パン屋さんに入ると、色とりどりのドライフルーツやナッツがぎっしりと詰まった、ずっしり重いパンを見かけることはありませんか?それが「パンオフリュイ」です。フランス語でおしゃれな響きを持つこのパンは、噛みしめるたびにフルーツの甘みと小麦の香ばしさが口いっぱいに広がる、まさにパン好きのための特別な一品です。
自宅で作るのは難しそうに見えますが、生地の扱い方や具材の混ぜ込み方のポイントさえ押さえれば、家庭のオーブンでも本格的な味わいを再現できます。この記事では、パンオフリュイの基礎知識から、失敗せずに美味しく焼くための製パン理論、そしておすすめの食べ方までを丁寧にご紹介します。いつものパン作りをワンランクアップさせたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
パンオフリュイとは?名前の意味と特徴

パン作りを趣味にしていると、さまざまなフランス語のパンの名前を目にします。「パンオフリュイ」もそのひとつですが、具体的にどのような定義があるのでしょうか。まずは言葉の意味や、このパンならではの特徴について詳しく見ていきましょう。
フランス語で「フルーツのパン」
「パンオフリュイ(Pain aux fruits)」は、フランス語で直訳すると「フルーツのパン」という意味です。「Pain(パン)」はパン、「aux(オ)」は~の(英語のwithやofに近い接頭辞)、「fruits(フリュイ)」はフルーツを指します。その名の通り、生地の中にドライフルーツがたっぷりと練り込まれているのが最大の特徴です。
使用されるフルーツに厳密な決まりはありませんが、レーズン、イチジク、クランベリー、オレンジピールなどがよく使われます。さらに、食感のアクセントとしてクルミやアーモンドなどのナッツ類を加えることも一般的です。パンの断面を見たときに、生地の面積よりも具材の方が多いのではないかと思うほど、贅沢にフィリングが詰まっているものも人気があります。
ライ麦との相性が抜群の理由
パンオフリュイの生地には、通常の強力粉や準強力粉に加えて「ライ麦粉」が配合されることが多くあります。これには明確な理由があります。ライ麦粉には独特の酸味と香りがありますが、これがドライフルーツの濃厚な甘みと非常に相性が良いのです。ライ麦の風味がフルーツの甘さを引き立て、全体を奥深い味わいにまとめてくれます。
また、ライ麦粉には保水性が高いという特徴もあります。ドライフルーツは焼成中に水分を奪いやすいため、ライ麦を配合することで、時間が経ってもパサつかず、しっとりとしたクラム(内側の生地)を保つ効果も期待できるのです。ライ麦の配合率は10%程度の軽いものから、50%以上の重厚なものまで様々ですが、家庭で作る場合は20%前後が扱いやすくおすすめです。
ハード系だけじゃない?食感のバリエーション
一般的にパンオフリュイというと、ハード系のガリッとした皮(クラスト)を持つパンをイメージする方が多いでしょう。確かに、バゲットやカンパーニュのような生地をベースにしたハードタイプが主流です。しかし、実はソフトな生地で作られることもあります。
例えば、牛乳やバターを配合したリッチな生地にフルーツを混ぜ込んだものや、白パンのように柔らかく焼き上げたものも、広義にはパンオフリュイと呼べます。作り手の好みや合わせたい食事によって、食感を自由にコントロールできるのも手作りの醍醐味です。とはいえ、たっぷりのフルーツを支えるためにはある程度の生地の強さが必要になるため、初心者の方はまずは準強力粉を使ったセミハードタイプから挑戦するのが良いでしょう。
失敗しないための材料選びと下準備

パンオフリュイを美味しく作るためには、焼く前の準備が非常に重要です。特にドライフルーツの下処理や粉の選び方は、焼き上がりの完成度を大きく左右します。ここでは、材料選びと事前の準備について詳しく解説します。
準強力粉とライ麦粉の黄金比率
美味しいパンオフリュイを作るための粉選びは、食感の決め手となります。基本的には、バゲットなどに使われる「準強力粉(フランスパン用粉)」をベースにするのがおすすめです。強力粉よりもグルテンが弱いため、歯切れの良いクリスピーな食感に仕上がります。
もし手元にない場合は、強力粉と薄力粉を7:3または8:2の割合でブレンドして代用することも可能です。ここに風味付けとしてライ麦粉を加えますが、初心者の方におすすめの配合比率は「準強力粉80%:ライ麦粉20%」です。
ライ麦が多すぎると生地がベタついて扱いづらくなり、グルテンの形成も阻害されるため、膨らみが悪くなるリスクがあります。まずは20%程度から始めて、慣れてきたら徐々にライ麦の割合を増やし、自分好みの風味を探っていくと良いでしょう。
ドライフルーツの種類と組み合わせのコツ
フィリングとして入れるドライフルーツの選び方は、味のバランスを整える上で大切です。基本となるのは「甘み」と「酸味」のバランスです。例えば、甘みの強いレーズンやイチジクをベースにしつつ、酸味のあるクランベリーや香りの良いオレンジピールを加えると、味が単調にならず最後まで美味しく食べられます。
複数のフルーツをミックスする場合は、大きさを揃えるようにカットしておくと、どこを食べても均一な食感を楽しめます。また、色の組み合わせも意識してみてください。黒っぽいレーズンだけでなく、赤色のクランベリーや黄色のマンゴー、緑色のグリーンレーズンなどを組み合わせると、スライスした時の断面が華やかになり、見た目でも楽しめるパンになります。
重要!フルーツの下処理(湯通し・洋酒漬け)
ドライフルーツをそのまま生地に混ぜ込むと、フルーツが生地中の水分を吸ってしまい、パンがパサパサになってしまう原因になります。これを防ぐために必ず行いたいのが「下処理」です。もっとも手軽な方法は「湯通し」です。ザルに入れたフルーツに熱湯を回しかけ、表面のオイルコーティングを取り除くと同時に、適度な水分を含ませます。
その後、キッチンペーパーでしっかりと水気を拭き取ってから使用します。さらに本格的な風味を目指すなら「洋酒漬け」がおすすめです。ラム酒やキルシュなどに数日間漬け込むことで、フルーツが柔らかくなり、芳醇な香りがプラスされます。ただし、アルコールを含んだフルーツは発酵に影響を与える(イーストの働きを弱める)ことがあるため、使用する際は汁気をよく切り、生地に混ぜるタイミングに注意が必要です。
ナッツを加える場合のロースト処理
フルーツだけでなく、クルミやアーモンド、ピーカンナッツなどを加えると、香ばしさとカリッとした食感が加わり、より本格的なパンオフリュイになります。ナッツを使用する場合の必須工程が「ロースト」です。生のナッツをそのまま生地に入れると、焼成時に火が通りきらず、少し湿気たような食感になったり、生臭さが残ったりすることがあります。
予熱した160℃〜170℃のオーブンで10分程度、またはフライパンで乾煎りして、ナッツの中心まで軽く火を通しておきましょう。こうすることで、パン生地の中で水分を吸ってもカリッとした食感が残りやすくなり、ナッツ本来の油分が温められて香りも引き立ちます。ローストした後は必ず完全に冷ましてから生地に混ぜ込んでください。熱いまま混ぜると生地の温度が上がりすぎ、発酵過多の原因となります。
生地にたっぷり混ぜ込むテクニック

パンオフリュイの最大の難関は、大量の具材をどのようにして生地にまとめるかという点です。具材が多すぎるとグルテン膜が破れ、パンが膨らまない原因になります。ここでは、生地を傷めずにたっぷりのフルーツを混ぜ込むプロのテクニックを紹介します。
こねる時に混ぜない?「後入れ」のメリット
ホームベーカリーや手ごねで最初からフルーツを入れてこねてしまうと、フルーツが潰れて生地が茶色く濁ったり、グルテンの形成が妨げられたりします。そのため、具材は生地がしっかりこね上がってから混ぜ込む「後入れ」が基本です。
しかし、具材の量が対粉比(粉の量に対して)50%を超えるような場合、こね上がった生地に単に練り込むだけでは、具材が均一に混ざらず、生地からポロポロとこぼれ落ちてしまうことがあります。無理に押し込もうとすると生地の表面が荒れてしまい、焼き上がりの見た目も悪くなります。そこで有効なのが、次に紹介する「ラミネーション」などの、生地を層状にして具材を挟み込む方法です。
生地のつながりを守る「ラミネーション」とは
高加水のハードパン作りでよく使われる「ラミネーション」という技法は、パンオフリュイ作りにも非常に適しています。これは、一次発酵の途中で生地を大きく四角形に薄く広げ、その上に具材を散らしてから、手紙を折りたたむように生地を重ねていく方法です。
この方法のメリットは、生地を無理にこね回すことなく、広げて畳むだけで自然と具材が層の間に入り込み、全体に行き渡ることです。生地のグルテン構造を壊さずに済むため、ボリュームのあるパンに焼き上がります。また、具材が生地の内側に包み込まれる形になるため、焼成中にフルーツが表面に出て焦げてしまうのを防ぐ効果もあります。フルーツたっぷりの断面を作りたい場合は、ぜひこの技法を試してみてください。
成形時のポイント(フルーツを表面に出さない)
最終的な形を作る「成形」の段階でも注意が必要です。ドライフルーツ、特にレーズンやクランベリーなどの糖分が多い食材がパンの表面に出ていると、オーブンの熱でその部分だけが真っ黒に焦げてしまい、苦みが出てしまいます。これを防ぐために、成形の際は表面にフルーツが飛び出さないように意識しましょう。
具体的には、生地を広げた際に表面近くにフルーツが見えたら、指で内側に押し込むようにして生地の中に隠します。また、生地を張らせる際に、フルーツのない滑らかな生地が表皮にくるように調整します。もしどうしても表面に出てきてしまう場合は、焼成前にその部分を取り除いて底面に押し込むか、食べてしまうのも一つの手です。表面がつるんとした状態で焼くことで、美しい焼き色とクープ(切れ込み)のコントラストが生まれます。
発酵と焼成で見極めるプロのコツ

具材たっぷりの重い生地は、プレーンな生地に比べて発酵の見極めが難しくなります。また、ハードパン特有のバリッとした皮を作るには焼成にもコツがいります。美味しいパンオフリュイを焼き上げるための仕上げの工程を確認しましょう。
フルーツの重みで発酵が遅い時の対処法
パンオフリュイは、ドライフルーツやナッツの重量があるため、物理的に生地が重くなり、発酵による膨らみが鈍くなる傾向があります。また、フルーツに含まれる糖分や酸、あるいは洋酒のアルコール分がイーストの働きに影響を与えることもあります。
そのため、通常のレシピ通りの時間で発酵を切り上げると、発酵不足で目の詰まった硬いパンになってしまいがちです。発酵の見極めは「時間」ではなく「状態」で見ることが大切です。一次発酵では、生地が元の大きさの2倍から2.5倍になるまでじっくり待ちましょう。指で押して跡が残る(フィンガーテスト)状態になればOKです。冬場など室温が低い場合は、発酵器を使うか、暖かい場所に置く時間を長めにとるなどして、生地が十分に緩むまで焦らず待つことが成功への近道です。
クープ(切り込み)をきれいに入れる工夫
ハードパンの顔とも言える「クープ(切り込み)」。パンオフリュイの場合、中に具材が詰まっているため、クープナイフがフルーツに引っかかり、綺麗に切れないことがあります。これを防ぐためには、切れ味の良い刃(カミソリ刃など)を使い、迷わずにスパッと切ることが重要です。
また、成形の段階で表面の生地(皮一枚分)をしっかりと張らせておくことで、ナイフが入りやすくなります。もしナイフがフルーツに当たってしまった場合は、無理に引かずに一度刃を離し、再度ラインをつなげるように入れ直します。クープを入れる場所は、なるべくフルーツが突出していない部分を選びましょう。焼成時にクープが開くことで、内部の水分が適度に蒸発し、火通りが良くなる効果もあります。
高温短時間?じっくり?焼成温度の目安
パンオフリュイの焼成は、目指す食感やパンの大きさによって調整が必要です。基本的にはハード系の生地なので、予熱は250℃〜300℃と高めに設定し、生地を入れた直後にスチーム(蒸気)を入れて焼くのが理想です。スチームを入れることで、オーブンスプリング(釜伸び)が促進され、クラストが薄くパリッと仕上がります。
焼成温度は、最初の5〜10分は230℃〜240℃の高温で焼き色と膨らみを確保し、その後200℃〜210℃に下げて中までじっくり火を通すのが一般的です。具材が多いパンは水分が抜けにくいため、焼き時間が短いと中が生焼けになりやすいので注意してください。小型のパンなら15分〜20分、大型なら30分〜40分程度を目安に、底を叩いて「コンコン」と軽い音がするまでしっかり焼き込みましょう。
パンオフリュイの美味しい食べ方と保存方法

苦労して焼き上げたパンオフリュイ。せっかくなら一番美味しい状態で楽しみたいものです。ここでは、焼き上がったパンをさらに美味しく味わうための食べ方やペアリング、そして美味しさを長持ちさせる保存方法についてご紹介します。
スライスは薄めがおすすめ
具材がぎっしり詰まったパンオフリュイは、味が濃厚で噛み応えも十分にあるため、厚切りにするよりも薄くスライスして食べるのがおすすめです。具体的には7mm〜1cm程度の厚さが理想的です。薄くスライスすることで、クラストのカリッとした食感と、フルーツの凝縮された甘みをバランスよく味わうことができます。
また、薄く切ることで見た目も美しく、オードブルやフィンガーフードとしても活躍します。軽くトーストすると、小麦の香りが蘇り、フルーツの甘みが増し、ナッツの香ばしさが際立ちます。ただし、焦げやすいのでトーストする際は目を離さないようにしましょう。
クリームチーズやバターとのペアリング
そのままでも十分に美味しいパンオフリュイですが、乳製品と合わせることでさらにリッチな味わいになります。特に相性が良いのが「クリームチーズ」です。クリームチーズの酸味とコクが、ドライフルーツの甘みと絶妙にマッチし、まるでデザートのような満足感を得られます。少し室温に戻して柔らかくしたクリームチーズをたっぷりと塗って食べてみてください。
また、有塩バターを乗せるのも王道の楽しみ方です。バターの塩気がフルーツの甘みを引き締め、甘じょっぱい味わいが後を引きます。さらに蜂蜜やメープルシロップを少しかけると、贅沢な朝食やティータイムのお供になります。
ワインやコーヒーとのマリアージュ
パンオフリュイは、飲み物とのペアリングを楽しむのにも最適なパンです。例えば、イチジクやレーズンが入ったタイプは、赤ワインとの相性が抜群です。フルーツの凝縮感とワインのタンニンが調和し、おつまみとしても楽しめます。特にブルーチーズなどを添えると、ワインが進む大人の一皿になります。
一方、朝食やカフェタイムにはコーヒーや紅茶がよく合います。深煎りのコーヒーの苦みは、ドライフルーツの甘さをすっきりと洗い流してくれますし、柑橘系のピールが入ったパンには、アールグレイなどの香り高い紅茶がぴったりです。パンに入っているフルーツの種類に合わせて、飲み物を選んでみるのも楽しいひとときです。
まとめ

今回は、フルーツ好きにはたまらない「パンオフリュイ」の魅力と作り方について解説しました。ドライフルーツやナッツをたっぷりと練り込んだこのパンは、ライ麦の風味とフルーツの甘みが調和した奥深い味わいが特徴です。作る際のポイントは、フルーツの下処理をしっかりと行い、ラミネーションなどの技法を使って生地を傷めずに混ぜ込むこと、そして発酵の見極めを丁寧に行うことです。
家庭で作るパンオフリュイは、自分好みのフルーツを好きなだけ入れられるのが最大の魅力です。レーズン、イチジク、マンゴー、ベリーなど、季節や気分に合わせて組み合わせを変えれば、無限のバリエーションを楽しめます。薄くスライスしてワインのお供にしたり、クリームチーズを塗って朝食にしたりと、食卓を華やかに彩ってくれること間違いありません。ぜひ今回の記事を参考に、あなただけの特別なパンオフリュイを焼いてみてください。



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