パン作りのレシピを見ていると、材料の欄に「ショートニング」という名前をよく見かけます。「バターじゃダメなの?」「どんな効果があるの?」と疑問に思ったことはありませんか。ショートニングは、パンの食感を劇的に変えることができる便利な油脂です。無味無臭で素材の味を邪魔しないため、さまざまなパンに使われています。
しかし、普段の料理ではあまり馴染みがないため、使い方や保存方法に戸惑う方も多いかもしれません。この記事では、パン作りにおけるショートニングの役割や具体的な使い方、バターとの違いについて詳しくお伝えします。正しい知識を身につけて、理想のパン作りを目指しましょう。
パン作りにおけるショートニングの使い方と特徴

ショートニングは、植物性油脂を原料として作られた、白くて無味無臭の固形油脂です。もともとはラード(豚脂)の代用品として開発されましたが、現在ではパン作りやお菓子作りに欠かせない材料の一つとなっています。まずは、ショートニングをパンに使うことでどのようなメリットがあるのか、具体的な使い方とともに見ていきましょう。
ショートニングを入れるとパンはどうなる?
ショートニングをパン生地に混ぜ込む最大のメリットは、焼き上がりの食感にあります。ショートニングには、小麦粉に含まれるグルテンの粘り気を適度に断ち切る性質があり、これを「ショートニング性」と呼びます。この働きによって、パンのクラスト(外側の皮)はサクサクと歯切れが良く、クラム(中の生地)はふんわりと軽い食感に仕上がります。
また、バターと違って水分を含まない油脂100%であるため、生地の伸びが非常に良くなります。これにより、ボリュームのあるパンが焼き上がりやすくなるのも特徴です。さらに、冷めても固くなりにくいという性質も持っています。サンドイッチ用の食パンや、ふんわり感を長持ちさせたい菓子パンなどを作る際には、まさにうってつけの材料と言えるでしょう。
いつのタイミングで入れる?
パン作りにおいて油脂を入れるタイミングは、生地の仕上がりを左右する重要なポイントです。ショートニングも基本的にはバターと同様に、生地がある程度まとまってから加えるのが一般的です。最初から粉類と一緒に混ぜてしまうと、油脂が小麦粉の粒子をコーティングしてしまい、グルテンの形成を阻害してしまうからです。
手ごねの場合は、粉と水分が混ざり合い、少しグルテンができ始めた段階で生地に練り込みます。最初はヌルヌルとして混ざりにくいように感じるかもしれませんが、捏ね続けることで生地に馴染み、表面がつるんとしてきます。ホームベーカリーを使用する場合は、具材投入のタイミングではなく、油脂用の投入タイミングや、捏ねの工程の途中で加えると良いでしょう。
正しい計量と扱い方
ショートニングは常温ではクリーム状の固体です。冷蔵庫から出したばかりのバターのようにカチカチに固まることは少なく、柔らかい状態を保っているため、計量しやすいのが魅力です。計量の際は、スプーンやスパチュラを使って必要な分量をすくい取り、デジタルスケールの上に置いた容器に移して重さを測ります。
扱う際の注意点として、手がベタつきやすいことが挙げられます。計量や投入の際は、なるべく手で直接触れずに道具を使うと作業がスムーズです。また、計量カップなどで体積(cc)を測るよりも、重さ(g)で測る方が正確です。パン作りは分量の正確さが成功の鍵となりますので、必ずスケールを使って1g単位までしっかりと計量するようにしましょう。
バターやマーガリンとの違いを比較

パン作りで使われる油脂には、ショートニングの他にもバターやマーガリンがあります。「どれを使っても同じでしょ?」と思うかもしれませんが、実はそれぞれに明確な違いがあります。これらの油脂を使い分けることで、パンの風味や食感を自在にコントロールできるようになります。ここでは、それぞれの特徴を比較してみましょう。
バターとの違い
最大の違いは「風味」と「水分量」です。バターは乳脂肪分から作られているため、特有の芳醇な香りやコクがあります。また、約16%程度の水分や微量のタンパク質を含んでいるため、焼き上がりのパンはしっとりとした質感になり、美しい焼き色もつきやすくなります。リッチな味わいのブリオッシュやクロワッサンには欠かせません。
一方、ショートニングは無味無臭で、水分もほぼ0%です。そのため、小麦粉やその他の副材料の香りをダイレクトに感じることができます。食感はバターが「しっとり・もちもち」寄りになるのに対し、ショートニングは「サクサク・ふんわり」と軽くなるのが特徴です。あっさりとした食事パンを作りたい時や、素材の味を引き立てたい時にはショートニングが適しています。
マーガリンとの違い
マーガリンは植物性油脂を主原料としている点ではショートニングと似ていますが、バターのように乳製品や香料、食塩、水分などが添加されています。そのため、ショートニングと違って風味や塩気があります。価格がバターよりも手頃で扱いやすいことから、家庭でのパン作りや料理によく利用されます。
パン作りに使用した場合、マーガリンはバターとショートニングの中間のような仕上がりになります。バターほどの強い風味はありませんが、ショートニングよりはコクが出ます。ただし、水分を含んでいるため、ショートニングほど軽い食感を出すのは難しい場合があります。また、商品によって水分量や塩分量が異なるため、レシピによっては調整が必要になることもあります。
どちらを使うべき?
どの油脂を使うべきかは、「どんなパンを作りたいか」によって決まります。バターの香りを楽しみたいリッチなパンや、しっとりとした食感を求めるならバターを選びましょう。逆に、外側をサクッとさせたいフランスパン風のパンや、ふんわりと軽い食パン、あるいはアレルギー対応などで乳製品を使いたくない場合はショートニングが最適です。
もちろん、これらをブレンドして使うことも可能です。例えば「バターの風味も欲しいけれど、食感は軽くしたい」という場合には、バターとショートニングを半々で配合すると、両方の良さを取り入れたパンを作ることができます。自分の好みに合わせて油脂を使い分けるのも、手作りパンならではの楽しみ方の一つです。
ショートニングがない時の代用方法

「レシピにショートニングと書いてあるけれど、家にない!」という経験はありませんか。ショートニングはスーパーで手に入りますが、常備していないご家庭も多いはずです。そんな時でも、身近にある他の油脂で代用してパンを焼くことができます。ただし、仕上がりには多少の違いが出ますので、それぞれの特徴を知っておきましょう。
バターで代用する場合
最も一般的な代用品はバターです。ショートニングと同量をそのまま置き換えて使用できます。バターには水分が含まれているため、厳密には生地の水分バランスがわずかに変わりますが、家庭でのパン作りレベルであれば大きな失敗には繋がりません。ただし、無塩バターを使うか、有塩バターを使うかによって塩分の調整が必要になる場合があります。
仕上がりは、ショートニングを使った時よりも香りが良く、しっとりとした重めの食感になります。サクサク感や軽さは減りますが、風味豊かな美味しいパンになります。特に菓子パンやリッチな配合の生地では、バター代用の方が美味しく感じることも多いでしょう。「あっさり感」よりも「コク」が出ることを理解して使うのがポイントです。
オリーブオイルやサラダ油で代用する場合
液体油脂であるオリーブオイルやサラダ油、太白ごま油なども代用として使えます。これらは植物性油脂なので、ショートニングと同様に乳製品を含みません。分量はショートニングと同量、もしくは少し減らして(9割程度)様子を見ると良いでしょう。液体なので生地に馴染みやすく、手ごねの作業もしやすいのがメリットです。
食感は、固形油脂を使った場合に比べて、少しもっちりとした弾力のある仕上がりになりやすいです。また、オリーブオイルの場合は特有の香りがつくため、フォカッチャやピザ生地などには最適ですが、甘い菓子パンには不向きなこともあります。癖のないサラダ油や太白ごま油なら、比較的どんなパンにも合わせやすいでしょう。
ラードで代用する場合
ショートニングの元々の代用品であるラード(豚脂)も、もちろん使用可能です。実際、プロのレシピではハード系のパンなどにラードを指定していることもあります。ラードはショートニングと同様に油脂100%に近い固形油脂なので、サクサクとした歯切れの良さを出す効果は非常に高いです。
ただし、製品によっては獣臭のような独特の香りを感じることがあります。製菓・製パン用の精製されたラードであれば匂いはほとんど気になりませんが、料理用のものを使う場合は注意が必要です。食感の再現性はショートニングに一番近いので、フランスパンのような皮のパリッとした食感を重視したい場合にはおすすめの代用食材です。
気になる「トランス脂肪酸」と選び方

ショートニングについて調べると、「トランス脂肪酸」という言葉を目にすることがあるかもしれません。「体に悪いのでは?」と心配される方もいらっしゃるでしょう。確かに、かつてショートニングには多くのトランス脂肪酸が含まれていましたが、現在は状況が大きく変わってきています。ここでは、最新の事情と賢い選び方について解説します。
トランス脂肪酸とは?現在の状況
トランス脂肪酸は、植物油を加工して固形にする際などに生成される物質です。摂りすぎると心疾患のリスクを高めると言われており、世界的に低減の取り組みが進んでいます。日本でも食品安全委員会などの指針に基づき、各メーカーが技術開発を行い、ショートニングに含まれるトランス脂肪酸の量は大幅に減少しています。
現在、日本人の平均的な食生活におけるトランス脂肪酸の摂取量は、WHO(世界保健機関)が目標とする基準値を大きく下回っていると言われています。そのため、たまにパン作りでショートニングを使う程度であれば、過度に心配する必要はないという見方が一般的です。しかし、健康への意識が高い方にとっては、やはり気になるポイントかもしれません。
トランス脂肪酸フリー・低減タイプの選び方
安心してパン作りを楽しみたい方のために、現在は「トランス脂肪酸フリー」や「トランス脂肪酸低減」を謳ったショートニングが多く販売されています。これらは、パーム油などの固まりやすい油脂を原料にしたり、特殊な製法(エステル交換技術など)を用いたりすることで、トランス脂肪酸の生成を極限まで抑えています。
購入する際は、製菓材料店の店頭やオンラインショップの商品説明をチェックしてみましょう。「オーガニック」や「ノン水素添加」、「トランスファットフリー」といった表示があるものを選べば安心です。価格は通常のショートニングより少し高くなることがありますが、健康面への配慮と美味しいパン作りを両立させたい方には、ぜひおすすめしたい選択肢です。
正しい保存方法と賞味期限

ショートニングは一度に大量に使うものではないため、保存方法に悩むこともありますよね。バターのように冷蔵庫に入れるべきなのか、常温でいいのか迷うところです。ショートニングの品質を保ち、最後まで安全に使い切るための正しい保存のコツをご紹介します。
基本は常温保存(冷暗所)
ショートニングは、基本的に「常温保存」が可能な油脂です。未開封の状態はもちろん、開封後であっても、直射日光が当たらず、高温多湿にならない「冷暗所」であれば常温で保管できます。これは、ショートニングが水分を含まず、不純物が少ないため、雑菌が繁殖しにくく酸化にも比較的強いからです。
保存の際は、空気に触れないようにすることが最も重要です。使用後は容器の蓋をしっかりと閉めるか、袋入りの場合は空気を抜いて口をきっちりと閉じ、さらに密閉容器や保存袋に入れておくと安心です。キッチンのシンク下などは湿気がこもりやすいので避け、戸棚やパントリーなどの涼しい場所に置くようにしましょう。
夏場や開封後の注意点
基本は常温保存ですが、気温が30度を超えるような真夏の場合は注意が必要です。高温になるとショートニングが溶けて液状化したり、酸化が進みやすくなったりします。夏場だけは冷蔵庫の野菜室などに入れて保管することをおすすめします。ただし、冷蔵庫に入れるとカチカチに固まってしまい、使いにくくなるのが難点です。
冷蔵保存したショートニングを使う際は、計量する少し前に冷蔵庫から出し、常温に戻して柔らかくしてから使うと生地に馴染みやすくなります。また、開封後は賞味期限に関わらず、なるべく早めに使い切るのが理想です。半年以上経過して油っぽい臭いがしたり、色が変色していたりする場合は、使用を控えて新しいものを用意しましょう。
まとめ:ショートニングを使いこなしてパン作りを楽しもう

ショートニングは、パンに「サクサク」「ふんわり」とした軽い食感を与え、ボリュームを出すために欠かせない材料です。バターのような豊かな風味はありませんが、その分、小麦本来の味や副材料の個性を引き立ててくれる名脇役とも言えます。扱いやすく計量も簡単なので、初心者の方でも気軽に取り入れられるのが魅力です。
代用品としてバターやオイルを使うこともできますが、ショートニングならではの仕上がりを知ると、パン作りの幅がぐっと広がります。最近ではトランス脂肪酸を抑えた製品も手に入りやすくなっているので、健康面が気になる方も安心して使用できます。ぜひショートニングの特徴を理解して、毎日のパン作りを楽しんでみてください。



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