ハードパン作りに挑戦しようと思ってレシピを見たとき、「リスドォル」という材料名を目にして戸惑ったことはありませんか。スーパーのパン作りコーナーでは見かけないことも多く、手元にある強力粉だけで作れないものかと考える方は非常に多いです。リスドォルはフランスパン専用粉として非常に有名ですが、実は家庭にある一般的な小麦粉を組み合わせることで、その特徴に近い状態を作り出すことができます。
この記事では、リスドォルがない時でも本格的なハードパンを焼くための代用方法について詳しく解説します。強力粉と薄力粉を混ぜる際の最適な割合や、よりリスドォルの風味に近づけるためのちょっとしたコツ、そして代用粉を使用する際の注意点まで、初心者の方にも分かりやすくお伝えします。手軽な代用テクニックを身につけて、おうちでのパン作りをもっと自由に楽しみましょう。
リスドォルの代用に必要な基礎知識:準強力粉の特徴を知ろう

パン作りのレシピで指定されることの多い「リスドォル」ですが、代用を成功させるためには、まずこの粉がどのような性質を持っているのかを知ることが大切です。リスドォルは単なる強力粉とは異なり、独特の食感や風味を生み出すための特徴を持っています。
ここでは、リスドォルが分類される「準強力粉」という種類の粉について、そしてなぜそれがハードパン作りに適しているのかを深掘りしていきます。敵を知れば百戦危うからずと言うように、リスドォルの正体を理解することで、より精度の高い代用が可能になります。
リスドォル(準強力粉)と強力粉・薄力粉の決定的な違い
小麦粉は主に含まれているタンパク質(グルテン)の量によって分類されます。私たちが普段よく使う強力粉は、タンパク質含有量が11.5%〜13%程度と最も多く、弾力の強いもちもちとしたパンを作るのに適しています。一方で、ケーキやクッキーに使われる薄力粉はタンパク質が6.5%〜9.0%程度と少なく、サクサクとした軽い食感を生み出します。
リスドォルなどの「準強力粉」は、まさにこの中間に位置する小麦粉です。タンパク質含有量は10%〜12%程度が一般的です。強力粉ほどの強い弾力はなく、薄力粉ほど弱くもない、ほどよいグルテンの強さを持っています。この絶妙なバランスが、フランスパン特有の「外はパリッ、中はさっくり」とした食感を生み出すのです。
また、リスドォルは単にタンパク質量が違うだけではありません。ハードパン作りにおいて重要な役割を果たす「灰分(かいぶん)」の量も調整されています。灰分とは小麦の外皮に近い部分に含まれるミネラルのことで、これが適度に含まれていることで、パンの香ばしい風味や深い味わいが引き出されます。
なぜフランスパン作りにはリスドォルが選ばれるのか
多くのフランスパンレシピでリスドォルが指定されているのには、明確な理由があります。それは、リスドォルが日本の製粉会社によって「日本人の好みに合う美味しいフランスパン」を作るために開発された粉だからです。伝統的なフランスパンの製法に適したグルテンの質と量を持ち合わせているため、プロのベーカリーでも長年愛用されています。
特に重要なのが「生地の伸びやすさ」です。バゲットなどの成形をする際、生地には適度な伸展性(伸びる性質)が求められます。強力粉で作った生地は弾力が強すぎて縮もうとする力が働きますが、リスドォルを使用した生地は素直に伸びてくれるため、きれいな棒状に成形しやすく、クープ(切れ込み)も開きやすくなります。
さらに、リスドォルにはあらかじめ「粉末麦芽(モルト)」が含まれていることも大きな特徴です。モルトはイーストの栄養となって発酵を助けるだけでなく、焼き上がりのクラスト(皮)に美味しそうな黄金色をつける役割も果たします。このモルトが含まれているおかげで、砂糖を使わないフランスパンでもきれいな焼き色がつくのです。
代用する時に意識したいタンパク質含有量の目安
リスドォルを他の粉で代用する場合、最も意識すべき数値は「タンパク質含有量」です。リスドォルのタンパク質含有量は約10.7%と言われています。つまり、手持ちの強力粉と薄力粉をブレンドして、この数値に近づけることができれば、理論上はリスドォルに近い生地を作ることができるわけです。
例えば、手元にある強力粉のタンパク質が12%、薄力粉が8%だと仮定します。これらを一定の割合で混ぜ合わせることで、目標とする10.7%前後のタンパク質量を目指します。この計算を厳密に行う必要はありませんが、「強力粉の強さを薄力粉で少し弱める」というイメージを持つことが大切です。
ただし、単純にタンパク質量を合わせるだけでは再現できない要素もあります。それが先ほど触れた「灰分」や「モルト」の存在です。代用粉で作る場合は、これらの要素が不足しがちになるため、風味や焼き色がやや淡白になる傾向があります。その点を理解した上で、配合を調整したり副材料を足したりする工夫が必要になってきます。
手軽にリスドォルを代用!強力粉と薄力粉のブレンド黄金比

リスドォルの特徴がわかったところで、いよいよ具体的な代用方法について見ていきましょう。最もポピュラーで失敗が少ないのが、強力粉と薄力粉を混ぜて使う方法です。わざわざ準強力粉を買いに行かなくても、キッチンにあるいつもの粉で代用できるのがこの方法の最大のメリットです。
ここでは、作りたいパンの食感に合わせた配合の黄金比や、計量する際のポイントについて詳しく解説します。ご自身の好みに合わせて比率を変えることで、理想の食感を探求するのもパン作りの醍醐味の一つです。
基本の配合は「強力粉8:薄力粉2」から始めよう
リスドォルの代用として、最も基本的で失敗が少ない配合比率は「強力粉8:薄力粉2」です。初めて代用粉でハードパンを作る場合は、まずこの割合から試してみることを強くおすすめします。このバランスは、生地の扱いやすさと食感の良さを両立しやすい黄金比と言われています。
この配合では、強力粉のグルテンによる骨格形成能力を維持しつつ、薄力粉が適度にグルテンを弱めて歯切れの良さをプラスしてくれます。生地がベタつきすぎたり、ダレてしまったりするリスクも比較的低いため、パン作り初心者の方でも安心して扱うことができるでしょう。
【基本のブレンド例】
粉の総量が200gの場合:
・強力粉:160g
・薄力粉:40g
粉の総量が250gの場合:
・強力粉:200g
・薄力粉:50g
この割合で作ると、リスドォル単体で作るよりも若干もちもち感が強くなる傾向がありますが、十分に美味しいハードパンが焼き上がります。まずはこの「8:2」を基準にして、何度か焼いてみてから微調整を行うのが上達への近道です。
バリっとした食感を目指すなら「7:3」がおすすめ
よりフランスパンらしい、クラスト(皮)がバリっとしていて、クラム(中身)が軽い食感を好む場合は、薄力粉の割合を増やして「強力粉7:薄力粉3」の配合に挑戦してみてください。薄力粉が増えることでグルテンの形成がさらに抑えられ、より歯切れの良い、サクッとした食感に近づきます。
ただし、薄力粉の割合が増えると、その分だけ生地のつながる力(グルテン)が弱くなります。これは、発酵中に発生したガスを保持する力が弱まることを意味します。そのため、成形時に生地が切れやすかったり、発酵中に生地が横に広がりやすかったり(ダレやすかったり)するため、扱いには少し慣れが必要です。
また、水分量の調整もシビアになります。薄力粉は強力粉に比べて吸水率が低いため、いつものレシピ通りの水を入れると生地がベタベタになってしまうことがあります。「7:3」の配合にする場合は、水を少し控えめに入れるか、様子を見ながら少しずつ足していくようにしましょう。
もっちり感を残したい場合の調整テクニック
日本人は「もっちり」とした食感を好む傾向があるため、あえてリスドォルそのものよりも、もちもち感を強調したパンを作りたい場合もあるでしょう。そんな時は、薄力粉の割合を減らして「強力粉9:薄力粉1」にするか、あるいは思い切って「強力粉100%」で作るという選択肢もあります。
「強力粉9:薄力粉1」の配合は、食パンに近いようなふんわりとした柔らかさを残しつつ、少しだけ軽さを出したい時に適しています。ハードパンの見た目を持ちながら、子供やお年寄りでも食べやすいソフトな食感に仕上がります。
また、使用する強力粉の銘柄によっても食感は変わります。国産小麦(「春よ恋」や「キタノカオリ」など)は、輸入小麦に比べてモチモチ感が強い特徴があります。代用ブレンドを作る際に国産強力粉を使用すると、薄力粉を混ぜても独特の強い引きや甘みが残り、日本人好みの美味しいパンになります。
実際に計量する時のポイントと混ぜ方のコツ
強力粉と薄力粉をブレンドする際、ただボウルに入れるだけではなく、ちょっとしたひと手間を加えることで仕上がりが均一になります。最も重要なのは、「2種類の粉を事前によく混ぜ合わせておくこと」です。
計量した強力粉と薄力粉をボウルに入れたら、水やイーストを入れる前に、ホイッパー(泡立て器)を使って粉同士を空気を含ませるようにシャカシャカと混ぜ合わせます。これにより、粉の偏りがなくなり、水分を加えた時にムラなく吸水させることができます。
メモ:
粉を混ぜ合わせる作業は「ふるいにかける」ことでも代用できますが、ホイッパーで混ぜるだけでも十分効果があります。特に薄力粉はダマになりやすいため、この工程を飛ばさずに行うことが大切です。
また、計量はデジタルのスケールを使って1g単位まで正確に行いましょう。パン作りは化学反応の要素が強いため、粉の比率が少し変わるだけでも生地の状態に影響します。特に薄力粉の割合を増やす場合は、生地がデリケートになるため正確な計量が成功のポイントとなります。
市販の小麦粉でリスドォルの代用はできる?おすすめの銘柄

強力粉と薄力粉をブレンドする方法以外にも、リスドォルの代わりとして使える市販の小麦粉が存在します。スーパーや輸入食品店をよく探してみると、意外なものが準強力粉の代用品として活躍してくれることがあります。
ここでは、ブレンドの手間を省きたい方や、より本格的な風味を求めたい方に向けて、市販されている粉の中からリスドォルの代用として使えるものを紹介します。それぞれの粉の特徴を理解して使い分けることで、パン作りの幅がさらに広がります。
スーパーで買える「中力粉(うどん粉)」は使えるのか
スーパーの粉コーナーで強力粉と薄力粉の間に並んでいることの多い「中力粉」。主にうどんやお好み焼き用として販売されていますが、実はこれもタンパク質含有量が9%〜10.5%程度と、準強力粉に近い数値を持っています。そのため、中力粉をそのままリスドォルの代用として使うことが可能です。
ただし、うどん用の中力粉は、麺にした時の「コシ」や「つるみ」を重視した小麦が使われていることが多く、パン用の準強力粉とは風味が異なります。うどん粉でパンを焼くと、もっちりとした弾力のある食感になり、和風の惣菜パンや素朴な食事パンにはよく合います。
もし手元に中力粉が余っているなら、一度パン作りに使ってみるのも面白い実験になります。ただし、リスドォルで作るバゲットのような「パリッ」としたクリスピーな食感を完全再現するのは難しく、やや重めの仕上がりになることを覚えておいてください。
輸入食品店で見かける「オールパーパスフラワー」の活用
カルディやコストコなどの輸入食品店に行くと、「All Purpose Flour(オールパーパスフラワー)」という小麦粉を見かけることがあります。これは欧米の家庭で一般的に使われている万能小麦粉で、日本でいうところの「中力粉」に相当します。タンパク質含有量は10%〜11%程度のものが多く、まさに準強力粉の代用として優秀な候補です。
海外のレシピでは、このオールパーパスフラワーを使ってパンやケーキ、クッキーまで何でも作ります。そのため、この粉を使ってハードパンを焼くと、現地の家庭で焼かれているような素朴で力強い味わいのパンが出来上がります。
注意点としては、海外製の粉は日本製に比べて粉の粒子が粗かったり、灰分が高かったりすることがあります。水分の吸い方も日本の粉とは異なる場合があるため、初めて使う際は水を少なめにして、生地の様子を見ながら調整することをおすすめします。
パン用全粒粉を少し混ぜて風味を近づける裏技
強力粉と薄力粉のブレンド、あるいは中力粉を使用する場合、どうしても不足してしまうのが「小麦の香り(灰分)」です。リスドォル特有の香ばしさを再現したい場合は、ブレンドした粉の5%〜10%程度を「パン用全粒粉」に置き換えるという方法があります。
全粒粉は小麦の表皮や胚芽を含んでいるため、ミネラル分や香りが非常に豊かです。これを少量混ぜることで、精製された白い粉だけでは出せない奥深い味わいや、ざっくりとした歯切れの良さをプラスすることができます。
【全粒粉入りブレンド例】
粉の総量が200gの場合:
・強力粉:150g
・薄力粉:40g
・全粒粉:10g
全粒粉を入れすぎると生地が膨らみにくくなったり、食感がボソボソしたりするので、あくまで「隠し味」程度に留めるのがコツです。このひと工夫で、代用粉とは思えないほど風味豊かなハードパンに仕上がります。
他の製パン用準強力粉(Type ERなど)との比較
製菓製パン材料の専門店や通販サイトでは、リスドォル以外にも様々な「準強力粉」が販売されています。代表的なものに「Type ER(タイプイーアール)」「トラディショナル」「メゾンカイザートラディショナル」などがあります。
これらの粉は、リスドォルと同じくフランスパン用に開発された粉ですが、それぞれに個性があります。例えば、「Type ER」は北海道産の小麦を使用した準強力粉で、国産小麦特有のモチモチ感と甘みが強く、日本人の口に合いやすいのが特徴です。リスドォルがない場合、これらの他の準強力粉があれば、もちろんそのまま代用可能です。
むしろ、粉を変えることで「こちらの粉の方が好きかも!」という新しい発見があるかもしれません。リスドォルはあくまで一つの基準(スタンダード)であり、他の準強力粉もそれぞれ素晴らしいポテンシャルを持っています。代用をきっかけに、色々な準強力粉を試してみるのもパン作りの楽しみ方の一つです。
リスドォル代用時の仕上がりを格上げするプラスアルファの工夫

粉の配合を工夫するだけでも十分美味しいパンは焼けますが、さらに一歩進んで、お店のようなクオリティを目指したい方へのアドバイスです。リスドォルにはあらかじめ含まれている成分を、代用粉を使う際に意図的に添加することで、見た目や扱いやすさを劇的に向上させることができます。
ここでは、少し専門的な材料や身近な食材を使って、代用粉の弱点を補うテクニックを紹介します。これらを知っておくと、パン作りのレベルがぐっと上がります。
モルトパウダーを使って焼き色と香りを補う方法
記事の前半で触れた通り、リスドォルには「モルト(麦芽)」が含まれています。強力粉と薄力粉のブレンドで代用する場合、このモルトが含まれていないため、どうしても焼き色が薄くなったり、風味が淡白になったりします。そこで活躍するのが、製パン材料店で手に入る「モルトパウダー」や「モルトシロップ」です。
モルトには酵素が含まれており、生地中のデンプンを糖に分解する働きがあります。この糖がイーストの栄養となって発酵を助けるとともに、焼成時に熱と反応してきれいなキツネ色の焼き色(メイラード反応)を生み出します。
使用量はごくわずかで、粉の総量に対して0.3%〜0.5%程度です(粉200gに対して0.6g〜1g)。ほんの少し入れるだけで、焼き上がりの香ばしさと色が格段に良くなります。もしモルトが手に入らない場合は、砂糖やハチミツを少量(粉の2〜3%程度)加えることで、焼き色と発酵を助ける代わりとすることもできます。
レモン汁やビタミンCで生地のダレを防ぐテクニック
薄力粉を混ぜた代用生地や、国産小麦を使用した生地は、どうしてもグルテンが緩みやすく、発酵中にダレて平べったくなりやすい傾向があります。これを防ぐためにプロが使っているのが「ビタミンC」です。
ビタミンC(アスコルビン酸)には、グルテンの網目構造を引き締めて強化する働きがあります。実はリスドォルなどの市販のパン用粉にも、品質改良剤として微量のビタミンCが添加されていることが多いのです。
家庭でこれを再現する場合、数滴のレモン汁を仕込み水に混ぜるという裏技があります。レモン汁に含まれるビタミンCが生地を引き締め、ダレにくくしてくれます。また、薬局などで売っている粉末のビタミンCをごく微量水に溶かして使う方法もありますが、入れすぎると生地が硬くなりすぎるので注意が必要です。
加水率(水の量)の調整で生地の扱いやすさが変わる
リスドォル用のレシピを代用粉で作る場合、最も注意が必要なのが「水加減(加水率)」です。一般的に、タンパク質含有量が少ない粉ほど水を吸う力が弱くなります。つまり、リスドォルよりもタンパク質が少ないブレンド粉(特に薄力粉多めの場合)に、レシピ通りの水を入れると、生地がドロドロになってしまうことがあります。
代用粉を使う場合は、レシピの水分量を最初は2〜3%減らして入れてみてください。こねている最中に生地が硬いと感じたら、後から水を少しずつ足して調整する「水足し」を行うのが失敗しないコツです。
発酵時間を調整して小麦の甘みを引き出すコツ
代用粉で作るパンは、リスドォルに比べて熟成された風味が弱くなりがちです。これを補うためには、発酵時間を上手くコントロールすることが有効です。特におすすめなのが「オーバーナイト法(低温長時間発酵)」です。
生地をこね上げた後、すぐに温かい場所で発酵させるのではなく、冷蔵庫の野菜室などで一晩(8時間〜12時間以上)かけてゆっくりと発酵させます。低温で時間をかけることで、酵素がじっくりと働いて粉の甘みを引き出し、水和(粉と水が馴染むこと)が進んでもっちりとした美味しい生地になります。
強力粉と薄力粉を混ぜただけのシンプルな生地でも、このオーバーナイト法を取り入れるだけで、お店のような複雑で深い味わいのパンに変化します。忙しい人にとっても、夜に生地を作って朝に焼けるというメリットがあるので、ぜひ試してみてください。
代用粉でパン作りをする時の失敗しない注意点と解決策

最後に、代用粉を使ってパン作りをする際によくあるトラブルと、その解決策をまとめました。初めての挑戦では予期せぬ失敗が起こるものですが、原因と対処法を知っていれば慌てることはありません。
リスドォルを使わなくても美味しいパンを焼くために、ここで紹介するポイントを頭の片隅に置いて作業してみてください。
生地がベタついてまとまらない時の対処法
薄力粉を混ぜた生地は、どうしてもベタつきやすくなります。こねてもこねても手にくっついてまとまらない時は、決して粉を足しすぎないようにしてください。粉を後から大量に足すと、計算された配合バランスが崩れ、焼き上がりのパンがパサパサになってしまいます。
対処法としては、「オートリーズ」という手法を取り入れるのが有効です。粉と水だけを混ぜて、こねずに20分〜30分ほど放置します。この間に勝手にグルテンがつながり始め、生地が水を含んで落ち着いてきます。その後で塩やイーストを加えて本ごねを始めると、驚くほどベタつきが収まり、扱いやすくなります。
クープ(切れ込み)がきれいに開かない原因と対策
バゲットの醍醐味であるクープが開かない(のっぺりしてしまう)原因の一つは、グルテンの力が弱すぎて、膨らむ力に耐えられずに生地が伸びきってしまうことにあります。代用粉で薄力粉の割合が多い場合に起こりやすい現象です。
対策としては、成形時になるべく生地を触りすぎず、ガスを抜きすぎないように優しく扱うことが大切です。また、最終発酵(二次発酵)を少し早めに切り上げることも効果的です。発酵させすぎると(過発酵)、オーブンに入れた時の伸びしろ(窯伸び)が残っておらず、クープが開きません。「少し若いかな?」と思うくらいでオーブンに入れるのがコツです。
焼き上がりの皮(クラスト)が厚くなりすぎる場合
強力粉の割合が多い配合で作ると、リスドォルで作るよりも皮が厚く、硬くなりすぎることがあります。これは強力粉のグルテンが強いため、噛みごたえが出過ぎてしまうからです。
もし皮が厚すぎると感じる場合は、焼成温度を少し高くして、焼成時間を短くしてみてください。高温短時間で焼き上げることで、水分が飛びすぎるのを防ぎ、皮を薄くパリッと仕上げることができます。また、オーブンにスチーム機能がない場合は、霧吹きをたっぷりかけることでクラストの質感が向上します。
内相(クラム)の気泡が小さくなってしまう時の改善点
フランスパンのようなボコボコとした大きな気泡(気孔)を作りたいのに、食パンのように目が詰まってしまうことがあります。これは、こね過ぎが原因であることが多いです。強力粉主体の生地はよくこねるのが基本ですが、ハードパンの場合は「こねすぎない」ことが重要です。
グルテン膜ができるまでしっかりこねるのではなく、粉気がなくなって表面が少し滑らかになれば十分です。あえてグルテンを弱めに仕上げることで、焼いた時に気泡同士が合体しやすくなり、大小さまざまな気泡が入った軽い食感のクラムになります。
リスドォルの代用でも本格的なパン作りは楽しめます

リスドォルという専用の粉が手元になくても、強力粉と薄力粉を組み合わせたり、市販の中力粉を活用したりすることで、十分に美味しいハードパンを焼くことができます。基本の割合である「強力粉8:薄力粉2」をスタート地点として、パリッとした食感が好みなら薄力粉を増やし、もちもち感を残したいなら強力粉を増やすなど、自分好みの配合を見つける楽しさがあります。
また、モルトパウダーやレモン汁、全粒粉といったプラスアルファの材料を使いこなすことで、代用粉特有の弱点を補い、専門店のような風味や見た目に近づけることも可能です。大切なのは、粉の性質を理解し、水分量や発酵時間を柔軟に調整することです。
代用することは決して妥協ではありません。手元にある材料を工夫して、理想のパンを焼き上げるプロセスこそが、ホームベーキングの最大の魅力です。ぜひこの記事を参考に、あなただけのオリジナルの配合で、焼きたての美味しいパン作りを楽しんでください。



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