「パンを焼こうとしたらバターが足りない!」「サラダ油で代用しても大丈夫?」そんなふうに焦った経験はありませんか。実は、パン作りにおいてサラダ油はバターの立派な代用品になります。ただし、単に置き換えるだけでは食感や風味が変わってしまうことも事実です。
この記事では、サラダ油とバターを代用する際の適切な分量や、それぞれの特徴を生かしたパン作りのコツをわかりやすく解説します。基本をマスターして、アレンジの幅を広げてみましょう。
サラダ油とバターを代用する際の分量と換算方法

パン作りで最も気になるのが「どのくらいの量を使えばいいのか」という点ではないでしょうか。バターとサラダ油は成分が異なるため、基本的には分量の調整が必要です。ここでは失敗しないための換算ルールについて解説します。
基本的な換算比率と計算式
バターをサラダ油で代用する場合、基本的にはバターの重量の80%程度を目安にするのが定説です。これは、バターには約16〜17%の水分が含まれているのに対し、サラダ油はほぼ100%が油脂成分だからです。同じ重さで入れてしまうと、生地が油っぽくなってしまう可能性があります。
【換算の目安】
バター 10g → サラダ油 8g
バター 20g → サラダ油 16g
バター 30g → サラダ油 24g
しかし、家庭で作るパンのレシピでバターが10g〜20g程度であれば、そこまで厳密に計算しなくても同量、もしくは少し減らす程度で大きな失敗にはなりません。まずは「少し少なめに入れる」と覚えておくと安心です。
バターからサラダ油に変えるメリット・デメリット
サラダ油に変える最大のメリットは、パンが冷めてもしっとりとした柔らかさが続くことです。バターは冷えると固まる性質がありますが、サラダ油は常温でも液体のままだからです。また、計量や混ぜ込みが楽で、こねる時間も短縮しやすいという利点があります。
一方でデメリットは、やはり風味の物足りなさです。バター特有のミルクの香りやコクはサラダ油にはありません。また、生地の伸展性(伸びやすさ)がバターほど出ないため、ボリューム(膨らみ)が少し控えめになる傾向があります。
サラダ油からバターに変える場合の注意点
逆に、元々のレシピが「サラダ油」や「オリーブオイル」を指定しているのに、あえてバターを使いたい場合もあるでしょう。このときは、サラダ油の分量を1.2倍〜1.25倍にした量のバターを用意します。
注意したいのは混ぜるタイミングです。サラダ油を使うレシピは、粉と最初から一緒に混ぜることが多いですが、バターにする場合は、生地がある程度まとまってから練り込むのが一般的です。レシピの手順が変わる可能性があることを理解しておきましょう。
正確に計量するためのポイント
サラダ油のような液体油脂を計量するときは、デジタルスケールの上に小さな容器を置き、風袋(ふうたい)引きをしてから注ぐのが最も正確です。大さじや小さじで計る場合は、表面張力で盛り上がると量が変わってしまうため、すりきりを意識してください。
メモ:
計量スプーンを使う場合、大さじ1のサラダ油は約12g〜13gです。バター大さじ1(約12g)と重さは近いですが、液体と固体では誤差が出やすいので、できるだけ重さ(グラム)で計ることをおすすめします。
パン作りにおける油脂の役割と仕上がりの違い

そもそも、なぜパンに油脂を入れるのでしょうか。油脂にはパンをふっくらさせたり、老化(硬くなること)を防いだりする役割があります。ここでは、固形油脂であるバターと液体油脂であるサラダ油が、それぞれパンにどのような影響を与えるかを見ていきましょう。
バターがパンに与える風味と食感
バターは「可塑性(かそせい)」という性質を持っています。これは粘土のように自由に形を変えられる性質のことです。パン生地の中でバターが薄い膜状に広がることで、グルテンの膜を支え、発酵で発生したガスを保持する力が強まります。
そのため、バターを使ったパンは上にふっくらと伸びてボリュームが出やすくなります。焼き上がりは表面がパリッと香ばしく、中はふんわりとした口溶けの良い食感になります。そして何より、芳醇な乳製品の香りが食欲をそそるのが最大の特徴です。
サラダ油が作る軽い食感と特徴
サラダ油には可塑性がないため、生地の中で膜を作る力はバターほど強くありません。その分、グルテンの結びつきを適度に緩める働きをし、さっくりと歯切れの良い、軽い食感に仕上がります。
クラスト(パンの皮)はパリッというよりは、サクッとした薄めの仕上がりになりやすいです。あっさりとしているので、毎日食べても飽きないシンプルなパンや、サンドイッチ用のパンに向いています。
冷めたときの生地の状態の変化
焼き立てのときはどちらも美味しいですが、時間が経つとはっきりとした違いが出ます。バターをたっぷり使ったパンは、冬場など寒い場所に置くと少し生地が締まって固く感じることがあります。これはバターが冷えて固まるためです。
対してサラダ油を使ったパンは、冷めても生地が固くなりにくいのが特徴です。翌日になってもソフトな状態を保ちやすいので、お弁当用のパンや、作り置きするパンにはサラダ油(または液体油脂)が非常に適しています。
老化(パサつき)への影響について
パンの水分が抜けてパサパサになることを「老化」と呼びます。油脂にはこの老化を遅らせる効果がありますが、バターとサラダ油で優劣をつけるのは難しいところです。バターは乳化作用で水分を抱え込みますが、サラダ油は油膜で水分の蒸発を防ぎます。
一般的に、翌日の「しっとり感」に関しては、液体油脂であるサラダ油の方が有利に働くことが多いです。ただし、風味の劣化については、バターの香りが飛んでしまうと寂しいのに対し、サラダ油は元々無臭なので変化を感じにくいという違いがあります。
サラダ油以外にもある!バターの代用品とその特徴

「バターがないならサラダ油」と考えがちですが、実はパン作りにおいてサラダ油以上に優秀な代用オイルがいくつか存在します。作りたいパンのイメージに合わせて使い分けると、代用品とは思えない美味しいパンが焼けます。
オリーブオイルで風味豊かなパンにする
イタリアパンのフォカッチャやチャバタでおなじみのオリーブオイル。これを普通の食パンや丸パンに使うと、フルーティーな香りがほのかに漂う、お店のような味になります。特に塩気のあるパンや、チーズ、トマトを練り込むパンとの相性は抜群です。
バターの代用として使う場合の分量は、サラダ油と同じくバターの80%〜同量が目安です。エキストラバージンオリーブオイルを使うと香りが強くなるので、香りを抑えたい場合はピュアオリーブオイルを選びましょう。
太白ごま油で無味無臭に仕上げる
パン作りやお菓子作りをする人の間で、バターの代用品として絶大な人気を誇るのが「太白(たいはく)ごま油」です。一般的な茶色いごま油とは違い、焙煎せずに搾っているため、色も透明でごまの香りもほとんどありません。
非常にクセがなく、サラダ油よりも酸化しにくいのが特徴です。素材の味を邪魔しないため、小麦の甘みをダイレクトに感じられる上品なパンに仕上がります。バターの代用として使うなら、これが一番違和感が少ないかもしれません。
マーガリンやショートニングとの違い
冷蔵庫にマーガリンがある場合は、それも代用可能です。マーガリンは植物性油脂に水分と乳成分を加えてバターに似せたものなので、バターとほぼ同量で置き換えられ、風味もバターに近くなります。
一方、ショートニングは植物油を加工して固形にしたもので、水分を含まない純粋な油脂です。無味無臭で、パンをサクサク、ふんわりと軽く仕上げる効果が非常に高いです。バターの代用にする場合は、バターの量の80〜90%程度で使うと良いでしょう。
代用するのに向いているパンと向かないパン

サラダ油は便利な代用品ですが、すべてのパンに適しているわけではありません。レシピによっては、バターを使わないと形にならなかったり、全く別物になってしまったりするものがあります。
食パンやフォカッチャなどのリーンな生地
食パン、丸パン、イングリッシュマフィンなど、比較的シンプルな配合(リーンな生地)のパンは、サラダ油での代用に非常に向いています。小麦粉、水、酵母、塩、少量の砂糖で作る生地にサラダ油を加えると、あっさりとして食事に合わせやすいパンになります。
特にフォカッチャやピザ生地は、元々オリーブオイルなどの液体油脂を使うのが本場流ですので、バターよりもむしろ美味しく仕上がることさえあります。
ブリオッシュやデニッシュなどのリッチな生地
逆に、バターを大量に使う「リッチな生地」のパンは代用が難しいです。例えばブリオッシュは、バターの風味とコクが味の決め手であり、大量の固形油脂が生地を支えています。これをサラダ油に変えると、油っぽくてベタベタした、重たいパンになってしまいます。
また、クロワッサンやデニッシュのように、バターを層状に折り込んで作るパンは、サラダ油では絶対に作れません。液体であるサラダ油は生地に染み込んでしまい、層を作ることができないからです。
菓子パンや惣菜パンでの使い分け
あんパンやクリームパンなどの菓子パンは、中身の味がしっかりしているため、生地をサラダ油で代用しても違和感が少なく、美味しく作れます。時間が経っても柔らかいので、おやつパンとしてはむしろ好都合です。
惣菜パン(ハムロールやウインナーパン)も、サラダ油との相性が良いです。特にマヨネーズやチーズを使うパンは油脂分が多いので、生地の油をサラダ油にしてあっさり仕上げることで、全体のバランスが良くなることがあります。
実際に代用して作るときの工程と混ぜ方のコツ

いざサラダ油を使ってパンを作ろうとしたとき、レシピの工程通りに進めていいのか迷うかもしれません。液体油脂ならではの扱い方のコツを知っておくと、作業がスムーズになります。
油脂を投入するタイミングの違い
通常、バターは生地をある程度こねてグルテンができてから投入します(後入れ法)。しかし、サラダ油などの液体油脂を後から入れると、生地の表面をツルツルと滑ってしまい、混ざるのに非常に時間がかかります。初心者はパニックになりやすいポイントです。
サラダ油を使う場合は、最初から水や粉と一緒に混ぜてしまうのがおすすめです。
「油脂を最初に入れるとグルテンができにくくなるのでは?」と心配されるかもしれませんが、家庭で作る分量(粉に対して5〜10%程度の油)であれば、最初から入れてもしっかりとこねれば問題なく膨らみます。作業のしやすさを優先しましょう。
ベタつきやすい生地の扱い方
サラダ油を入れた生地は、バターの生地に比べて少しベタつきを感じることがあります。こねている最中にどうしてもまとまらない場合は、叩きつけごねを控えめにし、手の中で転がすように優しくこねるか、ボウルの中で休ませながらこねてみてください。
どうしても扱いにくい場合は、打ち粉(分量外の強力粉)をほんの少し使うか、手に極少量の油を塗って作業するとスムーズです。
一次発酵から焼き上がりまでの注意点
発酵の工程では、バターを使ったときよりも若干膨らみが大人しくなることがあります。レシピ通りの時間で切り上げず、生地の大きさ(見た目で2倍程度)を目安に発酵時間を調整してください。
焼き上げの際は、バターを使ったときほど焼き色が濃くつかないことがあります。これはバターに含まれる乳成分がメイラード反応(焦げ目をつける反応)を促進するためです。サラダ油の場合は、焼き色が薄くても中まで火が通っていれば問題ありません。無理に長く焼くと乾燥の原因になります。
保存方法と温め直しのポイント
サラダ油で作ったパンは乾燥にやや弱いため、粗熱が取れたらすぐにビニール袋に入れて保存しましょう。翌日以降に食べる場合は、トースターで軽く温め直すと、表面のサクサク感と中のしっとり感が復活して美味しくいただけます。
サラダ油とバターの代用と分量を理解してパン作りを楽しもう

パン作りにおいて、バターがないからといって諦める必要はありません。サラダ油を代用することで、バターとはまた違った「冷めてもしっとり」「あっさりして食べやすい」という魅力を持ったパンを焼くことができます。
重要なのは、バターの約80%〜同量という分量の目安を守ることと、作るパンの種類によって向き不向きがあることを理解しておくことです。食パンや丸パンならサラダ油で十分に美味しく作れますし、フォカッチャのように液体油脂の方が美味しいパンもあります。
それぞれの油脂の特徴を知れば、自宅にある材料だけで気軽にパン作りを楽しめるようになります。ぜひ今回の記事を参考に、気負わず自由にパン作りを楽しんでみてください。




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