「フランスパンを焼きたいのに、モルトパウダーがない!」パン作りをしていると、そんな経験をしたことはありませんか?レシピに書かれているほんの少しの量のために、わざわざ専門店まで買いに行くのは大変ですよね。実は、モルトパウダーは身近な材料で代用することが可能です。
この記事では、モルトパウダーの役割をしっかり理解した上で、家にあるもので美味しくパンを焼くための代用テクニックを詳しくご紹介します。代用品それぞれの特徴を知れば、自分好みの焼き上がりを見つけるきっかけにもなりますよ。
モルトパウダーの役割と代用が必要な理由

そもそも、なぜパン作りにおいてモルトパウダーが必要なのでしょうか。「たった数グラムしか入れないなら、なくてもいいのでは?」と思うかもしれません。しかし、この魔法の粉には、パンの仕上がりを劇的に変える重要な役割があります。代用品を上手に選ぶためには、まず本家の役割を知っておくことが大切です。
イーストの働きを助ける酵素の力
モルトパウダーの最大の役割は、イースト(パン酵母)の栄養源を供給することです。モルトパウダーには「アミラーゼ」という酵素が豊富に含まれています。この酵素は、小麦粉に含まれるデンプンを分解して、麦芽糖(マルトース)などの糖分に変える働きをします。
イーストは、この分解された糖を食べて活動し、炭酸ガスとアルコールを発生させます。つまり、モルトパウダーを入れることで、イーストが元気に活動できる環境が整い、パン生地がふっくらとボリュームよく膨らむのです。特に砂糖を加えないフランスパンなどの生地では、イーストの食料となる糖分が不足しがちになるため、モルトパウダーによる糖の供給が生命線となります。
パンにきれいな焼き色をつける効果
焼き上がりのパンが放つ、あの食欲をそそる黄金色や茶色の焼き色。これを「メイラード反応」と呼びますが、モルトパウダーはこの反応を促進させる鍵となります。先ほどの酵素の働きによって生地内に糖分が増えることで、焼成時に熱と反応してきれいな色がつきやすくなるのです。
もしモルトパウダーを入れずに、砂糖も入っていない生地を焼くと、どうしても白っぽく、どこか味気ない見た目になってしまいがちです。こんがりとした美味しそうな見た目を作るためにも、糖分の元となる材料や代用品が必要不可欠と言えるでしょう。
風味と香ばしさをアップさせる秘密
パン屋さんで買うバゲットのような、独特の香ばしい風味。これもモルトパウダーの効果の一つです。大麦を発芽させて作るモルトには、独特のコクと香りがあります。これがパン生地に移ることで、小麦そのものの味を引き立てつつ、奥行きのある風味を生み出します。
単に「甘くする」だけなら砂糖でも良いのですが、フランスパン特有の「甘みではない、噛めば噛むほど広がる旨味」を出すには、モルトやそれに近い発酵系の代用品が大きな役割を果たします。代用品を選ぶ際も、この風味の部分をどう補うかがポイントになってきます。
パリッとしたクラストを作る食感への影響
ハード系パンの醍醐味といえば、外側の皮(クラスト)のパリパリ感ですよね。モルトパウダーに含まれる酵素は、生地の伸びを良くする効果もありますが、同時に焼き上がりの食感にも大きく影響します。適切な糖分が表面に残ることで、焼いた時にカリッとしたクリスピーな食感が生まれます。
逆に、何も入れないと表面が厚く硬くなりすぎたり、あるいは色がつく前に水分が飛んでパサパサになったりすることがあります。あの軽やかでパリッとした食感を目指すなら、やはり何かしらの形で「酵素」や「糖」の要素を補ってあげる必要があります。
【ここまでのポイント】
モルトパウダーは単なる甘味料ではなく、「酵素」の力で発酵を助け、色・味・食感のすべてを底上げする「縁の下の力持ち」です。代用する際は、この働きを意識することが成功への近道です。
モルトパウダーの代用におすすめな材料5選

それでは、実際に家庭で使える代用品をご紹介していきましょう。それぞれの特徴や、どんなパンに向いているかを知ることで、作りたいパンに合わせて最適なものを選べるようになります。
最も近い効果が期待できる「モルトシロップ」
代用品というよりも「兄弟」のような存在なのが、モルトシロップ(モルトエキス)です。モルトパウダーが粉末状なのに対し、シロップはペースト状になっています。成分はほぼ同じで、麦芽の酵素もしっかり含まれています。
プロのパン屋さんでは、パウダーよりもシロップを使うお店も多いほどです。効果はパウダーと同等か、あるいは酵素の活性がより強い場合もあります。家に製菓材料として残っているなら、これが一番の代用候補です。ただし、粘度が高く計量が少し難しいのが難点ですが、仕上がりは本物に最も近くなります。
手軽でしっとり仕上がる「はちみつ」
どこの家庭にもある確率が高いのが「はちみつ」です。はちみつは、モルトパウダーの代用として非常に優秀です。その理由は、はちみつにも微量ながら酵素が含まれていること(特に加熱処理されていないもの)、そして保水性が高いことです。
はちみつに含まれるブドウ糖と果糖は、イーストがすぐに栄養として利用できる形になっています。そのため発酵もスムーズに進みます。また、はちみつを使うと焼き色がきれいにつきやすく、クラム(中身)がしっとりと柔らかく仕上がる傾向があります。ソフトフランスパンや、少し口当たりの優しいハードパンを作りたい時に最適です。
焼き色と甘みを補う「砂糖・三温糖」
最も身近な調味料である「砂糖」も、もちろん代用として使えます。上白糖でも構いませんが、もしあれば「三温糖」や「きび砂糖」がおすすめです。これらは精製度が低く、ミネラルを含んでいるため、イーストの活動をより活発にし、風味も豊かになります。
砂糖は酵素を持っていないため、デンプンを分解する力はありません。しかし、「イーストの餌になる」「焼き色をつける」という2点においては十分な役割を果たします。食感はモルトを使った時よりも少しソフトになりますが、家庭で焼く分には十分美味しいパンになります。「とにかく手軽に焼きたい!」という時の強い味方です。
日本の台所にある「水飴」の活用法
意外かもしれませんが、「水飴」もパン作りには有効です。水飴はデンプンを糖化させて作られたもので、成分的には麦芽糖を多く含んでいるものもあります。パン生地に加えると、砂糖よりもすっきりとした甘さになり、独特の艶(つや)が出やすくなります。
特にベーグルなどを茹でる(ケトリング)のお湯に入れる代用としては定番ですが、生地に練り込むことでもしっとり感を出すことができます。酵素の力はあまり期待できませんが、保湿性が高く、パンがパサつくのを防いでくれる効果があります。
酵素パワーを活用する「米麹・甘酒」
少し上級者向け、かつ科学的なアプローチとしておすすめなのが「米麹」や、それから作られる「甘酒(濃縮タイプ)」です。これらはモルト(麦芽)と同様に、強力なアミラーゼ(酵素)を持っています。つまり、機能面ではモルトパウダーに非常に近い働きをしてくれるのです。
生地に少量混ぜ込むことで、酵素がデンプンを分解し、自然な甘みと発酵力を生み出します。焼き上がりの香りも、麦芽とは少し違った和風の芳醇な香りがプラスされ、非常に味わい深いパンになります。「モルトはないけど、麹ならある」という発酵食品好きの方は、ぜひ試してほしい隠し味です。
代用品を使う時の分量と注意点

代用品が決まったら、次は「どれくらい入れたらいいの?」という疑問が湧いてきますよね。モルトパウダーはごく微量しか使いませんが、代用品の場合は少し勝手が違います。失敗しないための分量の目安と注意点を解説します。
モルトシロップを使う場合の水分量調整
モルトシロップを代用する場合、基本的にはモルトパウダーと同じ分量か、少し多め(1.1〜1.2倍程度)で使用します。しかし、一番の注意点は「水分量」と「溶かし方」です。シロップは水飴のように粘り気が強く、そのまま粉に入れても均一に混ざりません。
必ず、仕込み水(パン作りに使う水)の一部を取り分け、そこにシロップを溶かしてから粉に加えるようにしましょう。特に冬場は硬くて溶けにくいので、少しぬるま湯を使うとスムーズです。水分量はシロップに含まれる水分をごくわずかとみなして無視しても良い範囲ですが、厳密に行うならシロップの量の20%程度を水分として計算に入れます。
はちみつや砂糖に置き換える時の黄金比率
はちみつや砂糖を使う場合、モルトパウダーと全く同じ量(0.1〜0.3%)では、効果が薄いことがあります。モルトパウダーは酵素の「触媒」としての働きが強いため少量で効きますが、砂糖類はあくまで「直接的な糖分補給」だからです。
目安としては、粉250g(フランスパン2本分程度)に対して、小さじ1杯(約5〜6g)〜小さじ2杯程度を入れるのがおすすめです。これはベーカーズパーセントで言うと2〜3%程度になります。これくらい入れると、発酵不足を防ぎ、きれいな焼き色が期待できます。ただし、入れすぎると甘い菓子パンのようになってしまうので、「隠し味」程度に留めるのがコツです。
発酵時間の変化を見極めるポイント
代用品を使うと、発酵のスピードが変わることがあります。例えば、酵素たっぷりの「甘酒」や「麹」を使った場合、温度によっては発酵が急激に進んだり、逆に生地がダレやすくなったりすることがあります。酵素がタンパク質(グルテン)まで分解しすぎてしまうためです。
逆に、上白糖だけで代用した場合は、モルト使用時よりも後半の発酵力が少し弱まる(持続性が低い)可能性があります。レシピ通りの時間で判断せず、「生地の大きさ(2倍など)」「フィンガーテストの状態」をしっかり見て、発酵完了を見極めてください。いつもより生地の様子をこまめにチェックすることが成功への鍵です。
作りパンの種類別・ベストな代用の選び方

「どんなパンを焼きたいか」によって、ベストな代用品は変わります。ここでは、パンの種類ごとに相性の良い代用テクニックをご紹介します。
バゲットなどのハード系パンに向く代用
バゲットやカンパーニュなど、皮(クラスト)をパリッとさせたいハード系パンには、やはり酵素の働きが重要です。一番のおすすめは「モルトシロップ」ですが、ない場合は「はちみつ」を少量使いましょう。
はちみつを使うことで、適度な焼き色がつき、クラストが薄くパリッと仕上がりやすくなります。砂糖だと少し皮が厚くなりがちです。また、もし手に入るなら「ビタミンC(レモン汁数滴)」を併用すると、生地が引き締まり、ハードパンらしいクープ(切れ込み)が開きやすくなります。
食パンや菓子パンなどのソフト系に向く代用
食パンやテーブルロールなど、中身(クラム)の柔らかさを重視するパンの場合は、「砂糖」や「水飴」、あるいは多めの「はちみつ」が向いています。これらのパンはもともと砂糖を配合するレシピが多いですが、モルトの代わりに砂糖を少し増やすことで、しっとり感が長持ちします。
ソフト系の場合、モルト特有の「バリッ」とした食感はむしろ邪魔になることもあります。ですので、無理に酵素系の代用を探さずとも、お好みの砂糖やはちみつで甘みと保湿性を補うだけで十分美味しく焼き上がります。
ベーグルを作る時に艶を出すテクニック
ベーグルは独特の「ツヤ」と「むっちり感」が命です。生地に入れる代用としては、「モルトシロップ」または「はちみつ」が適していますが、重要なのは「ケトリング(茹でる)」の工程での代用です。
お湯にモルトシロップを入れるのが本格的ですが、家庭では「はちみつ」か「砂糖(できれば三温糖)」を多めにお湯に溶かしましょう。大さじ1〜2杯程度をしっかり入れることで、茹で上がった後のオーブン焼成で、ピカピカの艶が生まれます。ここはケチらずに入れるのがコツです。
代用を使わずに焼くという選択肢もあり?
究極の選択肢として、「何も入れない」という方法もあります。小麦粉、塩、水、イーストだけで焼くパンです。実は、時間をかけてゆっくり発酵させれば、小麦粉自身の酵素が少しずつデンプンを分解して糖を作ります。
オーバーナイト法(冷蔵庫で一晩発酵させる方法)などを使う場合は、代用品なしでも十分に風味豊かなパンが焼けることがあります。焼き色は少し薄くなるかもしれませんが、小麦本来の素朴な味わいを楽しみたいなら、あえて「代用なし」に挑戦するのも面白い実験になります。
プロも実践するモルトパウダー代用の応用テクニック

最後に、ただ代用するだけでなく、より美味しく仕上げるための応用テクニックをお伝えします。これを知っておくと、パン作りのレベルがぐっと上がります。
複数の代用品をブレンドして効果を高める
一つの材料だけでなく、組み合わせることで互いの良さを引き出す方法です。例えば、「砂糖+レモン汁(微量)」の組み合わせ。砂糖でイーストの餌を確保しつつ、レモン汁(ビタミンC)で生地のグルテンを引き締めることで、モルトパウダーを使った時の「釜伸び(オーブンでの膨らみ)」を再現しようとするテクニックです。
また、「はちみつ+粉末麹(微量)」なども面白い組み合わせです。はちみつで保水性を、麹で酵素分解を狙います。このように、それぞれの材料が持つ特性(糖・酵素・酸)を理解して組み合わせると、自分だけの秘密のレシピが出来上がります。
オーバーナイト発酵と組み合わせるメリット
先ほど少し触れましたが、低温長時間発酵(オーバーナイト発酵)は、モルトパウダーがない時にこそ試してほしい製法です。冷蔵庫で8時間以上かけてゆっくり発酵させることで、時間を味方につけます。
時間が経つほどに、生地の中で自然な熟成が進み、旨味成分のアミノ酸が増えます。モルトパウダーを入れなくても、この熟成効果によって複雑な味わいが生まれ、焼き色もつきやすくなります。「材料が足りないなら、時間をかける」というのは、パン作りの賢い知恵の一つです。
焼き上がりの違いを楽しむ比較実験のすすめ
もし余裕があれば、同じ生地を2つに分けて、一方で「砂糖」、もう一方で「はちみつ」を使って焼き比べてみてください。焼き色の濃さ、皮の厚さ、翌日のしっとり感など、驚くほど違いが出るはずです。
「モルトパウダーがないから失敗だ」と考えるのではなく、「今日ははちみつ風味のバゲットにしてみよう」とポジティブに捉えることで、パン作りはもっと自由で楽しいものになります。家庭製パンの良さは、この自由度にこそあるのです。
メモ:
代用品を使う時は、必ずメモを残しておきましょう。「はちみつ〇〇gで作成。焼き色は良いが少し焦げやすい」などと記録しておくと、次回の調整にとても役立ちます。
モルトパウダーは代用でも美味しいパンが焼ける!自分好みの味を見つけよう

モルトパウダーはパン作りにおいて非常に優秀な材料ですが、必ずしもなければパンが焼けないというわけではありません。役割である「酵素による分解」と「糖分の補給」さえ理解していれば、キッチンにある身近な材料で十分に代用が可能です。
モルトシロップがあればベストですが、はちみつを使えばしっとりと風味豊かに、砂糖を使えば手軽に安定した発酵を得ることができます。さらに、あえて代用品を使わずに長時間発酵させることで、小麦本来の味を引き出すことも可能です。
「代用」は単なる妥協ではありません。それぞれの素材が持つ個性を活かして、オリジナルの美味しいパンを焼くチャンスでもあります。ぜひ、今日から家の材料を賢く使って、あなただけの絶品パンを焼き上げてくださいね。



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