛乳を少し濃くしたような、透明感のある白さをしています。
一方、乳脂肪分が高い47の生クリームは、少し黄色みがかったクリーム色をしています。これは乳脂肪に含まれる成分によるもので、濃度が高くなればなるほど、その黄色みは強くなります。
ショートケーキなどで「真っ白な美しいデコレーション」を作りたい場合、47を使うと少し黄色っぽく見えてしまうことがあります。
逆に、カスタードクリームと合わせたり、パン生地に練り込んだりする場合には、この黄色みが「濃厚で美味しそう」な見た目を演出してくれることもあります。
色の違いはそのまま「成分の濃さの違い」であることを覚えておきましょう。
味わいの軽さと濃厚さの比較
口に入れた瞬間の味わいも、両者では全く異なります。
35の生クリームは、口当たりが非常に軽く、さっぱりとしています。口の中でスーッと溶けていくような感覚があり、後味にミルクの優しい風味が残ります。たくさん食べても胸焼けしにくいのはこちらです。
対して47の生クリームは、非常に濃厚で強いコクがあります。「リッチ」「ミルキー」と表現されるような、どっしりとした乳製品特有の旨味がガツンと感じられます。
パン作りで例えるなら、食パンに練り込んだときに、あっさりとした飽きのこない味になるのが35、デニッシュやブリオッシュのように芳醇な香りとコクが出るのが47です。
「主役を引き立てる名脇役」が欲しいなら35、「クリームそのものを味わいたい」なら47、というように、作りたいもののイメージに合わせて選ぶのがポイントです。
泡立てる際の変化と扱いやすさの比較

生クリームを使う上で最も緊張するのが「泡立て(ホイップ)」の作業ではないでしょうか。
実は、35と47では泡立つまでのスピードや、完成したクリームの固さ、そして失敗のリスクが大きく異なります。
ここでは、実際にホイップする際の挙動の違いと、それぞれの扱いやすさについて詳しく解説します。
ホイップにかかる時間の長さと労力
ハンドミキサーや泡立て器を使ってホイップするとき、その時間の差に驚くかもしれません。
乳脂肪分が高い47の生クリームは、泡立つのが非常に早いのが特徴です。ミキサーを回し始めてから、あっという間にとろみがつき、すぐにしっかりとしたツノが立ちます。時短で作業したいときには非常に便利です。
一方で、乳脂肪分が低い35の生クリームは、泡立つのにかなり時間がかかります。水分が多いため、空気を抱き込むのに時間がかかるのです。
手動の泡立て器で35を泡立てようとすると、腕が疲れてしまうほど混ぜ続ける必要があります。
35を扱う際は、必ずボウルの底を氷水で冷やしながら、電動のハンドミキサーを使うことを強くおすすめします。そうしないと、いつまで経ってもシャバシャバのまま…という事態になりかねません。
ボソボソになりやすいのはどっち?分離のリスク
生クリームの失敗例として最も多いのが、泡立てすぎてボソボソになってしまう「分離(ぶんり)」です。
このリスクが高いのは、圧倒的に47の生クリームです。
47は脂肪球がたくさん含まれているため、それらがくっつきやすく、理想的な「8分立て(ツノがお辞儀するくらい)」の状態から、ほんの数秒混ぜすぎただけで、急激に固くなり、ボソボソとした粗い状態になってしまいます。
最悪の場合、水分と油分が完全に分かれて「バター」になってしまいます。
逆に、35の生クリームは脂肪球が少ないため、なかなか固まりません。その分、急激にボソボソになることが少なく、状態の変化が緩やかです。
「あ、少し混ぜすぎたかな?」と思っても、すぐに分離することは稀です。キメの細かいなめらかな状態を長く維持しやすいのは35の方だと言えます。
初心者が扱いやすいのはどちらのタイプか
では、パン作りやお菓子作りの初心者はどちらを選ぶべきでしょうか。
結論から言うと、用途によりますが、失敗の少なさで言えば「35」の方が安全です。
47は確かに早く泡立ちますが、その分「見極め」が一瞬で決まってしまうため、慣れていないと「塗り広げている間にボソボソになってしまった」という失敗が起きがちです。
特に、デコレーションケーキのナッペ(クリームを塗る作業)などは、塗っている間の摩擦でもクリームは固くなっていきます。47だと触れば触るほどボソボソになります。
35であれば、多少触りすぎてもなめらかな状態を保ってくれるため、修正がききやすいのです。
ただし、35は「しっかりとした硬さ」を出すのが難しいため、ダレやすいという弱点もあります。
温度管理の重要性はどちらも変わらない
35と47で性質は違いますが、共通して絶対に守らなければならないのが「温度管理」です。
生クリームの脂肪球は、温度が上がると不安定になり、綺麗に泡立たなくなったり、すぐに分離したりします。
特に夏場や暖房の効いた部屋で作業する場合、どちらのクリームであっても、ボウルを氷水に当てて冷やしながら作業することは必須です。
ただし、47の方が脂肪分が多い分、温度変化によるダメージをより受けやすい傾向にあります。
買い物から帰る際も、47の方がより気を使う必要があります。少しでも温まると、パックの中で固まりができてしまうことがあるからです。
パン作りのフィリング(具材)として使う場合も、生地が冷えてから絞り入れたり、冷蔵発酵させたりするなど、温度には細心の注意を払いましょう。
お菓子やパン作りでの最適な使い分け方

それぞれの性質がわかったところで、具体的なレシピや用途に合わせた「使い分け」について見ていきましょう。
パン作りブログの読者様に向けて、パンに関連する用途も含めて詳しく解説します。
「なんとなく」で選ぶのではなく、「こういう仕上がりにしたいから、こっちを選ぶ」という基準を持てるようになりましょう。
フルーツサンドやマリトッツォの断面には47
最近流行りの「萌え断」フルーツサンドや、たっぷりのクリームを挟んだマリトッツォ。
これらを作るなら、おすすめは47の生クリームです。
理由は「保形性(形を保つ力)」の強さです。
フルーツサンドの場合、カットしたときにクリームがゆるいと、果物の重みで断面が崩れてしまったり、パンからクリームがはみ出してしまったりします。47のクリームをしっかりと泡立てて使うことで、スパッと切れた美しい断面を維持できます。
マリトッツォも同様で、パンの間に挟んだクリームがダレてくると見た目が悪くなります。47ならではの硬さと濃厚さが、リッチなブリオッシュ生地やフルーツの酸味とよく合います。
ただし、47だけだと味が重すぎると感じる場合は、ヨーグルトやマスカルポーネを混ぜて軽さを出す工夫も有効です。
ムースやババロアには35パーセントが向いている
ゼラチンを使って固めるムースやババロア、あるいはパンナコッタなどを作る場合は、35の生クリームが適しています。
こうしたお菓子は、冷やし固めることで形を作るため、クリーム自体の硬さはそれほど必要ありません。
むしろ、口に入れたときに体温でスーッと溶けるような「口溶けの良さ」が求められます。
脂肪分の高い47を使うと、冷やしたときに脂肪が固まってしまい、口当たりが重く、舌に油分が残るような食感になってしまうことがあります。
35を使えば、サラッとした軽やかな口当たりになり、フルーツピューレやチョコレートなどの副材料の風味もしっかりと感じることができます。
「飲むように食べられる」食感を目指すなら、迷わず35を選びましょう。
濃厚なガトーショコラやコクを出したいときは47
焼き菓子や濃厚なデザートには、47の生クリームの出番です。
例えば、ガトーショコラや生チョコ作りにおいては、チョコレートの強い風味に負けないだけのコクがクリームにも求められます。
ここで35を使うと、少し水っぽくなってしまったり、濃厚さが足りずに物足りない味になってしまったりすることがあります。
また、キャラメルクリームを作るときなども、47を使うことで、専門店のような深くリッチな味わいに仕上がります。
パン作りにおいても、カスタードクリームと混ぜて「ディプロマットクリーム」を作り、クリームパンに入れる場合などは、47を使うことでバニラや卵の風味に負けない、高級感のあるクリームになります。
パン生地に練り込む場合の影響と選び方
パンの仕込み水の一部として生クリームを配合する場合、どちらを選ぶべきでしょうか。
高級食パンのような「耳まで柔らかく、しっとりとしたパン」を作りたい場合は、乳脂肪分が高い47の方が効果を実感しやすいです。
脂肪分はパンの老化(パサつき)を遅らせ、しっとり感を長続きさせる効果があります。また、47特有のミルキーな香りが焼き上がりのパンに残ります。
しかし、47は価格が高いため、日常的に焼くパンに使うにはコストがかかりすぎることが難点です。
一方、35を使っても十分にしっとり感は出ますし、あっさりとした食事パン(テーブルロールなど)にはむしろ35の方が向いています。
レシピに「生クリーム」とだけ書かれている場合、基本的にはどちらを使ってもパン作り自体は失敗しません。リッチにしたいなら47、軽めにしたいなら35、またはスーパーで安売りされている方を選ぶ、という基準で大丈夫です。
プロも実践する「ブレンド」という選択肢

ここまで「35」か「47」かの二択でお話ししてきましたが、実はプロのパティシエやパン職人は、この二つを混ぜて使うことがよくあります。
「売っていないなら自分で作ればいい」という発想です。
この「ブレンド」のテクニックを知っておくと、生クリームの扱いはもっと自由で楽しいものになります。
35と47を混ぜ合わせて自分好みの濃度を作る
スーパーには極端な「35」と「47」しか置いていないことが多いですが、実はお菓子作りやパン作りにおいて最も使いやすいとされているのは「40%〜42%」程度の乳脂肪分です。
これは、35の軽さと扱いやすさ、47のコクと保形性の「いいとこ取り」ができる魔法の濃度です。
もし売り場に35と47しかない場合、これらを1:1(同量ずつ)の割合で混ぜ合わせることで、約41%の生クリームを作ることができます。
計算式は単純で、(35+47)÷ 2 = 41 です。
パックに残ってしまった半端な生クリーム同士を混ぜても問題ありません。この方法を使えば、どんな用途にも対応できる万能なクリームが手に入ります。
作業性の良さとコクのバランスがとれるメリット
ブレンドしたクリーム(約40〜42%)を使う最大のメリットは、「味はリッチなのに、ボソボソになりにくい」という点です。
47単体だと、ナッペ(ケーキに塗る作業)の最中にすぐに固まってしまい、プロでも素早く作業しないと失敗することがあります。
しかし、35を混ぜて脂肪分を少し下げるだけで、泡立つまでの時間に猶予が生まれ、分離するまでのリミットが伸びます。
それでいて、35単体のような水っぽさやダレやすさは解消されており、しっかりとしたツノも立ちます。
味も、濃厚すぎず軽すぎず、現代人の好みに合った「ほどよいコク」に仕上がります。
パンに挟むクリームとしても、フルーツサンドやコッペパンサンドに最適な固さと口溶けを実現できます。
お店のような味に近づく黄金比率のヒント
プロの現場では、季節や合わせるフルーツによってこの比率を微妙に変えています。
例えば、暑い夏場や、酸味のあるイチゴを使うときは、少しさっぱりさせるために35の割合を増やします。
逆に、寒い冬場や、濃厚な栗やチョコと合わせるときは、47の割合を増やしてコクを出します。
ご家庭でパン作りをする際も、「今日はこってりしたクリームパンが食べたいから47を多めに」「朝食用のフルーツサンドだから35を多めに」といった具合に調整できれば、あなたも立派なクリームマスターです。
メモ:牛乳で割る方法
47の生クリームしかないけれど、少し軽くしたい…という場合は、少量のおいしい牛乳を足すことでも脂肪分を下げられます。ただし、牛乳には水分が多く含まれるため、入れすぎるとシャバシャバになり泡立たなくなるので注意が必要です。47のクリーム200mlに対して、大さじ2〜3杯程度の牛乳を加えるのが安全な範囲です。
植物性ホイップと純生クリームの違いも知っておこう

生クリーム売り場には、35や47といった数字の書かれた「純生クリーム」の隣に、少し価格の安い似たようなパッケージの商品が並んでいます。
これらは一般的に「植物性ホイップ」などと呼ばれますが、最後にこれらと純生クリームの違いについても触れておきます。
パン作りにおける使い分けの参考にしてください。
「種類別:クリーム」と「乳等を主要原料とする食品」
パッケージの裏側にある「一括表示」を見てみましょう。
ここまで解説してきた35や47の生クリームは、「種類別:クリーム」と書かれています。これは、原材料が「生乳(牛乳)」のみで作られており、添加物が入っていない本物の生クリームの証です。
一方、安価な商品は「名称:乳等を主要原料とする食品」と書かれています。
これには2つのタイプがあります。
1つは、植物性脂肪(ヤシ油など)をメインに使ったもの。
もう1つは、動物性の乳脂肪に乳化剤や安定剤を加えて扱いやすくしたものです(コンパウンドクリームとも呼ばれます)。
これらは厳密には「生クリーム」とは呼べません。
価格と賞味期限の差はどれくらいあるのか
両者の最も大きな違いは「価格」と「日持ち」です。
純生クリーム(35や47)は、200mlで350円〜450円程度と高価で、賞味期限も1週間〜2週間程度と非常に短いです。
一方、植物性ホイップは、150円〜200円程度で購入でき、賞味期限も1ヶ月以上あるものが多く、非常に経済的です。
パン作りで「毎日焼く食パンに少し入れたい」という場合や、「練習用に何度もホイップしたい」という場合には、植物性ホイップがコストパフォーマンスに優れています。
また、植物性ホイップは安定剤が入っているため、時間が経っても分離しにくく、真っ白な状態を長時間キープできるというメリットもあります。
添加物の有無と健康面での選び方
味に関しては、やはり純生クリーム(種類別:クリーム)が圧倒的に美味しいです。自然なミルクの風味と口溶けは、植物性では完全には再現できません。
また、純生クリームは原材料が「生乳」だけなので、添加物を気にする方や、小さなお子様に食べさせるパンやお菓子にはこちらが選ばれることが多いです。
植物性ホイップは、あっさりしていて軽いのが特徴ですが、商品によっては独特の油のにおいがすることもあります。
「特別な日のケーキやリッチなパンには純生クリーム(47や35)」、「日常のおやつパンや練習用には植物性ホイップ」というように、予算と目的に応じて賢く使い分けるのがおすすめです。
まとめ:生クリーム35と47の違いを知ってパン作りを楽しもう

生クリームの「35」と「47」の違いについて詳しく解説してきました。
最後に、それぞれの特徴をもう一度おさらいしましょう。
【35(低脂肪タイプ)】
・色は真っ白で、味はさっぱり軽く、口溶けが良い。
・泡立つまでに時間がかかるが、分離しにくくキメが細かい。
・ムースや飲み物、あっさりした食事パンに向いている。
【47(高脂肪タイプ)】
・色はクリーム色で、味は濃厚でコクがあり、ミルク感が強い。
・すぐに泡立つが、油断するとボソボソになりやすい(分離しやすい)。
・デコレーションのツノを立てたい時や、リッチな配合のパンに向いている。
どちらが良い・悪いではなく、「作りたいものに合わせて選ぶ」のが正解です。
そして、迷ったときや扱いやすさを重視したいときは、両者を混ぜて「40〜42%」程度のオリジナルクリームを作るのもプロのテクニックでしたね。
この違いを理解して使い分けることができれば、あなたが作るフルーツサンドやクリームパン、そして食パンのレベルは間違いなくワンランクアップします。
ぜひ次回のスーパーでの買い物の際は、パッケージの数字に注目して、作りたいパンにぴったりの一本を選んでみてください。


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