パン作りを趣味にしていると、いつかは憧れるのが「カンパーニュ」などのハード系パンではないでしょうか。お店で売られているような、表面にきれいな縞模様がついた丸いパン。あの独特の模様と形を作るために欠かせない道具が、今回ご紹介する「発酵かご」です。別名「バヌトン」とも呼ばれ、パン作り愛好家の間ではステップアップのための大切なアイテムとして知られています。
「発酵かごを使ってみたいけれど、使い方が難しそう」「手入れが大変でカビさせてしまうのが怖い」と二の足を踏んでいる方もいるかもしれません。しかし、正しい知識とちょっとしたコツさえ掴めば、発酵かごは決して難しい道具ではありません。これを使うだけで、いつものパンが驚くほど本格的な仕上がりに変わります。
発酵かご(バヌトン)を使うメリットと効果

発酵かごを使うことは、単に見た目を良くするためだけではありません。実は、パンの食感や発酵の工程においても重要な役割を果たしています。ここでは、発酵かごを使うことで得られる具体的なメリットについて詳しく解説していきます。道具の意味を知ることで、パン作りがより楽しくなるはずです。
お店のような美しい縞模様と形がつくれる
発酵かごを使う最大のメリットは、やはりあの美しい縞模様(しまもよう)がつくことでしょう。カンパーニュなどのハードパンの表面に見られる渦巻き状のラインは、発酵かごの内側の溝に生地が入り込むことで生まれます。この模様があるだけで、家庭で焼いたパンが一気にプロのような本格的な顔立ちになります。
また、模様だけでなく、パンの「形」をきれいに整える効果もあります。発酵かごに入れて最終発酵させることで、生地が均一に膨らみ、左右対称の美しいフォルムに仕上がります。焼き上がったパンを食卓に出したとき、その美しい見た目に家族や友人から歓声が上がること間違いなしです。視覚的なおいしさも、パン作りの醍醐味の一つと言えるでしょう。
パン生地の水分調節をしてくれる
特に伝統的な「籐(とう)」で作られた発酵かごには、パン生地の水分を調節する優れた機能があります。ハード系のパン生地は水分量が多く、ベタつきやすいのが特徴ですが、籐製のかごに入れることで、籐が生地表面の余分な水分を適度に吸収してくれます。これは金属やプラスチックのボウルでは得られない効果です。
水分が適度に抜けることで、生地の表面(クラスト)が少し乾燥し、焼き上がったときにパリッとした心地よい食感が生まれます。また、表面のベタつきが抑えられるため、焼く直前に「クープ」と呼ばれる切り込みを入れる際も、ナイフが引っかかりにくくスムーズに入れられるようになります。おいしいハードパンを目指すなら、この水分調整の効果は見逃せません。
柔らかい生地でも高さを出して発酵できる
カンパーニュなどの高加水パン(水分量の多いパン)は、生地が柔らかくてデリケートです。そのまま台の上に置いて発酵させると、自分の重みでだらんと横に広がってしまい、平べったい焼き上がりになりがちです。ふっくらと高さのあるパンを焼くためには、横に広がるのを防ぎながら、上へと膨らむ力をサポートする必要があります。
発酵かごは、この「横広がり」を物理的に防ぐ壁の役割を果たします。かごの中に生地を収めることで、柔らかい生地でも形を崩さずに発酵させることができ、結果としてボリュームのある、高さの出たパンが焼き上がります。きれいな断面(クラム)の気泡を作るためにも、立体的に発酵させることは非常に重要です。
本格的な見た目でモチベーションアップ
機能的なメリットも大切ですが、精神的な効果も無視できません。発酵かごを棚から取り出し、粉を振り、生地を優しく入れる。この一連の作業自体が、パン作りをする人にとっては特別な儀式のような楽しさがあります。「今日は本格的なパンを焼くぞ」というスイッチが入り、モチベーションが自然と高まります。
焼き上がったパンにきれいな模様がついているのを見たときの達成感は、何物にも代えがたいものです。「次はもっときれいに焼きたい」「違う粉の配合を試してみたい」という意欲が湧き、パン作りのスキルアップにもつながります。道具にこだわることは、趣味を長く楽しむための大切な要素の一つです。お気に入りの発酵かごを持つことは、あなたのパン作りライフをより豊かにしてくれるでしょう。
初心者でも迷わない!発酵かごの選び方

いざ発酵かごを買おうと思っても、サイズや素材、形など種類が豊富でどれを選べばいいか迷ってしまうものです。自分の作りたいパンに合わないものを選んでしまうと、使い勝手が悪く、結局使わなくなってしまうこともあります。ここでは、失敗しない選び方のポイントを3つに絞ってご紹介します。
サイズ選びの基本は「粉の量」で決める
発酵かごを選ぶ際に最も重要なのが「サイズ」です。サイズ選びを間違えると、生地があふれてしまったり、逆にかごに対して生地が小さすぎてきれいな形にならなかったりします。一般的に、発酵かごのサイズは「使用する粉(強力粉など)の量」を目安に選びます。メーカーによって多少の差はありますが、以下の目安を参考にしてください。
【丸型発酵かごのサイズと粉量の目安】
・直径13cm前後:粉量 100g〜150g(小さめの食べきりサイズ)
・直径19cm前後:粉量 200g〜250g(最も一般的で使いやすいサイズ)
・直径21cm以上:粉量 300g以上(パーティ用など大きなパン向け)
初めて購入するのであれば、まずは直径19cm(18.5cm〜19.5cm)程度のものをおすすめします。これは家庭用のオーブンでも無理なく焼けるサイズであり、レシピ本などでもよく使われる標準的な大きさです。まずはこのサイズを一つ持ち、慣れてきたら他のサイズを検討すると良いでしょう。
丸型と小判型(オーバル)の使い分け
発酵かごの形状には、大きく分けて「丸型(ブール型)」と「小判型(オーバル型)」の2種類があります。丸型は最もポピュラーな形で、先ほど説明したような丸いカンパーニュを作るのに適しています。放射状や十字のクープ(切り込み)を入れるデザインが映えるのが特徴です。
一方、小判型は楕円形をしており、細長い形状のパンが作れます。小判型のメリットは、スライスしたときに均一な大きさの断面が得られやすいことや、サンドイッチ用のパンとして使いやすいことです。また、オーブンの天板に2つ並べて焼きやすいという利点もあります。最初は汎用性の高い丸型がおすすめですが、サンドイッチをよく作る方や、スタイリッシュな見た目を好む方は小判型を選んでも良いでしょう。
素材による違い(籐製・プラスチック)
発酵かごの素材には、伝統的な「籐(とう/ラタン)」製と、扱いやすい「プラスチック」製(またはポリプロピレン製など)が主流です。それぞれにメリットとデメリットがありますので、自分の性格やパン作りの頻度に合わせて選ぶことが大切です。
プラスチック製は、何といっても「洗える」のが最大のメリットです。洗剤を使って水洗いできるため衛生的で、カビの心配が少ないのが特徴です。ただし、吸水性がないため、籐製に比べると表面のパリッと感は劣ることがあります。また、生地がくっつきやすい場合があるため、粉を多めに振るなどの工夫が必要です。
結局、初心者にはどっちがおすすめ?
結論として、初心者が最初に買うならどちらが良いのでしょうか。もしあなたが、「多少の手間がかかっても、本格的なお店のようなパンを焼きたい」というこだわり派なら、迷わず籐製の発酵かごをおすすめします。やはり天然素材ならではの仕上がりと、道具を育てる楽しみは格別だからです。
一方で、「ズボラで管理ができるか不安」「カビさせてしまいそうで怖い」「たまにしか焼かない」という方は、プラスチック製から始めてみるのが無難です。まずは発酵かごを使った成形の楽しさを体験し、パン作りの頻度が増えてきたら籐製に挑戦するというステップアップも賢い選択です。ご自身のライフスタイルに合わせて、無理のない方を選んでみてください。
失敗しない発酵かごの正しい使い方

発酵かごを手に入れたら、早速使ってみましょう。しかし、ただ生地を入れれば良いというわけではありません。特に「生地がくっついて取れない」という失敗は初心者によくあるトラブルです。ここでは、生地をかごにくっつけず、きれいな模様をつけて焼き上げるための正しい使い方をステップごとに解説します。
使い始めの準備と粉の振り方
新品の籐製発酵かごを使う場合、最初は素材が乾燥しており、生地がくっつきやすい状態です。使い始めは、通常よりも多めに粉を振るか、あるいは薄く植物油を塗ってから粉を振るなどの「下処理」を行うと安心です(メーカーの指示に従ってください)。
日常的に使う際のポイントは、とにかく「粉をまんべんなく、しっかりと振る」ことです。使用する粉は強力粉でも構いませんが、ライ麦粉や米粉(上新粉)を使うのが特におすすめです。これらは粒子がサラサラとしていて水分を吸いにくいため、強力粉よりも高い「くっつき防止効果」を発揮します。茶こしなどを使って、かごの溝の隅々まで粉が行き渡るように丁寧に振ってください。
粉の振り方と生地の入れ方
かごの準備ができたら、成形した生地を入れます。ここで注意したいのは、「生地の向き」です。パン生地は通常、表面がつるんとしたきれいな面と、生地の端を集めて閉じた「閉じ目」のある面があります。発酵かごに入れるときは、きれいな面を下(かごの底側)にして、閉じ目を上に向けて入れます。
逆に入れてしまうと、ひっくり返して出したときに閉じ目が表に出てしまい、見た目が悪くなってしまいます。生地を入れたら、上から軽く押さえてかごに馴染ませ、乾燥を防ぐために濡れ布巾やシャワーキャップなどをかぶせて二次発酵させます。発酵中も生地は膨らみますので、かごの縁ぎりぎりまで発酵させすぎないよう、見極めが大切です。
発酵後の生地の取り出し方
二次発酵が完了したら、いよいよ生地を取り出します。ここが一番緊張する瞬間です。まず、オーブンシートを敷いた天板(または取り板)を用意します。発酵かごの上にオーブンシートと板をかぶせ、かごと板を一緒に持って、素早く「くるっ」とひっくり返します。
基本的には重力で生地が落ちてきますが、もし落ちてこない場合は、かごを少し持ち上げて斜めにしたり、優しくトントンと叩いたりしてきっかけを作ります。無理に引っ張るとせっかくの形が崩れてしまうので焦りは禁物です。きれいに粉を振っていれば、「ポコッ」という感触とともに生地が外れ、美しい縞模様が現れます。この瞬間が発酵かごを使う最大の喜びと言えるでしょう。
カビさせないための手入れと保管方法

発酵かご(特に籐製)を使う上で最も気をつけるべきなのが「カビ」です。せっかくの道具を長く愛用するためには、使用後のお手入れが欠かせません。「洗ってはいけない」とよく言われますが、では具体的にどうすれば良いのでしょうか。ここでは正しいお手入れと保管の方法について解説します。
使用後の基本のお手入れ
籐製の発酵かごは、基本的には水洗いをしません。使用後は、かごに残った粉や小さな生地の欠片をきれいに取り除くことがメンテナンスの基本です。硬めのブラシ(タワシや専用の掃除ブラシ、歯ブラシなど)を使って、溝に入り込んだ粉を丁寧に払い落としてください。
その後、風通しの良い場所でしっかりと乾燥させます。湿気はカビの大敵です。もしオーブンを使った直後であれば、余熱が残っているオーブンの中に入れて乾燥させるのも効果的です(ただし、高温すぎると籐が焦げたり変形したりするので、あくまで「ほんのり温かい」程度の余熱を利用してください)。完全に乾いていることを確認してから収納しましょう。
水洗いはしてもいいの?
「どうしても汚れが気になる」「久しぶりに使うから洗いたい」という場合もあるでしょう。籐製のかごを水洗いすることは絶対に禁止というわけではありませんが、頻繁に行うと籐の劣化を早めたり、乾燥不十分でカビの原因になったりします。
どうしても洗う場合は、洗剤を使わずに水だけでサッと洗い流し、すぐに水気を拭き取ってください。そして、通常よりも時間をかけて徹底的に乾燥させることが重要です。天日干しをすると紫外線で殺菌効果も期待できますが、長時間直射日光に当てすぎると素材が傷むこともあるので注意が必要です。プラスチック製の場合は、中性洗剤を使って普通に洗って大丈夫です。
長期保管するときの注意点
「次はいつ焼くかわからない」というように長期間保管する場合は、特に注意が必要です。わずかでも湿気が残っていると、次に使おうとしたときにカビが生えているという悲しい事態になりかねません。保管する際は、ビニール袋などで密閉するのは避けましょう。湿気がこもりやすくなります。
おすすめは、紙袋に入れるか、そのまま棚の風通しの良い場所に置いておくことです。通気性を確保することで、虫やカビの発生リスクを下げることができます。また、保管場所に乾燥剤(シリカゲルなど)を一緒に入れておくのも良いアイデアです。大切な道具ですので、環境の良い場所で休ませてあげてください。
発酵かごがない時の代用アイデア

「発酵かごに興味はあるけど、まずは家にあるもので試してみたい」「急にカンパーニュを焼きたくなったけど道具がない」という方もいるでしょう。実は、専用の発酵かごがなくても、身近な道具を代用して似たようなパンを焼くことができます。ここでは代表的な代用アイデアをご紹介します。
ザルと布巾を使った方法
最もポピュラーな代用方法は、キッチンにある「ザル」を使うことです。ザルに清潔な布巾(手ぬぐいやさらしのような薄手のものがおすすめ)を敷き、その上からたっぷりと粉を振ります。そこに生地を入れて発酵させれば、丸い形を保ったままパンを作ることができます。
ザルの網目が布越しにうっすらと生地に転写され、発酵かごとは少し違った優しい格子模様がつきます。また、布が余分な水分を吸ってくれるため、プラスチックのボウルなどを使うよりは、籐製のかごに近い効果が期待できます。家にあるザルで手軽に試せるので、初心者の方の最初のステップとして最適です。
ボウルを活用する場合
ザルがない場合は、ボウルやどんぶりでも代用可能です。ザルの時と同様に、ボウルの中に布巾を敷き込み、粉を振って生地を入れます。ボウルは通気性がなく湿気が逃げないため、布巾は必ず乾いた清潔なものを使いましょう。
ボウルを使うメリットは、サイズ展開が豊富で、生地の大きさにぴったりのものを選びやすい点です。ただし、通気性がない分、生地の表面が湿っぽくなりやすいので、粉を少し多めに振ったり、布巾を二重にしたりするなどの工夫をすると、より扱いやすくなります。
100円ショップのアイテム活用
最近では100円ショップでもさまざまなサイズや素材のかごが手に入ります。プラスチック製のメッシュかごや、籐に似た素材で編まれたインテリア用のかごなどを代用品として活用するのも一つの手です。
これらの代用品でも、十分に「丸くて高さのあるパン」を焼く練習になります。まずは代用品で何回か焼いてみて、「やっぱりあの縞模様が欲しい!」「もっと本格的に焼きたい!」と思ったら、専用の発酵かごを購入するという流れもおすすめです。
まとめ:発酵かごを活用して理想のパンを焼こう

今回は、パン作りをより本格的に楽しむためのアイテム「発酵かご(バヌトン)」について、その魅力や選び方、使い方をご紹介しました。発酵かごを使うことで、見た目の美しさだけでなく、外はパリッと中はふっくらとした理想的なハードパンに近づくことができます。
手入れが難しそうに感じる籐製のかごも、「洗わずに乾燥させる」という基本さえ守れば、長く付き合える愛着のある道具になります。まずは粉の量に合わせたサイズを選び、ライ麦粉などでしっかりとくっつき対策をして挑戦してみてください。
お店で見るような美しいカンパーニュが自分の家のオーブンから出てきたときの感動は、きっと忘れられない体験になるはずです。ぜひ発酵かごを取り入れて、あなたのパン作りライフをさらに充実させてくださいね。




コメント